第14話 秘密兵器
「まだ動けるのか……!?」
「いったいどうすれば倒せるんだ!」
再び立ち上がった岩の王を見て、ドワーフの兵たちが不安そうにざわつく。
一度倒せたと思ってしまっただけに、不安も大きい。まさかここまで頑丈なんて僕もびっくりだ。
『ウウ……オォ……」
立ち上がった岩の王は天を仰ぐ。
その顔の先にあるのは、煌々と輝く地下の太陽『太陽石』。岩の王はそれをジッと見つめた後『オオオォォォッッ!!』と地面が揺れるほどの咆哮を放つ。
「……っ! 凄い声だ……!」
耳を手で押さえても鼓膜がピリピリする。
それにしてもあの様子。やっぱり岩の王は『太陽石』が狙いみたいだ。
「太陽石は巨大な魔石。やっぱりあれを取り込んで更に強くなるつもりなのかな……。今でも強いのにあれを取り込まれたら手がつけられないぞ……!」
僕は想像して戦慄する。
もしそうなったら岩の王はここだけでなく僕の村や王都にまで被害をもたらすかもしれない。それだけは絶対防がなきゃ。
「ゴーム! 絶対ここで倒すんだ!」
『ゴウッ!」
ゴームは今の一撃で壊れたパイルバンカーを外すと、両拳をぶつけあせて気合いを入れ直す。
さっきの一撃は岩の王にかなりのダメージを与えているはずだ。もう一押し、なにか強い一撃を与えれば倒せるはず。そう思っていると、
『ウゥ……ガアッ!」
なんと岩の王は機能停止したゴーレムを食べた。
つかみ、大きな口でむしゃむしゃとゴーレムを食べていく岩の王。するとどんどん体が大きくなり傷が修復されてしまう。
三体ほどゴーレムを食べた岩の王は満腹になったのか、食事をやめる。
これは……まずいね。
さっきの攻撃でつけられた傷がほとんど塞がってしまっている。装甲は最初より厚くなってるし、体も一回り大きくなってしまった。
さっきまでの岩の王より強くなっているのは明らかだ。他のゴーレムは動かないままなのは助かるけど、今の岩の王を止めるのはかなり難しそうだ。
『オオオオオオォッ!!』
大きくなった岩の王は雄叫びを上げると、再び走り出す。
ドワーフの兵たちは大砲を撃って岩の王を止めようとするが、岩の王は砲弾などものともせずドンドン突き進んでくる。
「ぐ……やむを得ん! 熱素爆弾を使え!」
ドワーフの兵士は、魔石を爆弾へと転用した兵器『熱素爆弾』を岩の王に向けて射出する。
熱素爆弾は爆薬を使った爆弾より数段高い威力を持っている。しかし使用後は貴重な魔石が粉々になってしまうという欠点を抱えている。
度重なる岩の王との戦いのせいで、ドワーフの国に魔石はあまり残っていない。なのでなるべく使用しないようにしていたんだ。
熱素爆弾が岩の王に命中すると、ゴォン! という凄まじい音と共に爆発する。
その様子にドワーフの兵たちは沸くが……土煙の中から現れた岩の王の姿を見て絶望する。強化された岩の王は熱素爆弾を食らってもダメージを受けた様子がない。
ここまで強くなってるなんて……!
「ちょっとテオ! どうなってんのよあれ! ゴーレムを食べるゴーレムなんて聞いたことないわよ!」
そう言いながら僕の側にやって来たのはアリスだった。
服のあちこちが汚れているけど、目立った怪我はなさそうだ。その後ろにはガーランもいる。
「あの装甲、簡単には断ち切れそうにないですな。いかがいたしましょうか殿下」
「……僕に考えがある。二人とも耳を貸して」
僕は考えていた作戦を二人に伝える。
色々考えたけど、今の岩の王を倒す方法はこれくらいしか思いつかなかった。荒が目立つ作戦ではあるけど、今の僕じゃこれくらいしか倒す方法は思いつかなかった。
「――――って作戦なんだけど、どうかな……?」
「分かったわ。早速やりましょ」
「はい。このガーラン、必ずや役目を果たしてみせしょうぞ」
二人は全く異を唱えず、僕の作戦に賛同してくれる。
嬉しいけど本当に納得してくれているのかな……?
「だ、大丈夫? 危険な作戦だし他にもっといい案があったらそっちにしても……」
「不安になってんじゃないわよ。私たちはとっくにあんたに命を預けてんだから」
「その通りです殿下。我々は殿下を信じております。だから殿下も我々を信じてください。どんな無茶な作戦でもこなしてみせましょうぞ」
「二人とも……ありがとう。心強いよ」
二人の心強い言葉に胸が熱くなる。
信頼してくれている二人のためにも、失敗はできない。絶対岩の王を倒すんだ。
「じゃあさっきの作戦通りにお願い。アリスは僕と一緒に、ガーランはここであいつを足止めして!」
「任されました。倒してしまったら申し訳ありません」
ガーランはニヤッと笑いながらそう言うと、こちらに向かってくる岩の王に向き直る。
岩の王はガーランが足止めしてくれる。その間に僕とアリスはゴームの上に乗り、城壁の方に向かう。
もっとも外側にある第一城壁は、大量のゴーレムに侵攻されたことであちこちが破損してはいたが、ちゃんと崩れず形を保っていた。
これなら作戦を実行できそうだ。
僕は城壁の指揮をしているドワーフの将軍のもとに近づく。
「あれを使います! 動きそうですか!?」
「テオドルフ殿! ええ、あれは死守しましたので問題なく動くと思います!」
「ありがとうございます!」
僕たちは城壁の上に登り、そこに備え付けられた操作盤のもとに到着する。
よし。軽く触ったけど、問題なく動きそうだ。
『オオオオオッ!!』
咆哮と共に城壁が大きく揺れる。
声はかなり近い。どうやら岩の王が城壁に到達したみたいだ。強化された岩の王は速度も大幅に上がっている。もしガーランが足止めしてくれていなかったら城壁にたどり着く前に捕まっていただろう。
「テオ! まだそれ時間かかる!?」
「もう少し起動に時間がかかる……あと少しなんだけど……!」
次元収納から出した魔石を操作盤にセットして、準備を進める。
すると城壁の上部にガンッ! と岩の王の手がかけられる。
「もう登ってきた……!」
「あんたはそれに集中してなさい! 私が止める!」
剣を抜いたアリスが岩の王に突っ込み、登ってくる岩の王を攻撃し足止めする。
岩の王はその大きな手でアリスを潰そうとしてくるが、ゴームが身を挺してそれを防ぐ。二人は登ってこようとする岩の王を必死に押さえ込む。すると、
「我らも続け! ドワーフの勇猛さを奴に思い知らせるのだ!」
ドワーフの兵たちも岩の王に突っ込み、勇猛果敢に戦う。
いくら吹き飛ばされても立ち上がる彼らを前に、岩の王も苦戦し城壁を登りきることができない。
そしてみんなのおかげでついに……それの準備が完了する。
「準備ができた! 岩の王を落として!」
「オッケー! 任せなさい!」
僕の言葉に反応し、アリスが駆け出す。
そして勇者の剣に魔力をまとわせ、横薙ぎに剣を振るう。
「大勇斬!」
顔面にアリスの斬撃を食らった岩の王はバランスを崩し、城壁の下に落ちる。
そして再び登って来ようとしたその瞬間に、僕は奥の手を発動する。
「食らえ! 迫撃槍、起動!」
操作盤の発射ボタンを、力強く押す。
すると城壁の中央部が開き、その中に隠されていた巨大な『槍』の先端が姿を現す。
パイルバンカーの杭の数十倍の大きさを持ったその槍は、今持ってる鉱石の中では最大硬度の物で作られている。
魔石から供給された魔力により高速で回転する槍。しかしかなりの重量を誇るその槍は、魔石から供給される魔力では十分な速度で射出できない。
だから僕は射出する動力に『熱素爆弾』を選んだ。
「いけっ!!」
熱素爆弾が爆発し、高速で回転する槍が射出される。
前世でやったことがある、とある狩りゲーから着想を得て作った『迫撃槍』。その威力は凄まじく、岩の王に激突するとその頑丈な装甲をバギギギギッ! と破壊する。
『オオオオオオォッ!!』
岩の王は必死に耐えようとする。
これを耐えられたら、もう岩の王を倒せる武器はない。僕は迫撃槍に自分の魔力を送り、その回転力を少しでも上乗せする。
「いっけえええ!!」
うねりを上げて回転する迫撃槍。
この兵器の設計には、ドワーフの人たちの知識も貸してもらった。
みんなの助力で完成したその槍はついに岩の王の装甲を完全に突き破り、岩の王の胴体に突き刺さる。
「やった!」
僕は城壁の縁から体を乗り出し、落下していく岩の王を見る。
これで勝った! と思ったけど……岩の王は落下しながら再び動き出す。
『オ、ア……!』
「まだ動けるのか……!」
岩の王は空中で姿勢を制御すると、再び城壁に手足を突き刺しはりつく。
装甲には大きなヒビが入ってるけど、完全に貫通することはできなかったみたいだ。
「後ろに跳んでダメージを逃したんだ……!」
岩の王は戦いの間で強くなっている。学習しているんだ。
ここで勝てなくちゃどんどん強くなって手がつけられなくなる。僕が今、ここで倒すんだ。そうしなきゃ大切な人たちが傷つけられてしまう。
「う、うおおおおっ!」
僕は意を決して城壁から飛び降りる。
そして城壁の側面を走りながら岩の王に接近する。
(こ、怖すぎる!)
今の僕はほぼ落下しているようなものだ。
一つ間違えれば地面に真っ逆さま。大怪我は免れない。
前までの僕なら間違いなくそうなっていたけど、今の僕にはみんなから貰った『加護』の力がある。その力があればこの逆境にも打ち勝てるはずだ。
『ガ……アア!!』
岩の王は接近する僕めがけて手を振るう。
速い攻撃だけど僕はその攻撃を察知できていたので城壁に足場を作って落下軌道を変更し、それを回避する。攻撃を察知できたのはアンナさんとエレナさんから貰った『聖樹の巫女の加護』のおかげだ。
この加護は感覚機能が上がり、植物と心を通わせられるようになる。
感覚機能の中でも聴覚は特に大きく上がり、そのおかげで相手の動きを察知できるようになる。
「今度こそ、決める……!」
僕は少し前に貰った神金属を次元収納から出す。神金属は貴重品だけど、今使うのを渋っていられる状況じゃない。
「自動……製作!」
イメージするのは鋭い切先。
硬い装甲をたやすく貫くことのできる、貫通力の高い道具。
「――――神のツルハシ!」
神金属と棒を素材に、僕は白金色の頭部を持つ大型のツルハシを作り出す。
神金属で生み出された道具は瘴気に有効なだけじゃなく、その道具の役目を果たす効果が高い。
神の鍬は一振りで多くの土地を耕せるし、神の斧は一振りで周囲の木を全て伐採した上に良質な材木に変えてしまう。
この神のツルハシも、岩や鉱石を壊す能力が高いはずだ。
「終わりだ! 岩の王!」
僕は剣聖の加護と勇者の加護、そして神狼の加護の力で素早く岩の王の懐に潜り込む。そして神のツルハシを振り上げて、力の限り振り下ろす。
『ゴ、ア……!!』
白金色の刃が、岩の王の胴体に深く突き刺さる。あらかじめ迫撃槍でヒビが入っていたおかげで神のツルハシは岩の王の頑強な体をやすやすと貫き、その奥にあるゴーレムの核を傷つける。
『オ、オオ……』
胴体に大きな穴が空いた岩の王は力なく声を出すと、そのまま城壁の下に落下しぐったりとその場に倒れるのだった。