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子は親を選べない。親も子を選べない。

生まれてきてありがとう

作者: 中嶋 千博

 生まれた子は知恵遅れだった。赤ちゃんのころは分からなかった。けれど一歳半を過ぎたころから、どうやら他の子よりも、発育が遅いようだと感じ、三歳近くになって、専門の医師に診てもらったところ、長ったらしい病名を聞かされたが、端的に言うと、知恵遅れということが判明した。

 ああ、どうしてわたしの子に限って。見捨てたいという思いがあった。けれど、赤ちゃんのころから育ててきた子だ。にこっと笑った顔やバイバイと手を振る我が子の姿を思い返すだけで、そんなことはできないと思ってしまう。けれど、知恵遅れだなんて。私とても、この子にとっても、苦労する人生が待っているだろう。

 ああ、どうすればいいのだろう。育てるしかない。それしかないのだ。それが親の務めなのだから。

 中学校にあがり、特殊学級に入った。ある日、学校から帰ってくると、体操着がひどいありさまになっていた。いじめにあっている、わたしは怒りで体が熱くなった。すぐに学校に抗議した。

「他の生徒にはきつくいって聞かせますので」

 電話口に出た教師はそう言った。しかし、いじめはやまなかった。スニーカーが泥まみれになっていたり、殴られた跡があったり。

 どうして我が子がこんな目に合わなくてはいけないのだ。

 わたしは悔しくて泣いた。そんなわたしを見て我が子がいった。

「ママ、生まれてきてごめんね」

 わたしは我が子をぎゅうっと抱きしめた。わたしだけはこの子の味方でなければならない。

 二十歳になった。我が子には特別な能力があった。耳コピである。一度聞いた旋律をすぐにピアノで演奏することができる。それがクラシックであれ、ポップスであれジャズであれ、なんでもだ。

 一躍有名になり、テレビや雑誌にひっぱりだこになった。天使の笑顔、天使の旋律、天使のエトセトラ。お金が大量に入ってきた。

 お金に余裕があったわけではなかった我が家の経済力は大幅にアップした。

「生まれてきてありがとう」

 わたしは我が子を抱きしめた。

 この子がわたしの子でよかった。愛しい子だ。


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