第7話 第三の目
「なっ、食べた!?」
瘴気の塊を食べるなんていったいどういうつもりだと思っていると、ガーディアンフィッシュの体に変化が生じ始める。
銀色の鱗が全て黒く変色し、体中から鋭利なトゲが生える。体は更に巨大化し、顔は更に恐ろしくなる。
最後に額に黒く血走った巨大な『目』が出現し、変化は終わる。
そこには今までの姿より恐ろしい姿になったガーディアンフィッシュがいた。前の面影はなく、非常に凶暴な顔をしている。
「ナディア様、あれは……」
「あいつ、瘴気を取り込んだな。一体化することでパワーアップしたんだ」
瘴気の源を取り込んだガーディアンフィッシュは、体から大量の瘴気を流し海を汚染しており、瘴気の源の力を継承していた。
新たなガーディアンフィッシュは自らに害なす二人の女性に目を向けると、第三の目を開眼する。
「があ!?」
「ぐ……っ!」
途端二人の体が激しく痛み、顔を歪める。
それは二人に刻まれた刻鎖の呪いが活性化したことによる痛みだった。
「この呪いは奴が原因だったのか……!」
ナディアはガーディアンフィッシュの額にある、第三の目を睨みつける。
彼女の推察は正しく、瘴気の源こそが呪いを発生させた原因であった。ガーディアンフィッシュはそれを飲み込み同化したことで、呪いの力を行使する権限を得た。
「ぐ、あ……っ!」
全身を襲う激しい痛み。
ナディアとエレナは意識を失わないようにするのが精一杯であった。戦うことはできず、ただ耐えることしかできなかった。
そんな彼女のたちのもとに、ゆっくりとガーディアンフィッシュが近づいてくる。
「く、そ……! 私が力の半分でも使えればこんな奴……!」
ナディアの言葉通り、海神竜の力を半分でも行使できれば、彼女はガーディアンフィッシュを消し飛ばすことができた。
しかしそれをすれば封印されているハデスを刺激し、復活させてしまうかもしれない。
そうなれば、地上は再び地獄と化す。
それだけはできなかった。
(今地上にはテオドルフたちの村があるらしいからな。それを危険に晒すことはできない……)
ナディアは表情が薄く、昔は薄情に見られることも多かった。
しかし彼女はとても優しい性格の持ち主であった。仲間の危機を見捨てることができず、戦の時は前線でその身を張り続けた。
彼女が故郷の海を去ったのも、汚された故郷を見ていることに耐えられないからであった。
新しく仲間を作らなかったのも、また仲間を失うのが怖かったからであった。
テオドルフから死の大地に人が戻りつつあると聞いた時、ナディアは心の中でとても喜んでいた。もしかしたら、故郷が復活するかもしれない。そう考えるだけで心が温かくなった。
しかしハデスが復活すれば、その夢も泡沫に消えてしまう。
『ギギ……』
醜悪な笑みを浮かべるガーディアンフィッシュ。
視界の端ではたくさんのサハギンが部屋に入ってくるのも見えた。どうやら侵入者を察知して、集まってきたようだ。
まさに絶対絶命。八方塞がりの状況であった。
「く、そ……っ」
悔しさを顔に募らせるナディア。
そうしている間にもガーディアンフィッシュは近づいてきており、彼女を捕食するためにその大きな口を開く。
「ここまで、か……」
ナディアが諦め、全身の力を抜いたその瞬間、彼女たちがいる空間に声が響く。
「――――させるか! くらえ!」
聞き覚えのある少年の声と共に、なにかがガーディアンフィッシュめがけて投擲される。
くるくると回りながら飛来したそれは、ナディアを食べようとしていたガーディアンフィッシュの額、つまり第三の目がある場所にヒットし、突き刺さる。
『……ギィ!? ギアアアアアッッ!!!!!?????』
突然の激しい痛みに絶叫し悶えるガーディアンフィッシュ。
それと同時にナディアを襲っていた呪いの痛みが解け、体の自由を取り戻す。
「いったいなにが……」
「大丈夫ですか! ナディアさん!」
ナディアのもとに泳ぎ寄って来たのは、行方不明になったテオドルフであった。
彼の顔を見たナディアは、彼の無事を喜び、そして彼が自分を救ってくれたことに驚き、そして感謝した。
「助けに、来てくれたのか……?」
「はい! 当然です! 僕たちは仲間ですからね」
「仲間……ああ、そうだな」
懐かしい響きを聞いたナディアは、薄く微笑む。
千年に及ぶ長い孤独を味わってきた。
しかし彼女は、もう一人ではなかった。
「それに仲間は僕だけじゃないんですよ」
テオドルフが言うと、たくさんの魚人たちがナディアの周りに現れる。
全員が武器を手にしており、目に闘志を宿している。
「魚人!? お前が仲間にしたのか?」
「はい。みんなと戦えばきっと勝てます」
テオドルフは言うと、こちらを睨みつけているガーディアンフィッシュに視線を移す。
第三の目を攻撃されたガーディアンフィッシュは怒りに満ちた恐ろしい表情を浮かべている。
しかし既にいくつもの死線を潜り抜けてきていたテオドルフは、少しも怖気付いていなかった。
「さあ、反撃開始です!」




