表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

ザマアのない異世界恋愛

決闘裁判と辺境伯令嬢と

作者: なるえ白夜

「おーい! 決闘裁判があるそうだ!」


「おうよ! みんな、広場へ集まれ!」


 決闘裁判。それは、正式な裁判ではないものの、神により、正しき者が勝つといういわれの裁判。


 各国、もう百年の長きに渡り禁止命令を度々出しているのだが――――

 裁判の決定より早く片が付く為、未だ行われている、ある種の神明裁判でもある。


 だが、娯楽の少ない時代だ。隣国との国境線の中でも重要な辺境伯領で栄えているといえど、娯楽は王都ほどあるはずもなく……。決闘裁判は、一種の娯楽でもあるのだ。


 人の流れに従い、決闘裁判が行われるらしい広場に立ち入る。


 すると、そこには――――――


 邪魔にならぬようにだろう、纏められたプラチナブロンド。花のかんばせから推察するに、歳は十代後半だろうか?

 体つきは華奢でなよやかであるのに、凛とした佇まいが目を引く――――麗しき乙女が、決闘裁判の当事者の一人としてそこに立っているではないか!!


 10メートル程の円形に組まれた冊へ向かい、止めようと駆け出したが……


 間に合わなかった……っ。決闘裁判が始まってしまった。


 男女で決闘裁判が行われる時は、男は深さ1メートル程の穴に入って行われるはず。それが、男の方も乙女の方もレイピアを手に戦っているなどと……!! 正気の沙汰とは思えない行いだ!


 ……いや、しかし……??


「おおー!」


「わあああっ!」


「良いぞ! 女、頑張れー!」


 強い……! 確実に突きをさばき、己の必殺の一撃を繰り出す間を計っている……!


「はあっ!」


 ざしゅ……っ。


「ぐわああ……っ」


 乙女のレイピアは、男の胸元を浅く切り裂き、血を流させたではないか! 勝者は乙女! なんと素晴らしい手並みか!


「勝者、辺境伯ご令嬢、ラシェルさま!

 よって、ラシェルさまの侍女マリー殿をはずかしめたのは、敗者、ティボの行いと認める!」


 ……おいおい。嘘だろう? あの乙女の身分は、辺境伯令嬢だと? あの強さはなんだ? 圧倒的ではないか!!


「いやーあ……。辺境伯令嬢は、少々変わったお方とは聞き及んでおりましたが……」


 そこで、私の従者が頭を掻きながら言葉を漏らす。うん。気持ちは分かる。


 それも、侍女の為の代理決闘人などと……


「辺境伯の城へ急ごう」


 ぜん、興味が湧いた。だから、急ごう。


「はい、で……んんっ。ヴァランタンさま」



 ◇◇ ◆ ◇◇



「これはこれは、ヴァランタン王子殿下。ようこそ、我が城へお越し下さいました」


「ああ、辺境伯。出迎え、感謝する。

 隣の領へ、討伐遠征へ来ていたのでね。この機会に、ご令嬢のひととなりを伺いたく寄らせてもらった」


「は。王宮より報せが。殿下より、先触れも参っておりますゆえ、存じております。

 しかし、先ずは旅のお疲れをお落とし下さいませ。お疲れでございましょう」


「うむ。では、一度、部屋へ案内を頼もう」


 すぐにでも、あの乙女に会いたかったが……。確かに、旅装の埃っぽいまま会うのも気が引ける。そう思い、辺境伯のもてなしを素直に受ける。


 辺境伯家の侍女に案内され、部屋へ入る。既に魔導蛇口で湯が張られ、風呂の用意も出来ているらしい。


「エタン、衣装だが――――」


「殿下が衣装の指示をなさるなど、珍しいですね。侍女殿に渡しておきます」


 乳兄弟であるエタンは、色々言いたそうだったが珍しいと言っただけで、すぐに下がった。あれこれ言われても困るので、助かった……


 風呂に入れば、少し遅い午後のお茶の時間くらいにはなるだろうか。だが多分、そこで先程の乙女に会えるだろう。そう思うと、つい、普段は指示などしない衣装の事に口を挟んでしまった。


 身支度を整え暫くすると、思った通り、少し遅い午後のお茶に招かれた。


 そこには辺境伯と、先程の乙女が先に席に付いている。そこには、先程と打って変わり、令嬢(ぜん)とした美しい乙女がいたが……


 はは。これは……、私は完全に一目惚れだ。話術も巧みで心地よく、淑女らしい洗練された所作も身に着けていて……


 非の打ち所がないではないか。



 ◇◇ ◆ ◇◇



「それが、お父さまとお母さまの出会いなの?」


「そうだよ、マージュ。マージュもきっと、良い方と巡り会うだろう」


「はい、そうだと良いです」


 ラシェルが四男の出産の時、私とラシェルの出会いを話してくれと娘にねだられた。

 少々照れくさくはあるが、ちらほらとは聞いているだろうから話す事に否やはない。



 第三王子だった私は、いつかはしんせきこうするはずだった。そのため、女子しかいない辺境伯家へ婿入りする事に障害はなかった。


 愛しきラシェルと共に、人生を歩んできた。幸せだった。


 ただ……、ただ――――……


「ラシェル。貴女が私を不幸にしたのは、貴女の早い死だけだ」


 棺に眠る彼女は、何も応えてはくれない。


「ラシェル。おやすみ。子ども達は必ず、あなた程幸せにするから、安心しておくれ……」


『ええ、あなた。私、幸せだったわ。子供たちを、宜しくお願いしますわね』


 彼女の返事が聞えた気がした……


「ああ。君は君と共にった、四男を頼むよ。

 いつか、また逢おう。ラシェル……」


 それまで、しばしの別れだね。ラシェル……


 ――終――

 お読み下さって、ありがとうございます。


 面白かったと思って頂ければ、『★』を宜しくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ