第5話 魚人の王
「え!? お、王様なんですか!?」
レオニスと名乗ったその人は、自分を魚人の王と言った。
しかも海底遺跡の主人とも言ってたけど、どういうことだろう? 僕は捕まっている他の魚人たちを助け出した後、それを尋ねる。
「この海底遺跡はあなたたちのものなんですか?」
「ああ。我らは元々、この海に住んでいた。しかし瘴気がひどくなり、他の海で暮らしていたのだ。しかし故郷が恋しくなり、数年前この海に戻って来たのだ」
そうだったんだ。じゃあナディアさんと同じだね。
やっぱり故郷を簡単に捨てることはできないみたいだ。
「我らは瘴気の影響が薄い場所を見つけ、そこに都市を築いた。それがここだ。しかし都市の完成を目前にして、ハデスの手下に襲われ、都市を丸ごと奪われてしまった。……それからずっと我らは奴隷のごとき扱いを受けている」
レオニスさんは怒りに震えながら語る。
こんな立派な建物、どうやって立てたのかと思ったけど、レオニスさんたちが作ったものだったんだ。
ハデスの手下はそれを奪って瘴気を撒く施設に変えてしまった。なんてひどい奴らなんだ。
「ところでテオドルフ殿。そなたは何者なんだ? 見たところ人間に見えるが、なぜ水の中で息ができる?」
「ああ、それはですね……」
僕は自分のことを説明する。
この領地を開拓していること、海の調査に来たこと、ナディアさんと一緒にこの遺跡の瘴気を止めようとしていること、全てを話した。
「なんと、そんなことが……! まさかこのような海底に来てくれる人がいるとは思わなかった。それにナディア様もいるとは心強いな」
「ナディアさんを知ってるんですか?」
「ああ。私は会ったことがないがな。ハデスの手下との対決で命を落とした父上は面識があったと聞く」
「そうだったんですね……」
考えれば彼らとナディアさんは千年前、この海域に住んでいた。
知り合いだとしても不思議ではない。
それにしても父親が千年前に生きていたなんて、魚人は長命なんだね。
「今まで大変でしたね、レオニスさん。でも安心してください。僕たちは必ずハデスの手下を倒し、ここを取り戻してあなたたちにお返しします」
「それは嬉しいが……いいのか? そんな親切にしてもらっても、今の我らに返せる物はないぞ」
レオニスさんは不安そうな表情をする。
あまりにも自分たちに都合が良すぎると思っているのかもしれないね。
海を綺麗にすることが目的だから別に無償でいいんだけど、それだと不審に思っちゃうんだったら、なにか条件を付けようかな。
「そうですね……じゃあ、全てが終わったら僕たちと同盟を結んで、交易して下さい! 僕の作った村が近くにあるのですが、そこのみんなが魚を食べたがってるんです」
僕の言葉を聞いたレオニスさんは「魚……?」と首を傾げる。
「はい! 海が綺麗になったら、海の美味しいものを食べさせてください! それで十分です!」
「はは……そんなことでいいとは、欲のない人だ。分かった、任せてくれ。このレオニス、王の名において約束を守ることを誓おう」
「ありがとうございます!」
僕とレオニスさんは固く握手する。
やった。また仲間が増えたぞ。後はこの海底遺跡を攻略するだけだ。
「瘴気の源はこの道を進んだ先にある。そしてそこには恐ろしい化物が番人として待ち構えている」
「化物、ですか?」
「ああ。ハデスの手下であるそいつは、恐ろしい力を持っている。父上は屈強な戦士だったが、そいつに殺されてしまったのだ」
「そうだったんですね……」
僕は世界樹に巣食っていたモンスター、エルダートレントを思い出す。
あいつもかなりの強敵だった。それと同じくらい強い相手がいるのかもしれない。
「テオドルフ殿。どうか我らも一緒に戦わせてほしい。足を引っ張ることはしないと約束する。外から来た者に任せて逃げるなど、絶対にできないのだ」
レオニスさんがそう言うと、他の人たちも頷く。
怪我をしている人たちもいるのに、凄い覚悟だ。これだけ痛めつけられても戦う意志が残っているなんて。
きっと僕が断っても彼らは戦うだろう。だったら、
「分かりました。一緒に戦いましょう」
「かたじけない。皆の者、仲間の敵討ちだ! 抜かるなよ!」
レオニスさんが言うと、彼の仲間が「オォー!!」と吠える。
凄い気迫だ。これは心強いね。
レオニスさんはサハギンが落とした槍を拾うと、僕の隣にくる。
「それでは行こう。武器はこれくらいしかないが、役に立てるはずだ」
「あ。それなら僕が用意しますよ」
僕はそう言って人数分の武器を自動製作で作成する。サハギンの槍も改造してレオニスさんの使いやすい長さにして切れ味も上げておく。
これでみんな思い切り戦えるはずだ。
「凄まじい……! これほど見事な武器を一瞬で……!? やはりテオドルフ殿はただ者ではないな」
「そんな、おおげさですよ。それより行きましょう!」
こうして新たに二十人ほどの魚人たちを仲間にした僕は、海底遺跡を進むのだった。




