第26話 アダマンタートル戦 4
テオドルフと別れたレイラ、アリス、ゴーム、ガルムの四人はそれぞれアダマンタートルの四本の足に向かう。
その間にテオドルフはシルクに乗ってアダマンタートルの腹の下に向かう。
頭上にはひび割れた大きな甲羅がある、後は仲間が役目を果たしてくれるのを待つだけだ。
「頼んだよ、みんな……!」
彼の立てた作戦には四人全員の協力が不可欠だった。
その期待に応えるため、四人は全力で与えられた役目を遂行する。
「食らいなさい! 大勇斬!」
アリスが叫びながら、アダマンタートルの右前足を斬りつける。
勇者には女神より与えられた『神力』が宿っている。それを込めた斬撃の威力は人知を超えたものとなる。
アダマンタートルの足には深い傷が入り、血が吹き出る。
『ガアアアアアアッ!?』
叫びながら体勢を崩すアダマンタートル。
その隙を見逃さずレイラも追撃をする。
「オルスティン流剣術――――銀閃・三連華」
目にも留まらぬ速さで放たれる、三つの剣閃。
それらは一つに重なり、アダマンタートルの左後足に同時に打ち込まれる。
『ゴアッ!?』
今度は左後足を深く斬られ、体勢を大きく崩す。
元気なのは左前足と右後足のみ、その二点を攻められれば立っていられなくなるだろう。
「ゴーッ!!」
「ガウッ!!」
その二箇所には、すでに二人のゴーレムが向かっていた。
一番体の立派なゴームの右腕には、大きな杭のような武器がついている。それは先程テオドルフに作ってもらった、ゴームの新しい武器だった。
ゴームはその先端をアダマンタートルの右後足に当てて、それを起動する。
「ゴーーッ!!」
装置が起動すると、杭が高速で回転し、そして超高速で射出される。
それはいわゆる『パイルバンカー』と呼ばれる武器であった。硬い杭を魔力による爆発で射出し、対象に穴を開ける特殊な武器だ。
射程は短く、反動も物凄いというピーキーな性能をしているが、その威力は凄まじい。パイルバンカーを打ち込まれたアダマンタートルの足は大きく負傷し立っているのが困難になる。
これで三本の足が損傷したことになるが、まだアダマンタートルはギリギリ立っていた。
負傷した足に力を入れ、必死に堪えている。矮小な人間の攻撃で倒れることはプライドが許さなかった。
しかしそんなアダマンタートルにトドメを刺すように、元ゴブリンキングのゴーレム、ガルムが唯一負傷していない左前足に向かって、手にした大鉈を振るう。
「ガウッ!!」
大鉈がアダマンタートルの足に命中する。
だが……その一撃は表皮をわずかに傷つけただけで、十分なダメージを与えるには至らなかった。
「ガ……ッ!?」
驚きと悔しさを滲ませた声を出すガルム。
確かにガルムは強いゴーレムだ。しかしレイラやアリスといった一流の戦士からには及ばない。ゴームは新武器のおかげでなんとかなったが、ガルムの大鉈ではアダマンタートルの防御力を貫通することができなかった。
異変を察知したレイラとアリスは、ガルムのもとに向かおうとする。
しかしそうすればその間につけた傷が塞がってしまうだろう。アダマンタートルは防御力だけでなく再生力も非常に高いモンスターなのだ。
どうする、どうすればこの場を切り抜けられる。
悩む一同を救ったのは、意外な人物だった。
「この足を切ればいいんだな? 任せておけ」
現れたのは、フェンリルのルーナであった。
彼女はいつもの人型ではなく、巨大な狼の姿となっており、その鋭い爪でアダマンタートルの足を切り裂いた。
「我が目立つとよくないものに目をつけられるが……まあ足の一本くらいであれば大丈夫だろう。後は任せたぞ、テオドルフ」
四本の足、全てに大きな損傷を負ったアダマンタートルは、自分の重さを支えきれなくなり、その体を地面に落下させる。
そしてその真下には、テオドルフがいる。
まるで空が落ちてくるかのような感覚を、彼は覚えていた。
「みんなありがとう、後は僕が……!」
ひび割れた甲羅が物凄い勢いで落下してくる。
これこそがテオドルフが立てた作戦でもっとも大事な場面だった。
落下してくるアダマンタートルの甲羅の裏側は、砲弾のせいでヒビが入っている。
その場所に狙いを定めて、テオドルフは自動製作を発動する。
「自動製作、鉄塔!!」
貴重な鉄を使い果たし、テオドルフは巨大な鉄の塔を作り出す
その姿はもといた世界に存在する大きな鉄塔『東京タワー』に似ていた。
素材が足りないせいでその大きさは本物より小さめだが、その先端の鋭さは変わらない。
異世界生まれの東京タワーは落下してきたアダマンタートルのひび割れた甲羅にぶつかると、そのまま体内に突き刺さる。
『ガアアアアアアッ!!』
大きな断末魔を上げたアダマンタートルは、そのままぐったりと崩れる。
強大な生命力を持つアダマンタートルでも、流石に耐えきれなかったようだ。
「やっ……た」
それを見たテオドルフは、そう呟きながらゆっくりと地面に倒れる。
大きくて複雑な物を作るほど、体にかかる負荷は大きい。地竜と飛竜との戦いからほぼ休みなしで動いていたのもあって、テオドルフには疲労が溜まっていた。
ゆっくり閉じていく視界の端で、レイラとアリスが向かってくるのを見ながら、テオドルフは意識を失うのだった。




