第5話 二人の女神
遥か上空に浮かぶ無数の雲。
それを更に超えた所に存在するという、神々の住まう土地『神界』。
どこまでも白の景色が続くそこで、一人の美しい女性が水晶を見ながらおおはしゃぎしていた。
「凄いテオくん! まさかそんな使い方をするなんて!」
テオドルフに『自動製作』の力を与えた女神は、テオドルフの活躍を神界から見守っていた。今まで接触するのを避けるため、断腸の思いで見ずにいたが一度接してしまったらもう関係ないとばかりに、その活動を見守り続けていた。
「……騒がしいな。なにをしているんだい、ヘスティア?」
そんな女神に近づく、一人の女性の姿があった。
中性的な印象を受けるその女性もまた、女神と同じく見目麗しかった。人の多い王都でもこれほど美しい女性を見かけることはないだろう。
ヘスティアというのはテオドルフに力を授けた女神の名だ。
その名前は遥か昔は地上にも知られていたが、長い歴史の中で失われてしまっている。
「あ、聞いてよアテネ! テオくんったら凄いのよ!」
「テオくん? ……ああ、君が連れてきた異世界人か。あまり干渉するのはよくないんじゃないか?」
アテネと呼ばれた女性は苦言を呈する。
彼女もまた、ヘスティアと同じく女神であった。
おっとりしているヘスティアと、しっかり者のアテネ。
性格は正反対の神だが、二人の仲はとても良かった。
「テオくんは推しだからいいの!」
「推し、ねえ。また異世界から変な言葉を学んで」
「それより見てよアテネ! テオくんったら私があげた神金属で鍬を作ったのよ! それで瘴気の大地を浄化してるの!」
「神の武具を作り出せる神金属で農具を作るなんて……驚きだ。異世界人の発想は実に独創的だ」
「でしょでしょ! やっぱり私の目は間違いじゃなかったわ!」
得意げに胸を張る女神ヘスティア。
ばるんと大きく揺れる胸を見て、アテネは一瞬だけ羨ましそうな表情を浮かべる。
「そういえばなんで彼を選んだんだい? 前の世界では普通の人間だったそうじゃないか」
「私があっちの世界に時々行っているのは知ってるでしょ? その時は猫の姿をしているんだけど、うっかり車に轢かれそうになっちゃって……その時に彼が助けてくれたの! あの時はかっこよかったわ! それに小さい頃の姿を覗いたら可愛かったし……これはぜひお礼しなきゃと思ったの!」
「ずいぶん私情が挟まっていそうだね……」
呆れた顔をするアテネ。
そんな彼女にヘスティアは唇を尖らせて抗議する。
「なによ、アテネだって『勇者』には可愛い女の子ばっかり選んでいるじゃない」
「それはたまたまだよ。勇者の力に適合する子がたまたまみんな可愛いだけだ」
「本当かしら……?」
じー、と怪しげに視線を送るヘスティアから、アテネは目をそらす。
「とにかく、この子の今後の動きからは目を離せないね。この子は私の可愛い勇者とも縁があるみたいだしね」
「え? そうなの? いったいどういう関係なの?」
「ち、近い! 離れてくれ!」
テオドルフの事となると見境なくなるヘスティアは、アテネに詰め寄るが、押し返されてしまう。アテネは戦を司る女神、ヘスティアより力が強かった。
「あの子を観察していればその内分かることさ。ま、楽しみにしているといい」
「むー、アテネのケチ。いいもん、ずっと見てるから」
ぷい、とそっぽを向いたヘスティアは、再び水晶に視線を移す。
「頑張ってねテオくん。応援しているから」
遥か空の果てで、女神はそう応援を送るのだった。
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