第4話 海を調査しよう!
「着いたー! 海だ!」
線路を伸ばしながら進むこと数十分。
僕たちはついに海に到着する。
王都にいた頃はあまり海に行くことはなかったので、なんだかテンションが上がってしまう。海は人を楽しくさせる力があるね。
「今日はいい天気だし、絶好の海日和だね。まあ瘴気さえなければ、だけど……」
僕は黒く濁った海を見ながら、肩を落とす。
想像していた通り、海は瘴気に汚染されていた。海は広いので川ほど澱んではいないけど、それでも結構黒い。この瘴気が川に流れ込んでいたんだね。
「これじゃあ水の中を調査するのは難しそうだね。どうしようか」
「瘴気が溜まっているのは海の表面だけかもしれません。これで中を調査してみてはどうでしょうか?」
アンナさんは荷物の中から長い棒を取り出して、僕に見せる。
その棒には長い糸が付いていて、その先端にはフック状の針が付いている。
アンナさんが取り出したのは、釣り竿だった。
「里にいた頃はよく釣りをよくしていたのですよ。魚が生息している川が近くにあったのです」
「姉様は釣りが上手いんだぞ。小さい頃はよく二人で行ったが、姉様はいつも籠をいっぱいにしていた」
「ふふ、懐かしいですね」
二人は笑いながら昔のことを話す。
本当に二人は仲がいいね。僕はパトリック兄さん以外とは良好な家族関係を築けていないので、少し羨ましくなる。
それにしても釣りかあ。
この海にどんな魚が棲んでいるのかを調べることができるし、いいアイディアかもしれない。僕やレイラの釣り竿はクラフトすればいいしね。材料は棒と糸と針用の金属があればいいだろうし、簡単に作れそうだ。
「それじゃあまずは釣りをしてみよっか。僕は初心者だから教えてもらえると助かります」
「はい♪ 手取り足取り教えて差し上げますね♪」
こうして僕たちは並んで釣りを開始するのであった。
◇ ◇ ◇
「……釣れない」
僕はぴくりとも動かない釣り竿を眺めながら呟く。
釣りを開始して三十分くらい経ったけど、僕の針は一度も揺れなかった。
しかしこれは海に魚がいないというわけじゃなくて、
「あ! また釣れました!」
「さすが姉様。腕は落ちていませんね」
「ふふ、運がいいだけですよ。エレナだってちゃんと釣れているじゃないですか」
僕以外の人は全員魚が釣れていた。
レイラとエレナさんはそれぞれ四匹、アンナさんに至ってはもう十匹近く釣っている。僕だけまだ釣り竿にかかってすらいない。
ここまで釣れないともはや才能だ。そういう星の下に生まれてしまったのかもしれない。
「場所が悪いのかな。ちょっと移動し……」
「あっ、また釣れました」
僕のすぐ横でレイラがまた釣り上げる。
釣り竿にかかっていたのは風船魚という、その名の通り風船みたいにまん丸なフォルムの魚だ。
この海によくいる魚らしくて、すでに何匹か釣れている。
風船魚は、釣るとプクッと膨らんで威嚇してくる。
フグに似ているけど、毒はないようで美味しく食べられるらしい。村に帰ったら調理して食べてみようかな。
「うう、場所のせいじゃないかあ。どうしたらいいんだろう」
「えっと……エサを変えられたらどうですか? そうしたら釣れるかもしれませんよ?」
レイラは申し訳なさそうに眉を下げながら、そう提案してくる。
エサを変えるかあ、確かにいい提案かもしれない。今はそこら辺にいる虫を針に刺してエサにしていたけど、変えたらもっといい魚が食いついてくれるかもしれない。
「次元収納の中になにかあったのかな……あ、そうだ。ムーンフルーツがあった! いい匂いがするし、きっと魚も反応するよね。せっかくなら釣り竿もパワーアップさせようかな」
いい魚が食いついたら、今の釣り竿じゃ折れて逃げられてしまうかもしれない。
そうならないためにも、いい釣り竿を作る必要がある。
僕は頭の中で今ある材料を使って作れる、最強の釣り竿をイメージする。
「よし、やるぞ。自動製作、釣り竿!」
竿の部分はドワーフの国から仕入れた良質な合金を使用。糸は村に住んでいる金毛羊の羊毛を贅沢に使う。そして釣り針には飛竜の牙を利用する。
仕上げに魔石も使い、獲物を自動で追尾できるようにする。
これぞ僕が考えた最強の釣り竿。
これならどんな大きな魚が来ても釣れるはず。超絶いい釣り竿と名付けよう。
「よし、いっけー!」
釣り針にムーンフルーツの欠片をつけ、海の中に投げ入れる。
海の表面は瘴気があるけど、深くにいけば瘴気の影響は薄いと今までの釣果で分かっている。僕はなるべく遠く、そして深くに釣り針を入れていく。
「お願い、なにか釣れて……!」
さすがに僕だけなにも釣れないのは恥ずかしい。
どんな魚でもいいから、なにかは釣れてほしい。そう祈りながら釣り竿を握っていると、
「っ! き、来た!」
ついに釣り竿が反応し、ビクッと動く。
超絶いい釣り竿にはリールが付いている。竿をグッと握りながら僕は慎重にリールを巻いていく。
「さすがテオ様です! これは大きいですよ!」
「あ、ありがと、でも、おも……っ」
かなりの大物をヒットさせてしまったみたいで、釣り竿を引く力はどんどん強くなっていく。棒で作った竿だったらとっくに折れちゃっていただろう。
ここで逃げられたら、また魚がかかるか分からない。僕は全身に力を込め、必死に暴れる竿と格闘する。
「絶対に……釣る……っ!!」
竿を引く力が弱くなった一瞬の隙を突き、僕は一気にリールを巻き上げる。
すると海の中に大きな魚影のようなものが見えてくる。
あと少し。僕は腕に全ての力を込めて、竿を引く。
「いっけえええええ!!」
竿を振り上げると共に、ザパァン! と大きな波が立つ。
そして僕はついに釣り針にかかったそれを釣り上げることに成功する。
「やった! 僕もついに釣れ……って、ええ!?」
それを見た僕は驚愕する。
なんと僕が釣り上げたのは、魚ではなく巨大な海竜だったからだ。
海竜とはその名の通り海に棲む竜だ。
蛇のように長い体を持つ海竜は海の底を縄張りにしていて、人前に出ることはほとんどない。
海の中を高速で泳ぎ、鋭利な牙で獲物を捕食する海竜は、海の頂点捕食者に君臨しており、海で敵う生き物はいないと本で見たことがある。
僕が釣り上げた海竜は青く綺麗な鱗を持っていて、とても強そうだ。
海竜には詳しくないけど、海竜の中でもかなり上位の種族に見える。
「あ、あわわ。まさか海竜が釣れちゃうなんて」
大物が釣れたら嬉しいなと思っていたけど、ちょっと大物すぎる。
海上に姿を現したその海竜は、その鋭い目で僕を睨みつけてくる。や、やっぱり怒ってるよね。
「テオ様、お下がりください」
レイラが剣を抜き、僕の前に出る。
慌てている僕と違ってすでに戦う準備ができている。さすがレイラだ。
僕も自動製作を使う準備をして、海竜の襲撃に備える。
『…………』
海竜は変わらずじっと僕たちを見ている。
誰が美味しそうか見極めているのかな。お願いだからそのまま帰ってくれないかなと思っていると、
『さっきの美味いのはなんだ? もっと食わせろ』
「……え?」
その海竜は突然喋り出し、おかわりを要求してきた。
突然のことに僕だけじゃなくてレイラやアンナさんたちもポカンとしている。
普通の海竜は喋ることなんてできないはずだけど……いったいこの海竜は何者なんだろう?




