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第15話 ドワーフの英雄

自動製作オートクラフト、ベッド!」


 地面に激突する直前、大きなベッドを製作クラフトし、僕はそこにボフッと着地する。


「むぎゅ」


 顔面から着地したせいで顔がベッドの中に埋まる。

 もしベッドをクラフトするのが遅れたから、硬い地面に顔をぶつけていた。あ、危なかった……。


「テオ! 大丈夫!?」

「わっ!?」


 ベッドから起き上がると、上からアリスがやってきて抱きついてくる。

勝利したことで高揚しているのか、アリスは僕をもみくちゃにしてくる。たくさん自動製作オートクラフトを使ったせいで脳まで疲れている僕は抵抗できず、ひたすら彼女に振り回される。


「嬉しいのは分かるが、それくらいにしておけ。殿下が目を回しているぞ」

「え? あ、ほんとだ。大丈夫?」


 やって来たガーランに諭され、アリスは僕を解放してくれる。

 せっかく勝ったのに気を失うかと思った。僕は気を取り直してベッドから降りると、やって来たガーランに目を向ける。


「ガーランも無事だったんだね。良かったよ」

「はは! 頑丈なのだけが取り柄ですからな。それより殿下……やりましたな。最後の一撃、見てましたぞ。実に見事な攻撃でした。殿下の勇姿は子々孫々まで語り継がれますでしょう」

「言い過ぎだって。このツルハシが凄かっただけだよ」


 僕は右手に握っている『神のツルハシ』を見る。

 突発的に作った物だけど、これのおかげで岩の王にとどめを刺せた。

 それにしてもまさか迫撃槍でまで倒せないとは思わなかった……どれだけ硬い体を持ってるんだと恐ろしくなる。


「テオドルフ殿! よくやって下さった!」


 神のツルハシを次元収納インベントリに収納し、一息ついていると大きな声を出しながらドワーフのガボさんが近づいてくる。

 ガボさんもゴーレムと戦っていたのか、体中が汚れてところどころを怪我している。

 そしてその後ろからはドワーフの王、ドゥルガン陛下もついてきている。陛下の手には大きな槌が握られている。どうやら陛下まで戦う事態になっていたみたいだ。


「テオドルフ殿はドワーフにとって英雄だ! 本当に感謝する!」

「わ、わ」


 ガボさんは両手で僕の手を取るとぶんぶんと振り回す。

 力が強くて僕の体はがくがくと上下に動く。うぷ、揺れが激しくて酔いそうだ。

 僕はなんとかガボさんの手から逃げて、彼の言葉に返事をする。


「大げさですよガボさん。確かに僕がトドメを刺す形になりましたが、これはみんなの勝利です」

「お主はそう思っているのかもしれないが……他の者はそう思っていないぞ」


 そう言ってきたのはドゥルガン王だった。


「確かにこの勝利はみなでつかんだ勝利だ。しかしトドメを刺したのもこの戦いにもっとも貢献したのもお主だ。ならばガボの言う通りお主を英雄扱いするのも当然。そうであろう、ドワーフの戦士たちよ!」


 ドゥルガン王がそう声を張り上げると周りの兵たちが「おおおおっ!」と武器を掲げてそれに同意する。


「ドワーフの英雄万歳!」

「ゴーレムスレイヤーの誕生だ!」

「お前は最高だ!」

「小さな英雄に乾杯!」


 どうやら僕はドワーフのみんなに英雄と認定されてしまったみたいだ。しかもゴーレムスレイヤーなんてあだ名までつけられてるし。

 僕にそんな器があるとは思えないけど、こうして多くの人に認めてもらえたのは素直に嬉しい。


「死の大地の領主、エルフの長にドワーフの英雄。どんどん見事な肩書きが増えますな殿下」

「まあテオは勇者である私の夫になる男なんだからこれくらい当然ね。ふふん」


 楽しそうにしているガーランとアリス。

 なんで僕より嬉しそうにしてるの……と思っていると、視界の端でなにかが動く。


「ん?」


 そっちに視線を動かすと、なんと大きな岩がひとりでに動き出していた。

 いや、これはただの岩じゃない。


「みんな! 離れて!」


 僕は再度動き出した岩の王(・・・)から離れるようにみんなに言う。

 完全に活動を停止したと思っていた岩の王がまた動き出してしまったのだ。


「な……まだ動けるのか!?」

「こいつしぶとすぎない!?」


 岩の王の生命力にガーランとアリスも驚く。

 神のツルハシによる攻撃は、確かに岩の王の核に届いたはず。だけど核を完全に壊すことはできなかったみたいだ。

 岩の王の動きは緩慢になり、今にも崩れそうだけどまだ動けている。すごい生命力だ。


「まだ動くか……兵たちよ! 岩の王に攻撃を……」

「待ってくださいドゥルガン王!」


 僕は兵に攻撃を命じるドゥルガン王を止める。


「なぜだテオドルフ殿。今更こやつに情でも湧いたか!?」

「違います。岩の王の動きをよく見てください」

「動き?」


 ドゥルガン王が岩の王の動きを観察する。

 岩の王はもう攻撃の意思はなく、撤退しようとしている。ゆっくり動き、やってきた穴の方に戻っている。


「逃げているように見えるが、それがどうした。それが攻撃をやめる理由にはならんぞ!」

「情けをかけようとしているわけじゃありません。ただ、ここで岩の王を倒しても根本的な解決にはならないと思うんです」

「なに? どういうことだ」


 ドゥルガン王だけでなく他のドワーフたちも僕の言葉に耳を傾けている。

 僕は岩の王を見てからずっと思っていたことがあった。それをみんなに説明する。


「岩の王はゴーレムです。ゴーレムは他の生物と違い、勝手に生まれることはありません。必ずゴーレムを作った人がいます」

「それは……そうだな。誰が作ったのかと疑問に思ったことはもちろん私もある。しかしいくら調べてもそれは分らなかった」

「そのゴーレム製作者が誰か分からないと、根本的な解決にはなりません。その人が明確な意思を持ってこの国を攻撃しているなら、ここで岩の王を倒しても第二第三の岩の王が現れる可能性があります」

「確かにテオドルフ殿の言う通りだが……ではどうすればいいというのだ? ここで岩の王を逃がす理由にはならないと思うのだが」


 ドゥルガン王が困ったように尋ねてくる。

 僕はずっと考えていたその答えを口にする。


「僕はゴーレムを何回も作っていて、あることに気がついたんです。それはゴーレムには『帰巣本能』に似た機能があるということを」

「帰巣本能……!? そんなものがゴーレムに備わっているのか」


 帰巣本能とは自分の住処に帰る本能のこと。

 野生動物はこれを持っていることが多くて、遠く離れた場所からでも住処に帰ることができる。


「ゴーレムは自分で直せないほど大きな傷を負うと、ゴーレムの作り手のもとに帰る本能があるんです」

「なるほど、作り手のもとに戻れば修復してもらえるから、というわけか。合理的だな」


 ドゥルガン王は感心したように言う。

 そして次の瞬間、僕の言葉の意味に気づいてはっとした表情をする。


「そうか。そういうことか!」

「はい。岩の王を追えば、その製作者に会えるかもしれません。岩の王をここで倒さず、後を追うべきです」


 岩の王の製作者に会えば、なぜドワーフの国を襲ったのか分かるかもしれない。

 そしてもうこの国を襲わせないようにすることもできるだろう。ここで岩の王を倒したらそれらは叶わなくなってしまう。


 僕の真意を理解したドゥルガン王は素早く決断をする。


「分かった。精鋭数名で岩の王を追跡する。残りの者は都市の復旧に当たれ! 迅速にだ!」


 ドゥルガン王は僕の提案に乗ってくれた。

 いったい岩の王を作ったのはどんな人なんだろう。そして、なんでその人はこの国を襲ったんだろうか。

 僕は疲れた頭でそんなことを考えながら岩の王の追跡を開始するのだった。


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