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戸籍変更は大変だ

 突然、女子化してから、もう早い事に3か月が経とうとしていた。

 (学校のみんな、元気にしているだろうか......みんなと会いたい)

 女子化して以降、3カ月間もの間、私はずっと自宅警備員をしていた。当然の事だが、その間、誰とも会えていない。


 女子化現象は、空想の世界では一応、「女体化」というジャンルで、存在こそしているが非常にマニアックだ。ましてや、全人類史上では前代未聞だ。もしこの事、公に知られてしまったら、ストーカー被害や研究機関に捕まえられて普通の人生を歩めなくなってしまうだろう。なので、例え親しい友達であっても話せなかった。

 学校はどうなったかというと、両親の根回しにより「海外留学へ行った」事になっているらしい。なので、戸籍情報の変更さえ完了すれば、学校にも通える様になる。しかし、現実はそう甘くはなかった。


 政府や研究機関から、女子化現象を隠す為に敢えて「性転換」する事にしたいが、これがまた、一筋縄ではいかない。

 「性転換」をするには通常、家庭裁判所に申し立てる必要がある。男子から女子へ性転換する場合には、手術により男の生殖機能を排除し、ホルモン治療を行わなければならず、その証明書類の提出が求められる。

 俺の場合、身体そのものが「女子化」しているので、手術や治療の必要は無い。だが、問題はどうやって、その証明書類を入手するのかだ。「身体が突然女の子になった」と言っても信じてくれる人はまず居ないだろう。

 その他にも、戸籍謄本や住民票などの一般的な書類、二人以上の医者による診断書を用意する必要がある。

 戸籍謄本や住民票については、容易に入手できる。しかし、二人以上の医者に診断書を書いてもらう必要があり、これもまた難しい話なのだ。

 まず、「女子化した」と言っても中々信じてもらえないだろうし、仮にもし、信じてくれたとしても、その医者による口外リスクがある。信頼できて、なおかつ、信じてくれる医者を探す必要があった。そのため、父はあの日以降、仕事終わりに学生時代の友人頼り、数多くの医者と会い、交友を広げるのに勤しんでいた。

 (どこかに、息子の身に起きた事を信じてくれて、なおかつ、誰にも口外しないと約束してくれる医者はいないものか・・・)

 一方、母はというと仕事を切り上げて早く帰ってくる事が多くなった。ご近所さんと交流を深めて、「俺が海外留学した事」と「親戚の子を預かることになった事」を広めるためだ。

 


 ご近所さんの目を侮ってはいけない。もし、昨日まで普通に会っていた近所に住む男の子が急に、見ることも会うこともなくなったらどうなるだろうか。無関心な人もいるだろうが、その逆に、心配でその家族に話を聞いたり、警察に通報することもあるだろう。なので、不審に思われないためにも、情報を適度に流していく必要があった。

 次に、俺が外に出られない理由だが、いつも見ない顔の人が、平然と近所の家に入っていくところを目撃したら、ご近所さんはどう思うだろうか?しかも、俺は今は、女子中学生だ。もし、「あそこの家で、家出少女を匿っている」という風に思われてしまえば、警察に通報されてしまう危険性が非常に高いのだ。

 なので、ご近所さんにある程度噂が浸透するまでは、俺は外に出ることはできなかったのだ。

 俺が自由に外を歩ける様になったのは、女子化してから5か月が経った頃であった。



 女子化してから4か月経ったある日、父がとある二人の怪しい人物を連れきた。

 二人とも、見た目は50歳なのだが、そうは見えないオーラを醸し出していた。というのも、一人は金髪でツインテール、もう一人はピンク色の髪で、ポニーテールをしている。

 「千早、ヒーロー達を連れてきたぞ!!」

  恰好は変だが、父の異常に高いテンションから、信頼に足る人物なのだろう。

 「やぁ、こんにちは! 赤坂千早君だね?」

 金髪のツインテールおじさんが語りかけてきた。

 「は、はじめまして、赤坂千早と申します!」

 「わしは『中之島 鳳』、君のお父さんの友達じゃ!」

 中之島さんの自己紹介が終わった直後、間髪を入れずに隣のポニーテールおじさんが話しかけてきた。

 「戸籍見させて貰ったけど、女の子になった、というのは本当みたいだね。」

 彼の猪突猛進さに、私の人見知りモードが発動してしまった。

 「岸和田君、まずは自己紹介せんか!! すまんね千早君。これでも良い奴だから許してあげて欲しい」

 「すまない。俺は『岸和田 見原』、俺たちは君のヒーローになる予定の者さ!」

 彼はウィンクを決めた。

 「......は、はじめまして!ここじゃ何なので、上がってください!」

 私は逃げる様にコーヒーを淹れに台所に向かった。



 「さて、改めて自己紹介をすると、わしは『中之島 鳳』で、臓器から心理まで幅広く対応できる"神医者"として俗に言われておる。」

 「俺は『岸和田 見原』、中之島師匠の弟子さ!」

 「千早、一応言っておく。見た目はアレだが、このお二方は、現役で世界中のありとあらゆる場所で活躍されている、偉い偉いお医者様だから安心していいぞ!」

 二人とも、一部貶されている事に気が付いていないのか、ドヤ顔でこっちを見ている。

 「本題の"女子化"についてじゃが、流石にわしらでも原因はわからんし、元に戻してやることもできん。じゃが、医療界の中では随分有名な"わしら"であれば、嘘の証言なんぞ、一つや二つたわいのないことじゃ。」

 「俺はともかく、師匠は天皇陛下と仲が良い事で有名だから、誰も疑いやしないよ!」

 「あの、一つ聞いてもよろしいですか?」

 「なんじゃ?」

 「なんだ?」

 「一体、なぜ、お二人の様な偉大な方が父と知り合いなのですか?」

 父は、ごく普通の商社勤めのサラリーマンだ。学歴も高卒で、決して有名大学を出たわけでもない。偉大な人と関われるはずがないのだ。

 「なんじゃ赤坂、話してないのか?」

 「師匠は千早ちゃんのお父さんに命を救われたんだよ」

 (命を救ったって......どういう)

 「そうじゃな、岸和田の言う通り、わしは君のお父さん、『赤坂 和泉』さんに命を救われたのじゃ」

 「先生、そんな大そうな事はしてませんから!!」

 「お父さん、何があったの?」

 「わしが話そう。あれは2~3日前の事じゃ。居酒屋で飲んでいた時に、暴漢に襲われてのう。」

 「師匠は酔っ払って、暴漢に対して、ついつい挑発してしまったんすよ.,....」

 岸和田さんが中之島さんの話に割り込んできた。

 「人が話しているところに割り込むんじゃない!!」

 「すみません、師匠」

 「でじゃ、その暴漢が、わしを包丁で刺そうとしたのじゃが...」

 「偶然、その場に千早ちゃんのお父さんが居て、華麗なCQCで倒してくれたんだぜ」

 「岸和田君、いい加減にしてくれんか?」

 (お父さんがそんな事を......信じがたい)

 「お父さん、今の話、本当?」

 「本当だ。」

 「千早ちゃんのお父さんってすごいね!元自衛隊?」

 「いえ、偶然、アニメでCQCを知って、興味本位で練習していただけです!まさか、CQCがこんな所で役に立つとは思いもしませんでしたが...,,,」

 「そうだったのですね。父がそんな事を......」

 「うむ。それでな、君のお父さんが何か困っていると聞いたので、恩返しも兼ねて相談に乗ったのじゃ。まさか、こんな面白い......いや、大変な事が起こっていたとは予想外じゃったがのう!」

 (面白いって...人が真剣に悩んでいるのに!!)

 父も同じことを思っていたらしく、急に顔色が変わった。それを察した岸和田さんがストッパーに入った。

 「それで、千早ちゃん。千早ちゃんは、今後どうしたいの?」

 「できれば、元に戻りたいです」

 「それは残念だが師匠のわしでも無理じゃ」

 「では、早くこの状況を打破して普通に生きていきたいです!」

 「それなら大丈夫!千早ちゃん、師匠は凄いんだから!!」

 「うむ!とりあえず、全部話してみぃ!」

 私は、中之島さんと岸和田さんに事の全てを話した。それから、今後の事を考えて、「性転換」手続きを取る方針でいる事も打ち明けた。

 

 「大体は和泉さんから聞いてた通りじゃの......さて、岸和田君! いくぞい!」

 「千早ちゃん、1~2週間ほどの辛抱だからね!待っててね!」

 岸和田さんのウィンクが決まった。

 「娘の件をどうか、どうか、よろしくお願いします!」

 「和泉さん!任せてくだされ!」

 そう言い残して、二人は去っていった。

「あの二人は信頼に足る人達だから、期待しても良いぞ。それから、女子として生きて行く心の準備をしておいた方がいいぞ!」

 ということで、俺、いや私と言うべきか、その日から恋愛小説や恋愛ドラマを見て"女心"を研究したり、化粧や料理の練習をしたり、女装慣れの日々始まった。

 "女心"については、研究する必要がなかった。というのも、女子化してから、徐々にではわるが、見た目だけでなく、内面も変化していたのだ。一方、化粧技術については中々苦労した。というのも、メイクしなくても絶世の美人で可愛いので、ちょっとでも化粧すると、台無しになってしまう。メイクの練習をするには、全く別人の顔に見せることを意識する必要があった。

 料理は、生まれてこのかた一度もしたことがなかったので、包丁の使い方から学んだ。男の身体だったときは、超が付くほど不器用だったが、不思議なことに手先が器用になっていて苦労することはなかった。

 最初はカレーライスを作り、次はハヤシライスをと、作れる料理のレパートリーを増やしていった。

 衣服については、最初はキャピソールやショーツ、ブラなどの下着類でさえ違和感モリモリで、さらに、スカートやワンピースなんて、下が無防備なので、家の中で着るだけでも抵抗が半端なかった。しかし、慣れるまでに時間はそれほどかからなかった。



 女子として生きて行く準備を始めて、1か月が経過した。衣服の違和感は無くなり、普通に着れるようになった。メイク技術も、母のおかげで随分と上達した。女心については、恋愛ドラマや小説で、かなり共感できるようなレベルまで達した。それから、はじめての"生理"がやってきた。下着はしょっちゅう大量の出血で汚れるし、食欲もなくなるし、眩暈やイライラもするし本当に辛い日々が1週間続いた。そんな最中に、例の二人から手紙が、新幹線の切符と共に送られてきた。


 『赤坂 千早殿、戸籍情報の性別変更について、良い報告があります。天皇陛下に例の件を話したところ、総理大臣へ紹介して頂き、総理大臣と会いました。例の件について相談したところ、秘密裏にお会いしたいとの事です。和泉様と一緒に11月11日、13時に首相官邸まで、お越しください。追記、同封している新幹線の切符をご利用ください。』


 (え、天皇陛下に総理大臣まで、一番知られたらまずい人達に...)

 「お父さん、どうしよう.....夜逃げ?」

 「実はな、お前に隠している事があるんだ」

 「え?」

 父に問い詰めようとした時、母がやってきて父のフォローに回った。

 「あんまりお父さんを責めないであげて」

 「お母さんまで......どういうこと?」

 

 それから、父と母から、話を聞いた。

 簡単に説明すると、『性転換』はあくまで戸籍上の性別を変えるだけでなので、転入手続きを進める上で障害となる。というのも、俺は一応「海外留学した」事になっているらしく、矛盾が生じるからだ。それに、「海外留学」を撤回したとして、「性転換」したと伝えるにしても、そもそもとして性転換手続きに苦戦している現状では、学校側に証明する事自体、まず不可能なのだ。そして、仮に証明することができたとしても、いじめに遭う事は容易に想像が付く。事実を隠して別人だと振舞う事はできるかもしれないが、公的な書類を扱う際や、先生達がボロを出すかもしれない。だったら、性転換ではなく、いっその事、新たに戸籍を作り、最初から別人だ様に振舞えば問題は起こらないと考え、方針を変えていたのだ。

 とはいえ、戸籍を新規に作るというのも簡単な事ではない。身元不明者として家庭裁判所に行き、就籍する事で戸籍を得る事は可能とされている。しかし、そうなると元の戸籍はどうするのかという話になる。それから、身元不明者として戸籍を新たに獲得することができたとしても、家族との縁は、当然そこには存在しない。復縁するには、養子縁組をするしかない。色々と問題が山積みなのだ。これらの問題を克服するのは、普通の大人でもかなり大変な労力なのだが、俺は大人でもなく、中学生、つまり子供だ。いくら今後の事をと思っても、あれこれと手続きをさせるのは荷が重たすぎるのだ。

 このことから、両親は頭を悩ませていた。そんなある日、父が天皇陛下や総理大臣と縁のある偉人と友人になった。

 父と母で一晩中議論した結果、その偉人を頼りに総理大臣に会って、直接なんとかして貰おうと考えたのだ。

 勿論、モルモットにされてしまうリスクも否定できないが、偉人には恩を売っていることもあり、その分は裏切らないだろうと俺の両親は期待したのだ。


 「でも、やっぱり怖いよ......」

 「大丈夫よ、何かあったらお父さんがきっと守ってくれるわ!」

 「ああ、俺のCQCで守ってやるから安心しろ!」

 「......わかった」


 そんなこんなで、俺は父と一緒に東京へ行くことになった。



ーー時を少し飛ばそう。


 私は今、父と首相官邸のとある一室で待たされている。もう少ししたら、総理大臣がやってくるらしい。

 「お父さん、総理大臣になんて話せばいいのかな......」

 「いいか? 聞かれた事に素直に答えるんだぞ?」

 「わかった」

 そうこうしていると、総理大臣と中之島さん、岸和田さんが一緒に入ってきた。

 「ようこそ、お越しくださいました。赤坂 千早さん、赤坂 和泉さん初めまして。私は総理大臣をさせて頂いております、堺 高石と申します。」

 「はじめまして! 赤坂 和泉と申します。こちらは、私の息子、赤坂 千早です」

 「はじめまして。赤坂 千早と申します。」

 「そう、緊張しなくてよいぞ、お二方」

 「千早ちゃん!スマイルスマイル!」

 「お二人がおっしゃる通りでございます。コーヒーとお茶を用意させて頂きましたので、まずは飲まれてください! 話は落ち着いてからに致しましょう」

 総理大臣の秘書らしいき人が無言でコーヒーとお菓子を運んできた。

 「本題に入る前に、千早さん。今のお身体になられた心境を伺っても宜しいでしょうか?」

 中之島さんはコーヒーを早々に飲み干し、お代わりを総理大臣の秘書に要求していた。

 「心境......ですか?」

 「『元の身体の方が良かった』等、何でも構いません!」

 「せ、生理に悩まされています」

 「女性の身体の特性上、仕方の無い事でありますが、ご心中お察しします」

 「で、ですが、それを除けば特に不満ではないです!」

 「じゃが、千早さん。この前、元に戻りたいと言ってなかったかのう」

 中之島さんが二度目のコーヒーのお代わりを要求しながらそう言うと、父が反応した。

 「そうだぞ? 最初はあれほどショックを受けてたのにどうしたんだ!」

 「まぁまぁ、中之島さんも和泉さんも落ち着いてください!」

 「最初は、男として誇りを持っていました。なので、ショックが大きかったです」

 「つまり、時間が経っていくにつれて、今のお身体でも満更でもなくなった、という事ですね」

 「はい......ですが、生理は辛いです。元に戻りたい気持ちには変わりはありません!」

 「え~! 可愛いのに......」

 私の『男に戻りたい』を聞いて岸和田さんはショックを受けていた。

 そんなこんなで、本題とは逸れた話が30分間続いた。緊張もいつの間にか解れていた。


 「さて、そろそろ緊張も解れてきたと思いますので、本題に入らせて頂きます」

 総理大臣がそう言うと、さっきまでコーヒーを飲み干してはお代わりを要求を繰り返し、たまにトイレに行くなど、完全にリラックス状態だった中之島さんのオーラと姿勢が切り替わった。私と父も、さっきまでの会話で緊張が緩んでいたが、再び気を引き締め直した。

 「今回、お二人に起こし頂いたのは、『千早さんの今後の扱い』についてです」

 「モルモットは嫌です! 普通に生きたいです!」

 「俺の息子は渡しません!」

 「いえ、そういうお話をしたくてお集まり頂いたわけではありません。もちろん、研究に協力して頂けるのであれば、こちらとしても幸いではありますが、一人の人間として、私はそのような事を強制は致しません」

 モルモットにはされることはない、そう分かったら一気に肩の力が抜けた。

 「千早ちゃん、気を抜くのはまだ早いよ!」

 「岸和田さんのおっしゃる通りでございます。和泉さん、和泉さんの案は『新たに戸籍を作る』という事でよろしいでしょうか?」

 「はい!」

 「新しく戸籍を作って、別の人とし、尚且つ血縁関係も維持する。この事自体は、特に問題はございません。ですが、千早さんの身体が元に戻る可能性を否定することは出来かねます」

 『元に戻れるんですか!?』

 「それについては、今の時点では先日も言ったが、無理じゃ」

 「無理だけど、女の子の身体に変わる事があるなら、その逆が起きても不思議ではないよねっていうことだよ!」

 「つ、つまりどういうことですか?私はどうなるんですか?」

 「そういうことか!」

 私が混乱している中、父は話の内容を理解した。

 「千早。つまりな、仮に新しく戸籍を作るとて、お前の身体が元に戻ったらまた、新しく戸籍を作りなおすという手間がかかるということだよ」

 「その通りでございます。戸籍を新しく作る事は私の権力を利用すれば問題はありません。しかし、膨大な労力を要するため、そう何度も行える事ではございません。いえ、実際には可能ですが、情報漏洩のリスクが高まり、国中に情報が広がってしまう可能性も否定できかねます。そして、それは千早さんにとっても望まれない事だと思います」

 「性転換した事にするしか無いんですか?」

 「千早。それも、同じような事だぞ?学校や近所で性転換の噂が流れでもしたらどうする?」

 (......それじゃ、打つ手なしって事!?)

 「そこで、です。私の方から一つ提案をさせて頂きます」

 「正直、わしはそれについては気に食わないんじゃが......とりあえず聞いてやってくれ!」

 「結論から申しますと、国立研究開発法人だ『国立医療研究センター大阪支部』での研究に協力して頂く代わりに、政府の管理下ではありますが二重の戸籍を認める方向で如何でしょうか?」

 それを聞いた私と父は、幾つかの質問を総理大臣にした。

 長くなるので結論だけ説明しよう。


 まず、政府の管理下とする事で、政権が変わったとしても情報が次に引き継がれるので、面倒な手続きを省略する事ができる。

 二重に戸籍がある状態を認める事で、私はどちらの人物としても生きて行くことができる。しかし、あくまで特例であり、認めるには根拠が必要で、研究に協力する事でその根拠を満たす事ができる。

 研究への協力内容は、週に1度、MRI検査や血液採集(ホルモン状況を把握するため)などを始めとする、フル人間ドック及び、心理状態や身体状態を含む日常生活の記録及びその提出を課される。

 日常生活の記録については、研究所に住み、学校やその他の時間を除いてバイタルなどの測定に協力した場合、免除される。

 なお、研究に協力した謝礼として、月20万円(研究所に住む場合はその倍)の謝礼及び生活が保証される。


 「わしは反対じゃ!千早さんは普通に生活したいのじゃろ?」

 (でも、アニメで良くみる、水槽の中に長時間閉じ込められて監視されるわけではなさそうだし......)

 私は元々、Mっ気があったため、そこまで酷くないとわかると、満更でもなくなったのだ。

 「お父さん、どうするべきだと思う?」

 「正直、人間ドックを無料で受けられると考えるとお得だ。記録の提出は大変だと思うが、研究所暮らしよりマシだ」

 「なるほど......でも、毎回、国立研究所に行かないとダメって事でしょ?」

 「おっしゃる通りでございます。検査には国立研究所に起こし頂きます。ただし、交通費は全額支給させて頂きます」

 「決めるのは体験してみてからでも良いですか?」

 「お前、まさか研究所に住む気か!?近いからわざわざ研究所に住む必要なんてない! それに、どんな目に合うかわかったもんじゃないぞ!」

 「和泉さん、解剖とかそんな残酷な事はしないので、そこは安心しても良いんじゃが、わしも研究所暮らしはオススメできんのう」

 「あれ?でも、師匠が担当医になるんじゃなかったすか?」

 「まず、千早さん。一度体験してみてから決断されても構いません。次に、岸和田さん、中之島さんについては、政府の顧問医療従事者としてご協力頂く事になっております」

 (う~ん、記録の提出も面倒そうだし......お試しで研究所暮らししてみようかな)

 「総理大臣、戸籍の件、完了するまでにどのくらいかかりますか?」

 「まず、順序として内閣府で議論を行い、その後衆参両院で審議を行って、その後、各種事務手続きに入ります。早くて1週間と言ったところだと思います」

 (どうせ、1週間何もできないくらいなら......)

 「研究所暮らしを1週間だけ体験してみたいです!」

 それを聞いた父と中之島さんは唖然としていた。

 「千早、本当にそれで良いのか?お前の決める事だから俺はこれ以上の口出しはしないが」

 (話を聞いている感じだと、特に悪い話とは思えないし...)

 「うん、私はこれで良いと思う」

 「それでは千早さん、後日、ご自宅の方に大阪支部より連絡をさせるので、その後、大阪支部にお越しください」

 そうして、総理大臣との秘密の会談が終わった。

 父は、私の決断に大変ショックを受けて、中之島さんに励まされていた。

 「千早さんの事は、わしがしっかりと責任をもって守るから安心してくだされ!」


 その後、疲れ果てていたのか、私と父は、帰りの新幹線の中でぐっすり寝た。

 後日、研究所の方から連絡が来て、1週間の研究所暮らしをする事になるが、その話はまた今度しようと思う。

 研究所暮らしが一旦終わり、自宅に帰ったその日、政府から書類が届いた。

 

 書類の内容は、

・新しい名前

・これからの性別(暫定)

・謝礼の振込先口座

・誓約

全部で3枚であった。私は、1日中かけて慎重に記入して提出した。それから数日後、無事に手続きが完了したとの報告を受け、すぐに「私立 王佐加中学校」への転入手続きを行った。



 私の名前は「赤坂美咲」、13歳。来週から「私立 王佐加中学校」に通う事になる中学一年生。病弱で、今までずっと入院してた「赤坂千早」の従妹です。(もちろん、病弱とか妹とかは非公式の設定だけど)

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