第5話 ドワーフ王に会おう!
ドワーフの王様が住んでいるという屋敷に向かいながら、僕はガボさんにこの国についていくつか聞いた。
彼らはこの山脈の中を自分たちの領地としているらしいけど、街と呼べるものはこの場所くらいしかないらしい。いわゆる都市国家みたいな感じなのかな。
生活はこの中だけでほとんど賄っているけど、一応外の世界と取引もしているらしい。
だけど秘密を守ってくれる限られた商人だけと取引しているから、外の世界の人はこの国を知らないらしい。
きっと父上もここを知らないんだろうね。知っていたらこんな近くにある国、すぐにでも侵略していただろうから……。
「さ、着いたぞ。ここがドワーフ王ドゥルガンの住む城だ。あいつは頑固でおっかない顔をしている奴だが、いい奴だ。きっとお前たちのことも気にいるだろう」
上機嫌に言うガボさん。
どうやらガボさんはドゥルガン王と仲がいいみたいだ。これならスムーズに話が進みそうだと思っていたけど……
「動くな。不審な動きをしたら即座に斬り捨てる」
「そ、そんな……」
ドゥルガン王の前に行った僕たちは、武器を持ったドワーフの兵士たちに囲まれてしまっていた。
僕たちがいるのは王に謁見する用の大広間。
ここに入って広間の中央に来た途端、兵士に囲まれてしまったんだ。
ドワーフの兵士たちはみな頑丈そうな鎧に身を包み、武器を握っている。武器は槍だったり斧だったり剣だったりと様々だ。決まった武器じゃなくて得意な武器を持っているのかな?
「ど、ドゥルガン! これはいったいどういうことだ! こいつらは俺の客人だっていったはずだぞ!?」
僕たちの隣にいるガボさんが、視線の先のドゥルガン王に問いかける。
ドゥルガン王は鋭い目つきと刺さりそうなほど鋭利なアゴ髭が特徴的なドワーフだった。厳格そうでおっかない感じだ。
ドゥルガン王はガボさんの言葉を聞くと、「はあ……」と深いため息をつく。
「分かっているだろう、ガボ。この王国のことは絶対に外に漏らしてはいけない。お前の恩人とだろうとそれは例外ではない。ドワーフの歴史で人を信じ、騙されたことで失った故郷は一つや二つではない。ここは我らがようやく見つけた終の住処。その秘密を知った者を生かして帰すわけにはいかない」
ドゥルガン王はそう言い放つ。
この人の言うことはもっともで筋が通っている。命の恩人だと言ってくれているガボさんと違い、他のドワーフの人たちにとって僕たちは部外者でしかない。
そんな人たちを帰したら、この国のことを漏らしてしまう可能性がある。
「……どうしますか殿下。我々であればこの程度の包囲、突破できますが」
ガーランが小さな声で聞いてくる。
ドワーフの兵士は強そうだけど、ガーランとアリスが入れば逃げることは可能そうだ。いざとなれば他の戦力もあるし。
だけど僕はその提案に横に首を振る。
「いや、それは最後の手段にしよう。もし強引に逃げたら、もう仲良くなるのは難しいと思うから」
警戒されてはいるけど、僕たちはまだ彼らと『敵対』したわけじゃない。まだ仲良くなる道は残っているはずだ。
だけど一度戦闘になればその道は完全に閉ざされてしまう。できればそれは避けたい。
「……かしこまりました。しかしもし殿下に武器を向けるようなことがあれば、私も武器を抜かせていただきます」
「うん、その時はよろしくね」
ガーランもアリスも武器を向けられて我慢できるタイプじゃない。
そうなったらもう騒ぎに乗じて逃げるしかない。まあ道は覚えてるし、なんとかなる……と、思う。
まあそれは最後の手段だ。
そうならないためにも、ちゃんと話をしよう。
「ドゥルガン王、少し話をさせていただいてもよろしいでしょうか」
「……よいだろう、聞こうじゃないか。お主らが何者で、なぜ死の大地にいたのかを」
ドゥルガン王は鋭い眼差しを僕に向けながらそう答える。
下手に嘘をついて敵対するわけにはいかない。僕は正直にここにいる理由と身分を明かす。僕が王子であること、そして死の大地に追放されたこと、そしてそこを発展させるために金属を求めてここに訪れたこと。それら全てを話した。
「フォルニア王国の王子だって……!?」
「やっぱり信用ならない……」
話を聞いたドワーフの兵士たちが怪訝な目で僕たちを見る。
うーん、どうやらフォルニア王国は嫌われてしまっているみたいだ。まあ最近は近隣諸国からの評判も悪いし仕方ないか……。全て父上のせいだ。
一方ドゥルガン王は険しい表情をしているけど落ち着いている様子で、
「なるほど……肝が座っているとは思っていたが、王族だったとはな。驚いた。しかし解せんな、なぜ王族が死の大地に? このような地を開拓するなど人の手では不可能に思えるが……」
「えっとそれは……」
「それは私が説明しよう!」
突然ガーランが大きな声を出して、僕の声をかき消す。
び、びっくりした。耳が少しキーンとする。
「ここはお任せを、殿下。あの堅物に殿下が信用に足る人物だと教えてやります」
「え、えっと……大丈夫?」
「はい! お任せを!」
ガーランの圧に押し切られ、僕は「わ、わかった」とそれを許可してしまう。
ここまで言い切るってことはなにか策があるのかな? 不安になってきた……。
「私が殿下と初めて会ったのは寒い日のことで……」
ガーランはなんと僕と初めて会った日、つまり僕がまだ赤ん坊の頃の時から話し出す。
母上の話、父上や兄から疎まれていた話、そして大きくなり追放されてしまった話……それらをガーランは主観を織り込みながら熱く語る。
なんだか聞いてるこっちが恥ずかしくなってきた……。
「ろくな物資もなく、殿下は死の大地に追放されてしまった。普通であれば絶望し諦めてしまう絶望的な状況だ。しかし殿下は諦めなかった! 女神様より賜りし力と、そしてなにより諦めぬ黄金の精神で村を発展させ、仲間を増やしていったのだ!」
「おお……っ!」
ガーランの熱い語りにどよめくドワーフたち。
いつの間にか周りのドワーフたちの目から敵対心が消えていて、ガーランの話を前のめりに聞いている。
「そして今! 殿下は村の窮地を救うため、この山脈にやって来た。殿下はドワーフとも友好関係を結ぶことを望まれている。共に手を取り合い、さらなる発展を遂げるために! ドゥルガン王、あなたも王であるならば殿下の心が理解できるはず……兵を下げ、殿下と手を取り合っていただきたい!」
ガーランは力強く言い放つ。
凄い熱い演説だったけど……ドゥルガン王の心に響いたかな?
少しでも協力してくれる気になってくれるといいけどと思っていると、
「そうか……そんな過去があったのだな」
うつむき気味に話を聞いていたドゥルガン王が顔を上げる。
その顔を見た僕は「っ!?」と驚く。
「うう……おぅおぅ……ずびっ、そんな過去が……大変だったんだな……その小さな身でよくぞ頑張ったなあ……う゛うっ」
なんとドゥルガン王は大号泣していた。鋭かった目は下がり、おんおんと泣いている。
気づけば隣のガボさんだけでなく兵士のドワーフまで男泣きしている。
ドワーフってみんな涙もろいのかな?
「ガーラン、これって……」
「ドワーフは男気があり義理人情に厚い性格だと聞いたことがありますが……よもやここまで響くとは」
どうやらガーランもこの反応は予想外だったみたいだ。
驚いたけど、ひとまず警戒は緩まったみたいだ。これならお互い冷静に話ができそうだね。友好関係を結べるよう、頑張らないと。