第5話 食いしんぼうのリヴァイアサン
『もぐもぐもぐもぐやはりこれは美味いなもぐもぐもぐ』
「はは……それは良かったです」
突然現れた海竜は、僕があげたムーンフルーツを美味しそうに食べる。
ど、どんな状況なの? 襲われた方がまだ納得できるんだけど。
「これはどうしたらよいのでしょうか……」
「ひとまず敵意はなさそうだよね。ひとまず僕が話してみるよ」
レイラにそう言って、僕は海竜のもとに一歩近づく。
すると海竜はその大きな体を動かして、頭部を僕の方に近づけてくる。
凄い迫力だ。もし海竜がその気なら僕なんて一口でぺろりと食べてしまうだろうね。
『美味かったぞ人間。こんなに美味いものを食ったのは久しぶりだ、礼を言う』
「それは良かったです。僕はテオドルフというのですが、あなたはなんとお呼びすればいいですか?」
『私の名はナディア。偉大なる存在、神獣が一、海神竜のナディアだ。覚えることを許そう』
「え……!? し、神獣!?」
それを聞いた僕は驚く。
神獣とは神の力を分け与えられた生物のこと。強力な力を持っていて、その力は神に比肩すると言われている。
僕の村には同じく神獣の神狼のルーナさんや子どもの神狼がいて、他にはこの前仙狐のタマモさんに会ったばかりだ。
言葉を理解していたからただの海竜じゃないとは思っていたけど……まさかこんなところで他の神獣に会うなんてびっくりだ。
ルーナさんも知ったら驚くだろうね。
「海神竜……聞いたことがあります。海に棲む海竜の頂点に位置する存在で、船乗りの間でも恐れられているとか。体を揺らすだけで大波が立ち、その咆哮は嵐を起こし雷を落とすといいます」
『その通り。私は凄いんだ』
レイラの言葉に、得意げにするナディアさん。
この人、見た目はおっかないけど意外と取っ付きやすい人なのかも。なんだか急に仲良くなれそうな気がしてきた。
『テオドルフと言ったか? さっきのはもっと無いのか?』
「ムーンフルーツのことですか? まだありますけど、ナディアさんからしたら量は少ないかもしれませんね……」
『それなら心配いらない。私が小さくなればいいだけのことだ』
「え?」
どういうことですか、と聞く前にナディアさんは陸の方に進んでくる。
そして完全に陸に上がるかと思ったら、その瞬間体がするすると小さくなり、形も変わっていく。
ものの数秒で海神竜の巨体は縮み、そしてナディアさんは人間の姿に変わってしまう。
「この姿になるのは久しぶりだな。これならたくさん食べられる」
人間の姿へと変身したナディアさんは、とても美しい女性だった。
綺麗な長髪は深い青色をしていて、目は鋭くて野生味を感じる。髪の隙間からは海神竜のヒレのようなものが生えていて、お尻からは太い尻尾がゆらゆらと垂れている。
「どうしたテオドルフ。私の顔になにかついているか?」
「あ、いえ。なんでもないです……」
「そうか。もじもじして変なやつだな」
僕がナディアさんとそう話していると、レイラが隣で慌て始める。
「これは……まずいですね……」
「レイラさん、いったいどうされたんですか?」
レイラの尋常ではない様子に、アンナさんは不安そうに尋ねる。
一体どうしたんだろうと思っていると、
「テオ様は長身のお姉さんが大好きなんです。ミステリアスでクールだと更にベスト……あのナディアという方はテオ様のドストライクと言っていいでしょう。クール・ミステリアス部門では私が優勝だと思っていましたが、これは強力なライバルが現れてしまいましたね……!」
僕は心の中でずっこける。
いやなにを真面目な顔して話してるの!? しかもそんな恥ずかしいこと話さないでほしい!
アンナさんも呆れるに違いない。
「なんと……! それは由々しき事態ですね。対策を立てなければ……!」
アンナさんも同レベルだった。
二人してどんな会話をしているの……。
それに僕が長身のお姉さんが好きなんて決めつけないでほしい。
確かにナディアさんはすらっとしていて背も高くて格好いいお姉さんって感じだ。魅力的な女性と言っていい。
でもそれは僕のタイプだからってわけじゃなくて、第三者目線で魅力的なだけで……って、なんだか言い訳みたいになってない?
自分のなにかを自覚しちゃいそうだから、これ以上考えるのはやめておいた方がいいかもしれない。
「テオドルフ。フルーツくれないのか……?」
「あ、すみません! はい、いくらでも食べてください」
「おおこんなに。お前はいい奴だな」
ナディアさんはそう言って薄い笑みを浮かべると、ムーンフルーツをもぐもぐと食べ始める。
なんか見てて飽きない、面白い人だ。
「テオ様。初対面の方に手を出してはいけませんからね」
「僕のことなんだと思ってるの!?」
レイラにそう反論する。
まったく、人をなんだと思っているんだか。




