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第4話 加護をもらおう!

 一触即発の空気。

 レイラとルーナさんは今にも戦い始めそうだ。


 ルーナさんの実力は知らないけど、伝説の狼『フェンリル』が弱いはずがない。レイラと互角かそれ以上の実力があるはずだ。

 この二人が戦ったらせっかく形になり始めたこの村が壊滅するのは想像に難くない。絶対に止めないと。


「待ってレイラ! この人は知り合いなんだ!」


 僕はレイラにルーナさんのことを紹介する。

 彼女は伝説の狼フェンリルであること。レイラがいない時に出会って顔見知りであるということ。彼女に敵意はなく、お礼しに来てくれただけということ。


 それらを全て聞いたレイラは「分かりました」と短く返事をする。

 ほっ、良かった。分かってくれ……


「つまりぽっと出の泥棒狼ということに変わりはないということですね。お礼と称してテオ様の艷やかで蠱惑的な唇を奪おうとするとはなんと罪深い。極刑に値します」

「だめだ、分かってない……」


 冷静な表情をしているけど、レイラは完全に暴走している。

 ルーナさんも「なんだ。早くかかってこい」と楽しんでいるし収集がつかない。


「る、ルーナさんもなにか言ってくださいよ!」

「ははっ、分かった分かった。少し遊びすぎたな。いいだろう、説明しようじゃないか。我がテオドルフと口づけしようとしたのは『加護』の更新のためだ」

「加護……?」


 レイラは首を傾げる。

 当然レイラは僕が『神狼フェンリルの加護』を貰ったことを知らない。でも『更新』ってなんのことだろう。そっちは僕も把握してない。


「我は昨日テオドルフに加護を与えた、頬に口づけをしてな。だが加護はそう簡単に定着はせぬ。日を空け、繰り返し行うことでようやくその身に真に宿るのだ」


 なるほど、そういうことだったんだ。

 僕は納得できたけど、それを聞いたレイラは「テオさまの白磁の頬をすでに汚したとは……許せない……」と恐ろしい目をしながらバチギレている。

 これ、どうやったら収集つくの?


「それにいきなり加護の力を全て渡したら、体が耐えきれぬ可能性もある。まずは頬で少しだけ渡し、次は口から前回よりも多くの加護を渡す。我の先祖も昔から見込みのある人間にそうしてきた。ふふ、まさか私も加護を渡すに相応しい者に出会えるとは思わなかったぞ。諦めずに生きてみるものだ」

「……最期の言葉はそれで十分でしょうか? 終わったのなら始めましょう」


 レイラは殺意MAXで剣を構える。

 腰に手を回してそれを止めようとするけど、レイラの体幹は凄まじく僕の力じゃ止まる気配がない。

 どうしようと思っていると、ルーナさんが「くくっ」と楽しげに笑う。


「なにをそんなに怒っているのかと思えば……妬いておるのか? お主もたいがいい奴だな」

「ち、違います。私はテオ様を守ろうと……」

「そう照れるな。主人の唇を先に奪われるのが嫌であるなら、お主が先に奪ってしまえばよい」

「なにを馬鹿なことを。理由もなくそのようなことができるわけ……」

「理由ならある。なぜならお主も『加護』を他人に与えられる資格を持っているからだ」

「な……っ!?」


ルーナさんの言葉に僕とレイラは驚く。

 女神様とフェンリルのルーナさんが加護を与えられるのは想像がつく。だけどレイラまでそれができるってどういうこと?


「見れば分かる。お主の強さは人間の域を超えておる。そういった人間には僅かだが『加護』の力が宿るのだ。そしてその力は我らと同じ様に他者に分け与えることができる」

「つまり私の力の一部を、テオ様に差し上げることができるということですか?」


 レイラの言葉にルーナさんは頷く。


「ああ。ちなみに分け与えるには、その者のことを強く想ってなくてはいけないが……まあその点は心配しなくて良さそうだな。ほれ、我は順番など気にせぬからとっとと済ませるといい」


 ……なんだかとんでもないことになってきたぞ。

 ルーナさんだけでなくレイラともキスを? レイラだってそんな急にしろと言われても嫌だろうし……と思って彼女を見てみると、


「テオ様……優しくしてくださいね……」


 既にスタンバイが終わっていた。

 頭の位置を下げ、目を閉じて今か今かと待っている。あまりにも準備が速すぎる。


 僕だって男の子だ。レイラみたいな綺麗な人とキスできるなんて嬉しくないわけじゃない。

 でもこんな流れで、しかもレイラの気持ちを無視してなんてできるはずがない。

 ちゃんとレイラの気持ちを確認しないと。


「レイラ? 嫌だったらやめていいんだよ?」

「嫌だなどとんでもございません。私はテオ様に仕えると決めたあの日から、身も心も全て貴方に捧げると決めました。テオ様がよろしければ……ぜひ私にもご寵愛をください」

「レイラ……」


 ……まさかここまで僕に尽くそうとしてくれているなんて。


 見ればレイラの肩は少し震えている。

 レイラも緊張しているんだ。ここは主人として腹をくくらないと。

 僕は意を決して彼女の両手に手を置き、ドキドキしながら唇同士を触れ合わせる。


「ん……♡」


 唇に柔らかい感触がして、レイラの口から甘い声が漏れる。

 今の人生はもちろん、前世でも女性とキスをしたことなんてないので頭がおかしくなりそうになる。心臓もバクバクで爆発しそうだ。


 唇を重ねること数秒。もう加護は移ったかなと思ってゆっくりと顔を離す。

 やばい、顔が熱い。レイラは大丈夫かなと見てみると、彼女はキスをしていた時の顔から一切変わっていなかった。


「……ん?」


 よく観察するとおかしい。

 もう顔を離しているのにレイラはぴくりとも動いていない。

 どうしたんだろうと更に観察した僕はあることに気がつく。


「き、気絶してる……」


 なんとレイラは立ったまま気を失っていた。

 まさかのことに驚く僕。一方ルーナさんは「ははっ! ほんとに面白い奴だのう!」と楽しげに笑うのだった。

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