第7話 岩の王
「撃て撃てぇ! 奴をこれ以上中に入れるな!」
ドワーフの兵士たちは大砲で応戦するが、巨大なゴーレム『岩の王』はいくら砲弾をその身に食らっても怯むことなく進んでくる。
なんて硬いゴーレムなんだ。それに力も強い。岩でできた城壁を簡単に壊してどんどんこちらに向かって来ている。
「ドゥルガン王、あのゴーレムはいったい……!?」
「あれは2ヶ月ほど前から急に現れた謎のゴーレム。製作者も目的も不明で、ひたすら破壊を繰り返しながらこの王国に侵入しようとしている」
ドゥルガン王は険しい表情を浮かべながら岩の王を見る。
どうやら岩の王にはかなり苦渋を嘗めさせられているみたいだ。
それにしても謎のゴーレムか……いったいどんな人がなんの目的で作ったんだろう。気になる。
そんなことを考えていると、一人のドワーフがやって来てドゥルガン王に戦況を報告する。
「陛下! 岩の王は依然侵攻中! このままでは民間人にも被害が出ます!」
「むう、やむを得ぬ。用意していたアレの使用を許可する」
「かしこまりました! すぐに使用いたします!」
伝令役のドワーフは大急ぎで出ていく。
いったい「アレ」ってなんのことだろう。そう考えながら岩の王に再度目を向ける。すると、
「熱素爆弾、放てぇ!」
戦場となっている方向から声が聞こえたと思うと、次の瞬間、岩の王の体が物凄い勢いで爆発する。
「わっ!?」
突然のことに思わず驚いて声を出してしまう。
離れたこの場所でも耳が痛くなり、肌が熱を感じるほどの爆発。それを直接食らった岩の王はその場に膝をつき動きを止める。
僕たちが呆然としていると、ドゥルガン王が得意げに説明を始める。
「あれぞ我らドワーフの最強兵器『熱素爆弾』。魔石に含まれる魔力をルーン文字により熱素に変換し、それを砲弾の核にして超爆発を起こしている。一発放つごとにで貴重な魔石を消費してしまうのが欠点であるが、その威力は折り紙付きだ」
その説明を聞いた僕は驚く。
まさか貴重な魔石を爆弾にしちゃうなんて。確かにそれならあのエネルギーを生み出せるのも納得だ。
もしあれを魔導砲で撃ち出せたら、凄い威力になりそうだ。魔石を消費しちゃうのは嫌だけど、試してみたい。
「あ、あいつ逃げるわよ!」
アリスが岩の王を指差しながら叫ぶ。
そっちに目を向けてみると、確かに岩の王は背中を向けて王国から去って行った。大きな体を器用に畳み、狭い穴に這いながら入っていく。
どうやら熱素爆弾の一撃が相当こたえたみたいだ。でもあの一撃を食らっても動けるなんて、凄い耐久力だ。
「ねえ、あいつ追っかけなくていいの!? 倒すチャンスなんじゃない?」
アリスはドゥルガン王に尋ねる。
相手は王様なのに、いつも通りの口調でハラハラする。ドゥルガン王が細かいことは気にしない性格じゃなかったらまた一悶着起きていたよまったく……。
「残念ながらそれはできん。岩の王を倒せる兵力はないし、狭い通路では崩落の危険がある熱素爆弾を使うことはできん」
「じゃ、じゃあ私が行ってくるわ! あんなゴーレム、私が叩き斬ってあげる!」
アリスは任せなさいとばかりに胸を張って言う。
わがままなところが目立つアリスだけど、その正義感は誰よりも強い。困っている人を見過ごせないんだろう。
その気持ちは素晴らしいと思うけど、ここで行かせるのは得策には思えなかった。
「それはやめた方がいいと思う。僕たちは山の中の道に詳しくないし、暗いところでの戦いに不慣れだ。それにもし刺激したことで岩の王が王国に戻って来ちゃったらそれこそ大惨事になっちゃうよ」
「うむ、殿下の言う通りだ。まずは怪我人の手当てと城壁の修繕が最優先。奴と戦うなら比較的明るく、そして開けている王国近くでやるべきだろう」
「うう……分かったわよ」
僕だけでなく、ガーランにも諭されアリスは渋々納得してくれる。
ふう、これなら色々準備ができそうだ。
「ちょ、ちょっと待ってくれ。岩の王は我らドワーフの問題。お主たちを巻き込むことはできない。岩の王がいない間に避難してくれ」
ドゥルガン王が焦ったように言ってくる。
ガボさんも「そ、そうだ! 恩人と戦わせるわけにはいかねえ!」とそれに同意する。
だけどそう言われて「はい分かりました」と去るような人は僕たちの中にはいない。
「確かに僕たちは今日出会ったばかりです。でも僕たちはこの死の大地に住む仲間、見捨てることはできません」
「そう言ってくれるのは嬉しいが……岩の王と戦ってもお主らに益はなかろう」
「そんなことはないですよ。あのゴーレムを倒すことができれば、僕たちには心強い友好国ができるのですから。違いますか?」
そう尋ねるとドゥルガン王はしばらく呆気に取られたように固まると、堰を切ったように豪快に笑う。
「ガハハッ! 間違いない! そうだな、岩の王の問題が片付いたら正式に友好関係を結ばせてもらおう。そうなった暁には、もうお主らの村が鉱石や石材に困ることはないだろう」
「ありがとうございます。心強いです」
僕はドゥルガン王の差し出した手をがっしりと握る。
ゴツゴツとしている戦士の手だ。前にガーランの手を触った時を思い出す。




