10000人レース ー7
1番大きな太陽が真上になった頃、歩き続けた4人に声が響いた。
〈北ボスエリアに入りました。どちらかの死が確認されるまで、エリアから出られません〉
「グォォオオオ!!」
のっそりと、腕が4本ある巨熊が姿を現した。立ち上がっている姿は、2メートル以上ある。
「結界っ!」
理々が皆の前に結界をはる。
〈シークレットクエスト「魔物に対して魔法をつかおう」が達成されました。個体名理々に[魔衣]が与えられます〉
「この緊迫している時に! 空気を読もうよ、アナウンスちゃん」
ヤってやるぜ状態に水をさされた高広が、不平をもらす。
「やった! 結界と魔衣とで、個人個人に結界をはれるようになったよ。レベル1だから弱いけど、ないよりマシっ! 時間は5分!」
理々が3人に手をかざす。
「アナウンスちゃん。ごめん、君、有能」
即、手のひらがえしをする高広だった。
「先手必勝っ!」
高広が突進する。
振りおろされた熊の右爪を、一本、二本と僅差でかわし、左爪がくるまえに短距離転移で1メートル移動して、熊の顔面下に飛び込む。その勢いのまま、熊の顎を思いっきりシャベルで突き上げた。
突然の衝撃に、熊は仰け反ったまま一瞬棒立ちになる。
すかさず高広は、腰の包丁をさらされた喉に、渾身の力で突き刺した。
祐也も、追撃の手をゆるめない。高広が攻撃されないように、熊の4本の腕を後ろから連打している。
「おっりゃああ!」
腹の皮を突き破り、肋骨を折らんばかりの、高広のシャベルの突き入れ。
彩乃と理々は、邪魔にならないように、横から熊の足を槍でえいえいっと刺している。
たまらず熊が横倒しに。
すでに、喉に致命傷の包丁が刺さっているのだ。虫の息の熊に、とどめと4人は、タコ殴りに殴りに殴った。
〈エリアボスの初めての討伐が確認されました。個体名高広、個体名祐也、個体名彩乃、個体名理々、各自に初討伐ボーナスとして、武器、防具、備品のなかから1つを選ぶ権利が与えられます。また北ボス初討伐ポイントとして、各自に250ポイントが与えられます〉
合成音声のような声音が、機械的に続く
〈ボス討伐により、これよりレース期間限定、取引台の利用が可能になります〉
「「「「やったーっ!!」」」」
こぶしを上げて喜びあう。
ウサギの時は、痛みや混乱が先にありレアスキルは嬉しかったが、無我夢中だったので疲労の方がおおきかった。
しかし、今は、内側から歓喜が溢れるように湧きあがる。
「なぁなぁ、何をもらう?」
はしゃぐ声で高広が、3人にきく。
「高広が1番活躍したんだ。高広から選べよ」
「ううーん。でもなぁ、こういう時こそ、幸運様の出番だと思うんだ」
理々に視線が集まる。
「あのね、理々は、幸運が反応しているランダムガチャの中古のドームホームにする。3人は、好きなものを選んで? 幸運が反応するものなら、アドバイスができるよ」
高広は、魔法剣。
祐也と彩乃は、魔法袋。
ただ、3人は中古にするか新品にするか、で迷った。
「鑑定によると、新品なら、重量軽減のついた3メートル四方の内容量の袋。中古ならば、大きさや機能はまちまちで、袋の中に物品が入ったままのものもある。中古ならではの破損もあり、使えない状態のものも多い」
「俺の魔法剣は?」
「魔法剣の中古は、やめた方がいい。能力が上がっている剣が多いが、前の持ち主のクセがついて扱うのが難しい。魔法剣は、持ち主とともに成長する剣だからな。とくに、僕たちみたいな新人レベルは新品の方がおすすめだ」
「あのね、魔法袋。もし、中古にするなら、理々が選んでもいい? 幸運が反応しているの」
少しためらいながら、理々が口を挟む。
「まかせる!」
祐也と彩乃が即決する。
4人は、もらえる物品の画面を呼び出した。パソコンサイズのホップアップウインドウだ。
「魔法袋のランダムガチャ中古を」
ぐるぐるぐるぐる。
画面が回りだす。まるでスロットマシンだ。
理々は、指先まで緊張させて、
「これ」
と、砂時計の最後の砂が落ちるような絶妙のタイミングでひとつの画面を止める。
黒いウエストポーチ型の魔法袋を祐也に。
「これ」
肩かけ型の焦げ茶色の魔法袋を彩乃に。
「理々は、ドームホームのランダムガチャ中古を」
新たな画面が、ぐるぐるまわる。
ドームホームの新築は1部屋あるのみ。もちろん内部には、何もない。そこから、どんどん魔石を与えて成長させる家なのだ。中古は、ボロボロで住めなかったり、半壊している家もあるので、普通は選ばれない。
「これよ」
ログハウスが入った10センチほどの、スノードームのようなものが、コロンと出てきた。
最後に、高広が魔法剣を決めた。