第13話 反撃しよう!
『ギャギャギャ!!』
エルダートレントは無数の根を操り、僕たちに叩きつけてくる。
アンナローゼさんは魔法でそれを防ぎ、エレオノーラさんは剣で弾いているけど、戦況はこちらが不利に見えた。
「攻撃が、激しい……!」
「くっ! なんて硬いんだこいつ!」
黒く変色したエルダートレントの表皮はかなり硬くなっているみたいだった。
エレオノーラさんは少しでも根を減らそうとしているけど、鋭利な剣でも斬ることは中々出来ず、弾くので精一杯みたいだ。
『ギャギャ……ギャ!』
根の一本が二人を避けるように動き、僕に襲いかかってくる。
どうやら僕なら簡単に倒せると踏んだみたいだ。
「危ないっ!」
「おい逃げろ!」
二人はそう叫ぶけど、僕は背を向けず迫りくる根をしっかりと見る。
この空間に逃げる場所なんてない。少し逃げれてもすぐ捕まってしまう。戦うんだ!
「自動製作、鉄壁!」
僕の身を守るように鉄の壁が出現する。
まっすぐ突っ込んできた根はその壁にガツン!! とぶつかり、止まる。ふう危ない、石の壁だったら破られていただろうね。
「僕がトレントの注意を引きます! お二人は隙を見て攻撃してください!」
僕はそう言ってトレントの前に行く。
素材なら村からたくさん持ってきている。ここが使いどきだ!
「自動製作、大砲! からの……兵士ゴーレム!」
連続で自動製作を発動して、二門の大砲と六体の兵士ゴーレムを作り出す。
大砲は城壁に備え付けてある大型の物。兵士ゴーレムは成人男性と同じくらいの背の高さのゴーレムで、鉄製の剣と盾を装備している。
どれも村の防衛で使っているものなので、クラフトするのには慣れている。
「お願い! 力を貸して!」
僕の呼びかけに応え、六体の兵士ゴーレムは動き出す。
二体は大砲に操作し、残りの四体は剣と盾を手にトレントに襲いかかる。
『ギャギャ!?』
トレントは突然出てきたゴーレムたちに困惑しながらも、根で応戦する。
しかしゴーレムたちはその攻撃をかいくぐりながらトレントと渡り合っていた。
兵士ゴーレムの戦闘力はBランクの魔物と同じくらいだ。Sランクの瘴気エルダートレントには遠く及ばない。
だけど彼らは硬い体と高い連携能力がある。そう簡単にはやられないはずだ。
そしてトレントが苦戦している間に、次の攻撃が発動する。
「大砲、発射!」
僕の声と同時に二門の大砲が火を吹く。
大砲自体は特別な物じゃないけど、砲弾はかなり高威力の物を作っておいた。それを二発近距離で食らったトレントは苦しそうに『ギギ……』と呻く。
よし、食らっているみたいだ。
「す、すごい……」
「まさかこれほどの力を持っているとは……」
「お二人とも、今の内に!」
呆気にとられていたアンナローゼさんたちにそう言うと、二人はハッとして動き出す。
「私が斬ります! 姉様は援護を!」
エレオノーラさんが凄い勢いで駆け出す。
続いてアンナローゼさんが魔法の準備をする。
「火よ起これ! 風よ舞え! 二重魔法、炎嵐!」
魔法が発動すると巨大な炎の竜巻が出現し、トレントに命中する。
凄い威力だ、離れている僕にも熱が伝わって来る。
『ギギ……』
さすがのエルダートレントも炎の勢いに押されて怯んでいる。相手は植物、火に弱くて当然だ。
その隙を突き、エレオノーラさんが斬りかかる。
「食らえ……これが我々エルフの受けた痛みだッ!」
鋭い剣閃が走り、トレントの黒い表皮に突き刺さる。
だけど……剣はその表面に傷をつけただけで深いダメージを与えることはできなかった。あの一撃でも斬れないなんて、なんて硬いんだろう。
『ギギ……ギギィ!』
トレントは歪んだ笑みを浮かべると、その根を素早く動かしエレオノーラさんに襲いかかる。
彼女は引いてそれを回避しようとするが、根はしつこく彼女を追って捕まえてしまう。
「こ、の……!」
黒い根がエレオノーラさんの体を強く締め付ける。太ももや腰に根が深く食い込み、かなり痛そうだ。
「エレナ! 今助けます!」
それを見たアンナローゼさんが助けに入ろうとするけど、再び根が素早く動いてアンナローゼさんにも巻き付いてしまう。妹が捕まったことで油断してしまったみたいだ。
「う、く……」
「この、姉様、まで……っ!」
根に巻き付かれたまま、宙吊りになる二人。
このままじゃマズい。兵士ゴーレムが根を切ろうと頑張っているけど、鉄製の剣じゃ刃が立たない。僕の持っている武器でなんとかしないと。
僕は神の鍬を強く握りしめ、根に叩きつける。
「えいっ!」
神の鍬は根に傷をつけるけど、斬り裂くことはできなかった。
鍬じゃ駄目だ。もっと鋭利な武器じゃないと斬ることが出来ない。オリハルコンナイフを使うことも考えたけど、あれじゃ根を一本ずつしか斬れない。
もっと大きくて、広い範囲を斬らなくちゃ。
僕は考え……そして一つの回答にたどり着く。
「女神様、使わせていただきます!」
次元収納から取り出したのは、棒と神金属。
武器がないなら作ればいい。相手に応じて物を作れるのが自動製作の強みだ。
神金属を使っちゃうのは少しもったいないけど、今が使い時だ。
「自動製作、神の斧!」
神金属が白く輝き、そして収まるとそこには光り輝く見事な『斧』が生まれていた。斧は大きく、木を切り倒せるくらい立派な刃をしている。
「くらえっ!」
斧を振りかぶり、思い切り振るう。
するとあれだけ硬かった根がスパンッ! と簡単に斬れてしまう。
根から解放された二人が着地する。少し痣にはなっているけど大きな怪我はしてなさそうだ。
「なんて凄い……。ありがとうございます、テオドルフ様。エレオノーラもお礼を言いなさい」
「あ、ああ。か、感謝する……」
エレオノーラさんはなぜかぽーっとした表情で僕のことを見つめてくる。
顔も赤いけど大丈夫かな? 毒とか食らってないといいけど。
「この斧で一気に勝負をつけます。援護をお願いしてもいいですか?」
尋ねると二人は力強く頷く。
よし、今度こそトレントを倒すぞ!




