第4話 仙狐タマモ
「ルーナさん、この人と知り合いなんですか?」
「知り合いか……そうだな。こやつのことはよく知っている」
ルーナさんは表情に驚きを残しながらそう答える。
千年経っても、とタマモさんは言っていた。僕たち人間はもちろん、獣人も千年なんて生きられない。
そんなに長い時を生きられるのは特別な種族だけ。
アンナさんやエレナさんといったエルフや、竜の血を引く竜人。そして神の力を持った獣とかそれくらいだ。
「仙弧のタマモ。我の昔の仲間で、神獣の一人。千年前の神魔大戦時、ともに肩を並べ邪神と戦った仲だ」
千年前、この死の大地では女神の勢力と冥神ハデスの勢力が大きな戦を起こした。
その戦の名が「神魔大戦」。
女神の軍勢はからくもハデスに勝利したけど、その犠牲は大きくこの大地は瘴気に侵され、女神さまたちも姿を隠すことになってしまった。
神の力を宿す神狼のルーナさんも、その戦で戦っていたという。
タマモさんはその時の戦友みたいだ。
彼女は幼い子どものような背丈をしている。とても戦えそうには見えないけど、凄い力を持っているんだろうね。確かに彼女からはルーナさんに似た、なにか神秘的な力を感じる。
タマモさんは僕の視線に「ん?」と気がつくとこちらにするりと近づいて来る。
「ふむ……優れた神力を有しているが、それ以上に驚きなのは加護の量じゃな。これほど多くの加護を持っている者は初めて見たぞ」
タマモさんは深い瞳で僕のことをじっと見つめてくる。
なんだか吸い込まれそうな瞳だ。見ているとぼーっとしてくる。
「くふふ。楽い、興味深い。ルーナが入れ込むのもよく分かるのじゃ。気に入った、どうじゃテオドルフ……妾のモノにになる気はないか?」
「え……?」
突然の申し出に僕は驚く。
「妾のモノになったなら、望む物を全て用意してやろう。働かなくても良い、妾がそなたを養ってやろう」
タマモさんの声を聞いていると、なんだかぼーっとして意識が遠くなる。
心地よくて、ふわふわする感じだ。今どんな状況なのか、なにを考えたらいいのかわからなくなっていく……。
「想像するといい……妾の寵愛を受け、怠惰に、自堕落に過ごす日々を。悪くないと思わないか? お主はただ首を縦に振ればよ……」
「ええい、なにをしている!!」
気づいたら目と鼻の先にいたタマモさんを、ルーナさんが間に入って追い払う。
すると曖昧になっていた意識がフッと戻る。
あれ? なんでさっきまでふわふわしてたんだろ。寝不足なのかな? ちゃんと休まないと駄目だね。
「おやおや、邪魔が入ってしまった。非道いのう」
「我の目が黒い内は『魅了』などかけさせぬぞ。これ以上テオドルフにちょっかいをかけるのであれば、旧友であれど容赦はせんぞ」
「くふふ、少し戯れただけじゃ。そう牙を剥くなルーナよ」
ルーナさんとタマモさんは至近距離でバチバチと視線をぶつけ合う。
よく分からないけどなにか攻防があったみたいだ。
タマモさんはなにを考えているか分からないけど、敵意は感じない。二人は昔からの知り合いみたいだし、仲良くしてほしいけど。
「タマモ、結局お主はなにしに来たのだ。用もなくこのようなところに足を運ぶお主ではなかろう」
「ここは妾にとっても故郷、里帰りするくらい不思議ではないであろう? ローランが神狼を見たと言っていたのも気になっていたからの。あの子らはそなたの子か?」
タマモさんは村の中を歩いている子どもの神狼を見ながら尋ねてくる。
「あれは姉さんの子たちだ。我は番すらおらん」
「そうかセレネアの……あやつは生きているのか?」
「いや、姉様はもういない。我があの子らの親代わりだ。まあ今は村の者が面倒を見てくれているがな」
「なるほど……」
タマモさんは優しい視線を神狼の子たちに向ける。
神魔大戦でほとんどの神獣は命を落としてしまったらしいから、子どもの神獣の数はとても少ない。タマモさんも色々思うところがあるのかもしれない。
「それで妾が来た理由、じゃったか。なに、そんなたいした理由ではない。ローランが気に入っている其奴のことが気になっただけ。そして死の大地に作られたこの村もな。全てが興味深い。商会をまとめる長として、一度視察に来たいと思うのは当然のことであろう」
「そういうことでしたら、全然見ていってください。ベスティア商会にはお世話になってますからね。歓迎しますよ」
「ほう、それは嬉しい。感謝するぞテオドルフ」
タマモさんはそう言うと、ルーナさんの方に目を向ける。
「どうじゃルーナ、これでよいであろう?」
「……仕方ない。しかしまた変なことをしたらすぐに追い返すからな」
「くふふ、それでよい。ではありがたく世話になるとしよう」
楽しげに笑ったタマモさんは村の中にスタスタと歩いて行き、その後ろをローランさんが急いでついて行く。
また賑やかになりそうだね。
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