第1話 新しい畑
「おお! これがテオドルフの村か! いいところだな!」
ルカ村に帰ってくると、ドワーフのガボさんが大きな声を出す。
ドワーフの国を出た僕たちは、ゴーレムが引く馬車で村に帰還していた。
村に着くとガボさんは興味深そうに辺りを見る。今まで地下の街で暮らしていたガボさんからしたら、ここにあるものは全部新鮮に見えるんだろうね。
「……それにしても結構大勢来ましたね」
「がはは、ドワーフは好奇心旺盛だからな」
僕の前には三十人ほどのドワーフがいた。
ガボさん以外にも僕の村に来たい人がいるか聞いてみると、思いの外多くのドワーフが立候補したのだ。
彼らはみな鍛冶や建築に秀でている、優秀なドワーフらしい。きっとこの村でも活躍してくれるはずだ。
「テオ様!」
「へ?」
振り返るとそこには僕のメイドであるレイラの姿があった。
レイラは目にも留まらない速さで僕に接近すると、そのまま思い切り抱きしめてくる。
「ああ……やっと帰ってきて下さったのですね……! 私がどれだけ心配したか……!」
「もが、もがが」
レイラの大きな胸に顔が埋まり、窒息しかける。
あ、危なかった……。
「た、ただいまレイラ。心配してくれるのは嬉しいけど、ちゃんと手紙は送ったよね?」
「はい。しかし手紙程度では私の心配はなくなりませんので」
なぜか胸を張って言うレイラ。
ドワーフの国でなにがあったかは、手紙にしてゴーレムに送ってもらっていた。だからレイラたちにはドワーフを新しく村に迎え入れることも伝えてあった。
それにしても少しこんな感じじゃ休んでもらうのも難儀しそうだね。
「まったく、あんたは大袈裟なのよ。少しはテオ離れしたらどう?」
レイラと話していると、アリスがやって来る。
彼女を見たレイラは、僕を解放してくれる。
「おや、アリス様も帰られたのですね」
「当たり前じゃない。なんで私は帰らないと思ったのよ」
視線をぶつけ合う二人。
どうしようとあたふたしていると、
「テオ様を独り占めしていたのは許せませんが……きちんとテオ様をちゃんと守って下さったみたいですね。ありがとうございます」
「……ふん、当然よ」
アリスはツインテールを揺らしながら、少し照れたように答える。
二人は昔より仲良くなったように見える。二人が仲良くなってくれると僕も嬉しいな。
「よし、それじゃあ新しく仲間になったドワーフの人たち用に家を作ろっか。二人とも手伝ってくれる?」
「はい。完璧にサポートいたします」
「しょーがないわね。いくらでも頼りなさい」
こうして僕たちは新しい仲間たちを迎え、更に賑やかになるのだった。
◇ ◇ ◇
ドワーフたちを村に迎え入れてから一週間経った。
彼らはとても賑やかで豪快だ。少しガサツなところはあるけど、義理人情に厚くみんないい人だ。
村の人たちと仲良くなるのも早く、もうすっかり馴染んでいる。
「エルフとドワーフが仲良くしている光景など、他では見られないだろうな。ドゥルガンも驚くぞ」
隣を歩いているガボさんが楽しげに言う。
まだドゥルガン王はこの村に来ていない。今は岩の王の被害を立て直すのが先だからね。この村に来たドワーフたちも入れ替わりでオルヴァザールに戻って復興を手伝っている。
ここで採れた食材も持って行っていて、かなり向こうで好評らしい。本格的に交易するのが楽しみだ。
「はやくドゥルガンにもこの村を紹介したいが……まずはこれだな!」
目的地に着き、僕たちは足を止める。
そこに広がっているのは大麦とブドウの畑だった。
「凄いな、まだ種を植えて数日というのにもう大きく実っているぞ」
「そろそろ収穫しても良さそうですね。明日くらいにやりましょうか」
ここにある大麦とブドウはお酒にする予定だ。
ちなみにこの二つの種はヘリオス様と会って目が覚めたら、手の中にあった物だ。
会った時になにかを手に握らされたから、きっとこの種はヘリオス様がくれた物なんだと思う。その証拠としてこの二つの作物を鑑定すると、
・太陽の葡萄 品質:至高
太陽の祝福を宿した葡萄。芳醇な甘味と爽やかな酸味を併せ持つ。
そのまま食べても美味しいが、ワインにすると更に美味しさが増す。
・天麦 品質:至高
かつて天界で栽培されていた大麦。
その麦芽から作られる麦酒は、神々の舌をも唸らせた。
こんな感じだった。
地上じゃ絶対に手に入らない作物だから、ちゃんと育てないと。うっかり全滅したらもう種を手に入れようがないからね。
「ここは王道にホップと合わせて……いや、ハーブビールも捨てがたいな。夢が広がるわ……!」
ガボさんは心底楽しそうに笑う。
まあ彼に任せておけば枯らすようなことはないだろうね。ガーランもお酒作りを積極的に手伝っているみたいだだし。
「お、いい感じに育っているではないか」
ガボさんと畑の手入れをしていると、後ろから話しかけられる。
振り返ってみると、そこにはフェンリルのルーナさんがいた。横には子どものフェンリル、シルクもいる。
「わふ!」
「わっ!?」
僕を見つけたシルクが飛びかかってきて、顔をベロベロと舐めてくる。
ここで伸び伸びと暮らしているシルクたち子どもフェンリルはどんどん力が強くなっている。ルーナさんいわく「良いものを食べてるからフェンリルとして成長している」そうだ。
ルーナさんみたく成熟したフェンリルになるのも遠くない未来なのかもしれない。
「この葡萄……懐かしい匂いがする。神々の食物をもう一度味わえる日が来るとはな」
ルーナさんは懐かしむように言う。
彼女は神様たちと一緒にいた時期がある。きっとその時にこの葡萄とかを食べたんだろうね。
「お酒を作るつもりですので、その時はルーナさんも飲んでくださいね」
「ああ、ぜひいただこう。楽しみにしておるぞ」
ルーナさんは嬉しそうに微笑む。
村での生活を楽しんでくれていてなによりだ。
「ところでテオドルフ。お主に見せておかねばならぬものがある。少し来てくれるか?」
「え、はい。分かりました」
見せたいもの……いったいなんだろう。
ルーナさんの表情からすると、あまりいいものではなさそうだ。ちょっと不安だ。
「じゃあガボさん、僕は行ってきますね」
「うむ、気をつけろよ」
ガボさんはそう言うと「あ」となにかを思い出す。
「ワシも見せたいものがあるのだった。後で見せるから楽しみにしてくれ」
「分かりました。それじゃあまた後で」
こうしてガボさんと別れた僕は、ルーナさんについて行くのだった。
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