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友達から恋人へ

 僕は、『高師浜 忠岡』。私立「王佐加中学校」に通う一人の1年生。

 人見知りで、小学生の6年間ずっと友達が居なかった。いや、厳密には毎年、何人かのクラスメイトとは仲良くしていた。だけど、彼らは決して友達と言えるものではなかった。

 僕は、基本的に誰とも関わらないため、影が薄く、当然、クラス外の同級生に認知される事も非常に稀だった。

 僕の小学校は、一学年に10クラスあり、一クラス当たり60人のクラスメイトが居る。一学年に600人も生徒が居るので、毎年学年が上がる毎に実施されるクラス替えで、初対面かつ僕の事を知らないクラスメイトが一定数居た。そのため、年度初め限定ではあるものの、僕と話してくれるクラスメイトは何人か居た。しかし、毎年の事だが、そんな状況は長く続かなかった。

 クラス替えによって、密閉されていた部屋に新鮮な空気が入っても、再び密閉すれば空気は淀む。絡んでくれていたクラスメイトが徐々に僕を捨てて別のクラスメイトと遊ぶようになり、春が終わり、梅雨に入る頃には僕の周りには誰も居なくなっていた。

 「顔はイケメンなのに、勿体ないですわ!」

 そんな僕を見兼ねて、従妹から、頻繁に説教されていた。

 従妹とは、同じ小学校に通っていて、不思議な事に毎年クラスが同じだった。そのため、僕の事情をすべて知っている。家が近いと言う事もあり、学校が終わった後、彼女の豪邸へ頻繁に行っていた。厳密には、連行されたという方が正しいかもしれない。

 「そこまで言うなら、いずみのグループに入れてくれれば良いのに」

 彼女はその口調から、毎年、クラスの女王様と崇め奉られている。クラスの人気物だ。

 「嫌ですわ! 学校で一緒に居る所を見られると、私の品が落ちてしまうもの」

 「......」

 「そういう所もですわ! 何か一つや二つ言い返しなさいよ!」

 (ぐうの音も出ない......)

 「仕方が無いですわね......この、府議会議員の娘である、私が直々に高師浜、あなたを鍛え上げて差し上げますわ!」

 「いや、いいよ......」

 「まずは返事からですわ!」

 そうして、彼女の特訓が始まった。しかし、彼女も彼女で、友達を家に呼んで遊ぶことも多く、忙しいため、3カ月も続かなかった。そして、何も改善できず、小学校卒業の日を迎えた。

 (もう中学生か......変れるといいなぁ)

 不安と期待が入り混じった状態で、私立「王佐加中学校」の入学式を迎えた。

 

 「ねぇねぇ~、部活とかもう何に入るか決めた?」

 いきなり僕の席の所へやってきて、声を掛けてきた。

 「......まだ」

 「そうだよね~。迷うよね......俺もなんだ」

 なんだこいつ、いきなり初対面相手に馴れ馴れしく話しかけてくるなんて。

 「あ、そういえば自己紹介まだだったよね? 俺は『赤坂 千早』」

 「僕は......『高師浜 忠岡』」

 「ところで、高師浜君。 吹奏楽部良いなぁって思ってるんだけど、どうかな?」

 (グイグイ引っ張られる......いずみと同じタイプの人だな)

 「僕は......」

 キンコンカンコーン!

 「あ、ホームルームの後でね!」

 (一体あいつは何?)

 『みんな、席についてー!』

 先生が教室に入ってきて、ホームルームが始まった。  

 『さて、これからの体育館で入学式があります。廊下に出て適当に3列に並んでください』

 「行こう! 高師浜君!」

 (他にもクラスメイトは沢山いるのに、どうして僕なんか.....)

 「高師浜君。好きな食べ物何?」

 「僕の......」

 「俺はお好み焼き!」

 (勢いが早すぎてついていけない......)

 「僕も......オコノミヤキ」

 「何って?もう一回言ってくれない?」

 「お好み焼きが好き!!!!」

 『あの人、お好み焼きが好きなんだって(笑)』

 (しまった、勢い余って大声が出てしまった......恥ずかしい)

 「君、興奮するのもわかるけど、少し静かにしてね」

 「ごめんなさい......先生」

 「高師浜君、BPOはわきまえないとダメだよ(笑)」

 (お前のせいだ!!)

 「BPOじゃなくてTPO......です」

 「......」

 間違いを指摘したら、恥ずかしくなったのか、彼は急に黙り込んだ。

 

 入学式も無事終わり、再び教室に戻ってきた。


 『さ~て、まずは自己紹介だな! 俺は『南 海斗』、今日からお前たちの担任だ。次は、君たちの番だ。出席番号順に自己紹介を頼む!』


 「私は『赤坂 千早』、人見知りであんまり話せないと思うけど、宜しくお願いします!」

 (どこが人見知りだ!!)

 『次!』

 (あいつとは関わりたくはない......)

 『次!』

 「私は府議員の父を持つ、『佐野 いずみ』ですわ! 皆さん、何か困ったことがあれば、お気軽に相談してくれても構いませんわよ!」

 (げ......いずみも同じクラス、僕の中学校生活早くも終わった)

 

 ホームルームが終わり、放課後になった。

 僕は、赤坂 千早を避けるために、早々と教室を去り、帰宅した。

 

 翌日、教室について席に座ると、彼がやってきた。

 「おはよう!」

 「......おはよう」

 (まぁ、いつもの如く、梅雨入り前には離れていくだろうし......我慢しよう)

 

 「俺、吹奏楽に入ったんだけど、高師浜も入らない?」

 「僕は......」

 「まぁ何にせよ、まずは体験あるのみ!」

 『吹奏楽に興味はない』と言おうとした途端、相変わらず人の話を訊かずに、グイグイと一方的に話を進められてしまった。

 「放課後、一緒に行こう!」

 「どうして......どうして僕ばっかりなの?」

 「どういう意味?」

 「赤坂君、他のクラスメイトとは話さないの?」

 さっきまで明るい笑顔だった彼の表情がが急に厳かになった。

 「悪い?」

 「悪くは......ないけど」

 「俺、人見知りで、話しかけやすいと思った人とじゃないと中々話しかけずらいんだ。入学式の日で、ぱっと見一番話しかけやすかったのは高師浜だけだったんだよ」

 (あ、この人は僕と同じなんだ......)

 「人見知りって本当なんだね」

 「......うん」

 「わかったよ......体験だけだからね」

 「そんな事言わずに、一緒に吹奏楽やろうよ!」

 「何にせよ、まずは体験あるのみ、じゃなかったっけ?」


 放課後、彼と一緒に吹奏楽の部室を訪れた。

 「女子ばっかり......」

 「......俺が居る!」

 (よく、赤坂はこんな環境の中に居ようと思えるな......)

 「確かに女子ばっかりだけど、本質は楽器と演奏だから!」

 そういって、彼は長方形の固そうな箱を持ってきた。

 「これは何?」

 「楽器ケースだよ!中身は......」

 鍵を開け、楽器ケースを開くと、そこには小さな銀色の楽器と、何らかの液体が入ったプラスチックの容器、布、そして、楽器本体と同じく銀色ではあるが、それよりも遥かに小さいパーツが入っていた。

 彼は、そのパーツを取り出した。

 「これはマウスピースと言って、口に当てる部分だよ!吹いてみて!」

 「これだけで音なんか出るの?」

 「出るよ!これ持ってて」

 そういうと、彼は楽器ケースからもう一つのマウスピースを取り出して、口に当てた。


 ブーブブブブブブブ~(ドーレミファソラシド~)


 「汚い音だね」

 「あくまで、マッピは口に当てて、振動を楽器に伝える入口の様なものだからね。それはともかく、やってみて!」

 「わかった」


 スース~

 

(あれ......音が出ない、どうして)

 彼はお腹を抱えて爆笑していた。

 「人が頑張ってるって言うのに!!」

 「ごめんごめん!これはね、トランペットと言って、難しい楽器だからいきなり出せるものじゃないよ!」

 「もっと簡単なのを......」

 そういうと、彼は部室の奥にある部屋に向かった。そして、今度は先端が丸みを帯びた、細長い楽器ケースを持ってきた。

 「こっちなら簡単だよ!」

 「これは?」

 「トロンボーンっていう楽器だよ!」

 「さっきのマウスピースより大きくない?」

 「うん、中音域に特化した楽器だからね。ペットよりは吹きやすいと思うよ!」

 「そう......?」

 とりあえず吹いてみた。

 

 スース―

 

 (音が出ない....,..)


 スーーーー!!!ブッ!


 「やった!出た!」

 「おーすごい!でも、普通に楽器付けて演奏できるようになるには普通にマッピだけで音階を吹けるようにならないとだけどね!」

 「きついね......」

 「いやいや、最初はみんなそんなものだよ!」

 (ん?あれ、さっきからあたかも経験者の様に語っているけど、赤坂も最近吹奏楽始めたばかりなんじゃ?)

 「赤坂も?」

 「俺も、小学生の頃、はじめてペットを買ってもらった時は全然吹けなかったよ!」

 「そうなんだ......僕も上手くなれる?」

 「上手くなれるよ!」

 「それなら......!」

 「吹奏楽に入る気になれた?」

 「うん。トロンボーンの見た目もカッコいいし」

 「トランペットは?」

 「難しいし、小さいから遠慮しとくよ」

 そういうと、心なしか彼は寂しそうな顔をしていた。

 「わかった」

 「ところで、僕、楽器持ってないけど?赤坂君のは私物なんだよね」

 「俺のペットは私物だけど、みんな学校の楽器を使ってるよ!」

 (楽器高そうだから買ってもらえるか難しいから......よかった)

 

 その後、先輩たちによる演奏を聞いた。

 トランペットの先輩と、トロンボーンの先輩が一緒に立って吹いている場面があり、その場面は特に感動した。

 (いつか僕たちも......)

 

 吹奏楽に入部届けを出してから、僕たちは朝から夕方まで共に過ごした。残念ながら、僕はまだ演奏には参加できず、同級生と一緒に練習している事しかできなかった。しかし、最終下校時刻が迫り、部室に戻った時には、演奏練習が終わっていない事もしばしばあり、赤坂の演奏している姿を見ていた。

 正直、赤坂の吹く音色は綺麗だった。しかし、顧問の先生のお気に召さなかったのか、何かは分からないが、しばしば怒られて涙を流していた。

 教室での彼の姿とは一変して、真剣な姿の赤坂を見ていると、いつの間にか、彼への好感度が上がっていた。

 

 そんなある日、

 「高師浜、友達ができたんですって?」

 部活でヘトヘトになって家に帰ると、久々に彼女から電話が掛かってきた。

 「赤坂の事を教えなさい!」

 「急になんで?」

 「高師浜には関係ないのですわ」

 「じゃあ、教えない」

 「......」

 (何なんだ、ほんとに)

 「最近、赤坂の事が気になってるのですわ......」

「そんなの知らないよ」

 「いいから、教えなさいよ!」

 話を聞いた所、彼女が僕が赤坂と絡んでいるから、『超ド級の人見知りな高師浜と仲良くできる人』と言う事で興味を抱いたらしい。そして、実際に見に行ったら、トランペットを吹いている姿がカッコよかったのだそうだ。なので、僕は彼との出会いから全てを話した。

 「ふーん、赤坂君って素敵ですわね」

 その後も、定期的に彼の情報を彼女に流した。

 (あの、いずみが恋するなんてね......)


 入学してから約半年が経った。

 「いずみ、赤坂との関係はどこまで進んだ?」

 「まったく進んでないのですわ......ですが!夏休みにイベントを企画しているから、そこで勝負ですわ!」

 「まぁ頑張ってください!」

 「他人事の様に......」

 告白に失敗したら、僕の責任だ!と言わんばかりの顔をしていた。

 「僕はもう赤坂と友達になれたし、そもそも関係ないし」

 そう、僕は彼と友達になった。初めての友達だ。

 「友達って良いものだね」

 「あら、いまさら気が付いたの?」

 「友達は宝物だ!」

 「そう、よかったわね......その宝物を無くさないようにですわ」

 「無くさないし、もうここまで仲良くなったら無くならないよ!」

 

 『赤坂 千早が失踪した』


 それは急に起こった。海斗先生からそれを聞いた瞬間、頭が真っ白になった。

 やっと友達ができたと思ったら、また、いつもと同じ様に僕から離れていった。


 「高師浜!赤坂君の事で何か知ってる?知ってたら教えなさい!」

 「知らないよ!僕だって何が何だか......せっかくできた友達なのに」

 彼の事を好きだった彼女も相当悲しんでいた様子だが、僕も彼女に負けないくらい悲しんだ。時々学校をサボっては、逃避行をするくらいに、だ。 


 それから半年が経ったある日、彼の従妹と名乗る女子が転入してきた。

 (もしかしたら、赤坂の事を知っているかもしれない)

 そう思ったが、彼が居なくなったことで、かつての状態に戻った僕は人見知りモード全開だった。そのため、中々話しかけに行くことすら難しかった。そうこう躊躇していると、周りの男子達が彼女にメロメロになり、より一層近づきにくくなった。それからしばらくして、彼女はクラスの女子から虐めを受けて、学校に来なくなった。丁度そのタイミングでいずみから相談を受けた。

 「実は彼女、『赤坂 千早』本人なのですわ」

 「何言ってるかわからないんだけど......性格とか雰囲気とか一緒って事?」

 「違いますわ!魂も身体も全て本人なのですわ!」

 「憑依したって事?」

 「赤坂君は死んでない......女子化したのですわ」

 正直、何言ってるか理解できなかった。

 (死んでないってどういう事?赤坂の事で何か情報でも掴めたの?女子化?)

 「これは彼女には勿論、誰にも言っちゃダメですわ!」

 「それはわかってるけど、イマイチ理解できないのだけど」

 それから、いずみから、事の詳細を聞かされた。正直、とても信じられないものだった。

 「それで、僕にどうして欲しいの?」

 「高師浜、彼女の彼氏になってあげて欲しいのですわ......本当は私のものにしたいけど、仕方がないのですわ」

 「理由聞いていい?」

 結論から言うと、彼女が虐められている理由は二つあって、一つはクラスの人気者「いずみ」と近づき過ぎて周りの女子から嫉妬された事。二つ目は、彼女の容姿の影響でクラスの男子の心を一瞬で釘付けにしてしまって、周りの女子から嫉妬された事らしい。それを解決するには、僕と彼女が付き合う事が必要らしい。その理由は、僕と付き合う事で、孤立回避ができる事と、男子のメロメロ状態を解き、抑止にも繋がるからだそうだ。

 「僕じゃないとダメ?そもそも彼女の意思は......」

 「彼女は私のもの......だから信頼のおける高師浜じゃなきゃダメなのですわ! それから、彼女は高師浜の事を意識しているから大丈夫ですわ!」

 「わかった......でもきっかけはどうすれば良いの?」

 「それは私が作りますわ!近々彼女を誘ってデートして彼女の心を誘導しますわ!」

 「わかった......」

 

 二学期が終わり、年が明けた。

 3学期が始まる二日前、いずみから連絡が来た。

 『明日作戦決行!場所は羽衣公園の噴水、11時ですわ!』

 

 

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