はじめての生理を迎えて
____中之島さんと岸和田さんからの便りが届く数日前の朝
朝起きて、朝食を食べている時にそれは起こった。
(おなかが痛い......それに頭痛も、風邪でも引いたのかな)
しかし、体温を測っても、「36.4度」と、特に熱はなかった。
とりあえず、腹痛が我慢の限界を迎えたのでトイレに向かった。
そこで、自分の身に何が起きているのか知る事となった。
いつものように、トイレで排便をしたところ、ゆるゆるの便が出た。いや、正しくはそう思っただけで、実際には血が大量に出ていた。しかし、私はいつもの様に拭き取り、水を流そうとした。その時に、私は大量の血を目撃した。そして、今、私の身に起きている事を知った。
(もしかして......生理?)
私は元々男だったので、生理現象については知ってはいたものの、どう対処すれば良いのかは知らなかった。しかし、母は今仕事に出かけていて、相談するにもしようがなかった。だが、その時私は生理について軽く考えていた。実際、母にも生理があるわけだが、何事もなく平常通りに過ごしていたからだ。
(まぁ、腹痛と頭痛と、あとは血が出るくらいだろうし、何とでもなるか!)
その日、私には「やるべき」事があった。
これからは「乙女ゲー」もするべきだと思い、先日、通販でポチった話題の「乙女ゲー」が昨日届いたのだ。
ギャルゲーは、基本的に男主人公が女子を攻略していくゲームだが、「乙女ゲー」はその逆だろうと思っていた。しかし、実際にプレイしてみると予想外の内容だった。
(ま、まさか、乙女ゲーって......告白されるゲームだったとは!)
乙女ゲーには数々のイケメンの王子様が登場し、耳障りの良い声で私に、厳密にいえばヒロインに対して話しかけてくるのだが、まるで私がヒロインの様な錯覚に陥り、心身共にホロホロ状態になっていた。
さすがに、一気にクリアするのは色々な意味で心身が持たないので、とりあえず1時間で中断した。
とりあえずコーヒーでも飲んでゆっくりしようと思った矢先、急に尿意を感じた。急ぎ、トイレに向かったのだが、たどり着く前に悲劇が起きた。
私の部屋は2階にあり、トイレに行くには1階に降りなければならないが、通常、間に合わないなんて事は無かった。そう、階段を降り切った瞬間に、事件が起こったのである。
(おぅ......)
耐えきれず、床が血で汚れてしまった。
しばらく、わけもわからず混乱して、その場から動けなかった。
(いつもなら間に合うのに.......どうして!!!!)
それからどうしたかと言うと、まず、下着やワンピースが濡れてしまったので、着替えた。
しかし、代えの服は無く、男だった頃の服は残していたので、ダボダボだが、とりあえず一時しのぎのため、着る事にした。ただ、残念ながらズボンは、ベルトで限界まで絞ってもダボダボ過ぎるために断念した。いつもなら、「これは男がみたら喜ぶ恰好だ!」などと冗談を言うのだが、状況が状況なので、その余裕はなかった。
それから、雑巾と水を汲んだバケツを用意し、汚れた床の掃除をした。
掃除が終わった丁度その時、再び尿意がやってきた。
(またか......スパン短すぎでしょ!!!)
さっきの反省から、急ぎトイレに駆け込み、大事にはならなかった。この後も、30分置きにトイレに駆け込み続け、だんだんイライラが激しくなっていった。
(生理って......こんなに辛いなんて!!)
あまりに辛く、ストレスも限界を迎えていたので、母が帰ってくるまで寝ている事にした。
『ただいまー!千早!ケーキ買ってきたわよ!』
(やっと帰ってきたか......)
母の元へ行こうと思い、ベッドから起き上がろうとした。
「えぇ......」
ベッドが汚れていたのである。
「お母さん! お母さん!」
私は泣きながら、母を呼んだ。
「どうしたのよ急に......あらら、生理はじまっちゃったのね」
「もう、この身体嫌だ」
「そんな事いっても仕方がないでしょ?とりあえず、お母さんが使ってるナプキンあげるから、付けなさい」
「ナプキンって?」
「ショーツに付けて、漏れを吸い取ってくれるグッズだよ?そんな事も知らなかったの?」
「だって、元々男だもん」
「それもそうね、とりあえず持ってくるから待ってなさい」
母はゲラゲラ笑いながら、ナプキンを取りに行った。
「もってきたわよ、これを使いなさい!」
「お母さん、もう代えの下着ないよ......一度、漏らしちゃって」
「あらら......とりあえず洗うから脱いで」
「わかっら」
「......T-シャツだけっていうのも、なんだかちょっとエロいわね」
「お母さん、そんな冗談、今言うの?」
「勘違いしないでね、お母さんは千早を元気付けようと思ってそう言ったんだから!」
「......」
「とりあえず、私のスカートかズボンは......サイズが合わないわね」
「......」
「わかった、とりあえず代えの下着を買ってくるから、ちょっと待ってなさい!」
「わかった」
母は、スーツのまま買い物に出かけた。
(すぅすぅする......)
着るものが無いので、下は裸のままだ。
とりあえず、母が買い物に行っている間に汚したシーツをはがし、洗濯機に入れて洗濯した。もちろん、その間も何度も尿意に襲われ、幾度となくトイレに駆け込んだ。
1時間後、母が帰ってきた。
「今度、お洋服も買いに行かないとね」
「それもだけど、生理中の生活の仕方について教えて!」
「はいはい、わかったから落ち着いて」
「落ち着いていられるわけないじゃん」
「結構イライラしてるでしょ?お母さん、誰にも分ってもらえなくて苦しかったの......だから、共感できる相手ができて、ちょっと嬉しくて」
「そんな事は良いから......」
「はいはい」
それから、トイレでの処理の仕方等、生理中の生き方について学んだ。
「これからは、ナプキンを常時付けておくようにね! これが、寝る時用ね!」
「結構、女子って大変なんだね」
「わかった?これからは女の子を大切にするようにね......って千早も女の子だった」
「......」
「もう......冗談が通用しない子ね」
それから、生理は1週間近く続いた。