ある精神患者の話
アビデブブに関して語れることは何もないから、僕には聞かないでくれ。僕に語れることは、当たり前なことだけだ。そんなことを語っても仕方がないと、侮っちゃいけないよ。僕は寝ます、これは当たり前なことだ。ただ、これを言葉にしてみるとどうだろう? ほら、言ってみてごらん?
「僕は寝ます」
さぁ、君は何を感じた? うんうん、こいつは信用ならない、か。実をいうと、僕も今同じことを思ったんだ。少しニュアンスは違うけれど、ね。あれ、僕は何を言ってるんだ? という具合だよ。
あなたはまだ何も語っていないだって? あなたが言っているのは独り言だって? ほう、面白い! 君が僕を語るというわけだ!
「話の論点を変えないで下さい。そうやって逃げてきたのですか?」
「ん?」
「だから、そうやって語ることから逃げてきたのですか?」
「どうしてそんなことを言う?」
「本当のことを言っているだけです」
扉の閉まる音。誰かが開けたのか、それとも閉めたのか。
「本当のことは……本当のことは信用している人間の口から出なければ、それは……相手を傷付けるだけだ! もう出ていってくれ!」
先生が、部屋に入ってくる。
「調子はどうだい?」
「ええ、まぁまぁですよ、先生」