10000人レース ー6
小川には褐色で地味に見える小魚の群れがいて、おおきめのヒレを使って、前後左右にせわしく動いて泳いでいた。
その小魚に鑑定を使って、祐也は満足そうに片方の口の端だけ引き上げた。
「僕たちはスキルを獲得した。例えるならば、ピカピカの新品のオートバイを手に入れた。そして、使い方も乗り方も頭にある」
祐也は、人差し指で自分の頭をさす。
「だが、説明書を持っていてもはじめてのオートバイを練習もなしに、走らせることは皆できないだろう? 戦闘でいきなり使って失敗では──生死にかかわる。だから、まずスキルになれよう。それに体内に違和感を感じないか? たぶん、魔力だと思う。まったく未知の領域だが、これこそ練習が必要だ」
「練習?」
「鑑定によると、体内魔力の感覚、操作、放出、形状など、魔力が形を成すように意識すること、自分の意思でそれができるようになることが重要だ。オートバイに引きずられるのではなく、オートバイに乗る、とでも言えばいいか。今は外にいて危ないからそんなにできないが、皆、一度でも自分のスキルを検証してから動こう」
高広も、彩乃も、理々も、大きく頷いた。
小川の近くには青い果実をつける木があった。形は洋梨に似ている。
鑑定してみると食用可とでたので、祐也は1つもいでみた。
〈通常クエスト「採取をしよう」が達成されました。報酬は2ポイントです〉
「通常クエスト? 高広、おまえも果物をとってみてくれ」
「おう」
〈通常クエスト「採取をしよう」が達成されました。報酬は2ポイントです〉
「クエストは、シークレットと通常があるみたいだな。シークレットは先着1名で、通常は誰でもOKか? それにポイント? レースならば、勝敗があるはずだ。ポイントが、鍵か? うーん、とりあえず、理々、彩乃。果物を採取して、ポイントをもらっておこう」
「美味しいの?」
「あとで食べようよ。今食べて、もしもピーピーになったら、こまるし」
「トイレね~」
「こまるよね~。文明のありがたさが、身にシミルよね」
彩乃と理々は、スキルを獲得して気分も上昇したのか、明るく笑いあう。青い果実を手に小鳥のように囀りじゃれる。
「あっ、理々、彩乃。軍手もしておけ」
4人は、倉庫からもってきた長袖長ズボンのジャージに着替えていた。
「多少暑くても、肌はなるべく隠す方がいい。ここでは、擦り傷ひとつでも危険だ。何が害になるかわからない。虫も危ないから、虫よけもしろよ?」
「はーい」
「休憩もしたから、そろそろ移動しましょうよ? どこへ行く?」
理々が片手を上げる。
「あのね、北の方に大きな気配を感じるの。理々の精密探査は、レベル1だと10メートルぐらいなんだけど、その範囲外でも感知できるほど、大きな」
「なら、北に行こうぜ?」
高広が提案する。
「僕たちに実力以上の驕りは無用だぞ。勇気と蛮勇は別だ。命はひとつしかないんだから」
「わかっている。俺の直感も危険をバシバシ伝えてくるけど、はじめての何かってのは、ご褒美がでかい。今まで、そうだっただろう? 初討伐ボーナスがあって、ここがゲーム的世界なら、ボスのような存在もいると思う。俺たちのパーティーはバランスがいいだろう? 俺と祐也は攻撃力があって、彩乃は治癒ができて、理々にはでかい幸運がある。俺、初回攻略はいけると思うんだ」
「あのね、幸運も反応しているの、北に」
理々の一言は決定打となった。
「彩乃も北でいいのか?」
「私、信じるなら女神様より幸運様がいいから」
「うしっ、決定!」
こぶしを握った高広だった。