10000人レース ー8
淡い青みの紫苑色と菖蒲の紫の花の色に似た赤みがかった紫色のまざった空は、紫陽花のようだった。
基本淡いラベンダー色なのだが、白っぽい紫、青っぽい紫、赤っぽい紫、濃い紫など紫陽花のごとく七変化して雲の色さえ染めていた。
そんな異界の空の下、4人は昼食を食べていた。
ボスエリアは別空間になっていて、エリアに人間がいれば他の人間や魔獣は入ってこれない。再出現は2時間後だ。
「うまっ。缶詰めのパンなんて初めて食べたけど、これブルーベリー味?」
「私はオレンジ味よ」
「理々はストロベリー味」
「僕は黒糖味だけど、甘さ控えめずっしり食べこだえがあってまさに食事パンだな」
「あっ、こっちのパンの缶詰めはマフィンが2個入っているわ」
食べ盛りの高校生4人である。
缶詰めパンの品評会状態で次々に、パカンパカンと缶詰めが開けられていく。
缶詰めパンは甘いものから食用まで種類が多く、保存期間も長く災害用非常食として定番品である。そこに常温保存可能でたんぱく質豊富な魚肉ソーセージとお湯を注ぐだけのカップスープ、デザートに干し果実が加わり中々の充実した昼食だった。
「まさかボスエリアが安全地帯になるとは思わなかったわ」
朝から非日常の連続だった。安全にくつろげる場所は嬉しかった。
「2時間もゆっくりできる場所があるなんて有りがたいよね」
彩乃と理々がうんうんと頷きあう。
「ボスの再出現が2時間。さっきのウサギの再出現は20分。本当にゲームか森型ダンジョンみたいなところだ」
鑑定レベル5は優秀で、死体からでも情報が読みとれた。半日ほどの間で祐也は鑑定を理解して、効率よく使いこなせるようになっていた。
「水分がきちんと腸まで届いていないと、飲んでも脱水症状になることもあるから気をつけろよ」
「ええ、水分はこまめにとるわ。ねえ、祐也、太陽が3つあるせいかしら?時計と明るさがちょっと違う気がするの」
彩乃の腕時計は4時だが、まだ3つ目の太陽が真上にいる。
「僕も思っていた。ここは24時間の世界ではないかもしれないな」
知的な会話をする祐也と彩乃と対照に、理々と高広は感覚で行動して遊んでいた。
「高広、ここ!」
「うしっ!」
理々の幸運が反応する場合を、高広がシャベルでざくざく掘る。ここ掘れワンワンである。
ボスにチャレンジした敗者の遺品が地面に埋まっていて、古いものから新しいものまで色々出てくる。それを見て、
「この世界の住人のものか、僕たち以前のレースの参加者のものか」
と祐也と彩乃がまた考える。
「さて、お楽しみタイムだ」
祐也が魔法袋をふる。
「僕のは、おお! これは新品同様だな。1ヶ月前にダンジョンの宝箱から発見されて超高値で貴族に買われて、そこの若様がレベルを上げるためにダンジョンに入ったものの、トラップでモンスターハウスに閉じ込められて10名の護衛もろとも死亡。今朝の事だったからダンジョンに吸収される寸前に、理々のランダムで僕のものになった、と。今、登録が白紙状態になっているから、新たに個人登録をすればなかを開けれるようだ」
魔法袋の上部についている魔石に祐也が血を垂らす。
「出すぞ!」
数十種類の魔道具、数百本もの魔法薬、衣類や武器、食料、雑貨、数千枚の金貨と銀貨、多数の宝石。どうやら個人資産を魔法袋に入れて持ち歩いていたようだ。
「この魔法袋の容量、大きいな。重量無効で180メートル四方だって」
「私のは、3ヶ月前にダンジョンの宝箱から出たもので、10メートル四方で重量軽減の時間遅延付き。発見者の高位冒険者の女性がそのまま持ち主になったけど、今朝、ダンジョンの下層でボスに。で、理々のランダムね」
彩乃も魔石に血をたらし魔法袋を開けた。
魔道具、魔薬、衣類、食料、武器、お金など種類や量は違ったがここまでは祐也と同じ。違ったのは、ドロップ品と思われる大量の魔石がざらざら入っていたことだ。
「私の魔法袋は鞄の30センチの入り口に入るものしかダメだけど、祐也のは凄いね。一部でも入ればどんなに大きなものでもシュルンと入るなんて。便利よね」
祐也が魔法袋に、北ボスもウサギも理々と高広が掘り出した遺品の山もポイポイ入れているのを見て、彩乃が少し羨ましげに言った。
「交換するか?」
「いやよ。時間遅延は超貴重なのよ」
ラベンダー色の空の下、4人はつかの間の休息を楽しんだ後、ボスエリアではドームホームを開封できないので設置場所を探しに再び出発した。




