第2話 瘴気溜まり
ルーナさんについていき、僕は村から少し離れたところに行く。
村の外にはまだ荒れ果てた土地が広がっていて、その中にルーナさんが見せたいと言っていたものはあるみたいだった。
「これだ」
ルーナさんは立ち止まると、地面の一箇所を指差してそう言う。
そこには黒い泥の塊のようなものがあった。
ぽこぽこと音を立てながらうごめく、悍ましいなにか。それがなにかは分からなかったけど、僕はそれに似たものを見たことがあった。
「これは……瘴気?」
かつて世界樹を蝕んでいた、黒い瘴気の塊。
これはそれにかなり似ていた。瘴気が発する独特の嫌な感じもするし、これが瘴気由来のなにかであることは間違いないと思う。
「ルーナさん、これって」
「瘴気溜まり……我らはこれをそう呼んでいる」
ルーナさんは嫌そうな表情を浮かべながらそう呟く。
どうやらこれにいい思い出はないみたいだ。
「『瘴気溜まり』はその名前の通り瘴気が溜まってできた塊だ。そこにあるだけで周囲を瘴気で汚染するが、厄介なのはそれだけではない」
ルーナさんはそう言うと、瘴気溜まりの隣に立ててあった松明を引き抜き、それから離す。
そうすると瘴気溜まりが活性化して動きが激しくなる。そしてしばらくすると瘴気溜まりが膨れ上がり、その一部が分離して黒いモンスターが出現する。
『グ、ウゥ……!』
「これって……!?」
驚く僕。するとその謎のモンスターは鋭い牙を剥き、襲いかかってくる。
突然のことに反応が遅れてしまうけど、ルーナさんがすかさず爪を振るうとそのモンスターは一瞬にして八つ裂きにされ、消えてしまう。
さっきのモンスターは結構強そうだったのにあんなにあっさり……凄い。今の村には実力者がかなり集まってきたけど、ルーナさんはその中でもトップクラスの強さを持っているだろうね。
「ルーナさん、今のって……」
「瘴気溜まりは『瘴気の魔物』と呼ばれるモンスターを生み出す。際限なくな。神力を込めた炎や光で照らしていれば非活性化するが、それがなくなればまたすぐに動き出す」
なるほど、さっきの松明には神力が込められていて、そのせいで非活性化していたんだ。でもそれがなくなった途端モンスターを生み出すなんて、かなり危ない物だねこれは。
「神力を込めた一撃を打ち込めば、これを壊すことは可能だ。今までは見つけ次第壊していたが……もしかしたらお主なら、それよりいい使い道を思いつくかもしれんと思ってな」
ルーナさんはそう言うと瘴気の魔物がいた地面からなにかを拾い上げ、僕に渡してくる。
それは小ぶりだけどれっきとした『魔石』だった。どうやら瘴気の魔物を倒したときにドロップしたみたいだ。
「無尽蔵に生み出されるモンスターと、ドロップする魔石。危険ではありますが、確かに利用価値はありそうですね……!」
頭の中でピースが合わさっていき、様々な利用方法を思いつく。
気づけば僕はワクワクして笑みを浮かべていた。そんな僕を見てルーナさんも楽しそうに笑う。
「やはりお前は面白い奴だな。さすが我が見込んだ雄だ」
ルーナさんはそう言うとぺろ、と自分の唇を舐める。
大型の肉食獣に狙われているみたいで僕はゾクッと背中に鳥肌が立つ。急に襲われたりしないよね……?
「ところでこの瘴気溜まりはどうしておく? 安全なようにはしておきたいが、周りを塀で囲むか?」
「それもいいですが、ちょっと試したいことがあるのでやってみますね」
僕は瘴気溜まりに近づき、手をかざす。
大事なのはイメージだ。それを『物』と認識すればできるはず。
「収納」
そう口にすると、瘴気溜まりはその場から消えて次元収納の中に収納される。
こんな物収納して大丈夫かなと一瞬不安になるけど、幸い僕の体になんの異常も起きなかった。他に収納している物も影響を受けている感じはない。どうやら上手くいったみたいだ。
「考えたな。次元収納の中の物は劣化しない、それはすなわち変化しないということ。そこなら瘴気溜まりも安全に保管できるというわけだ」
「はい。それにこれなら安全に場所を移すこともできますからね」
これなら場所を移して実験することも簡単だ。危険物だから細心の注意を払う必要はあるけどね。
それじゃあ早速実験の準備をしようかな……と思っていると、村の兵士の一人がこっちに駆けてくるのが目に入った。
急いでいるように見える。どうしたんだろう?
「テオドルフ様! テオドルフ様にお会いしたいという者が村にやって来ました!」
「僕に? いったい誰ですか?」
「はい。その方はベスティア商会の者らしいですが……なんと商会の会長らしいのです」
「商会長が直々に……? いったい僕になんの用だろう」
ベスティア商会の会長は凄腕の商人と聞いたことがある。
しかし滅多に人前に姿を現さず、その存在は謎に包まれているらしい。そんな人が僕に会いたいなんて……いったいなんでだろう。
不思議に思っていると、彼は更に言葉を続ける。
「それとその者はルーナ様にも会いたいそうです。一緒に来て下さりますか?」
「我と……?」
自分が呼ばれるとは思ってなかったルーナさんは目を丸くする。
まさかルーナさんまで呼ばれるとは僕も思ってなかった。いったいどうしてだろう?
「どうしますかルーナさん」
「ふむ……なにを考えているかは分らぬが、ここで逃げては神狼の名折れ。行ってやるとしよう」
「分かりました。ベスティア商会がなにかしてくるとは思えませんが、気をつけてくださいね」
「無論だ。それにもしもの時はテオドルフが守ってくれるのだろう? 頼りにしているぞ」
「わっ!?」
そう言ってルーナさんは僕の髪をくしゃくしゃとなでる。
これはきっと彼女なりの愛情表現なんだろう。子どものフェンリルたちにもよく髪をぐしゃぐしゃにされる。
「それじゃあ行きましょうか」
「ああ」
こうして僕たちは突然やって来た商会長のもとに向かうのだった。
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