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10000人レース ー5

「ショック」

 パシャパシャと、兎を刺殺した感触が生々しく残る手を小川で洗いながら彩乃が言う。

「生き物を殺したのに、あまりショックじゃない」

 ショックではないことにショックをうけた様子で、彩乃がおちこむ。

 高広が彩乃の頭を優しく撫でる。

「俺も平気だし」

「僕もだ。たぶん、精神耐性が作用しているんじゃないか?」


 理々も手を洗いつつ思う。

 猫が大好きで将来は獣医師志望の彩乃が、初めて命を奪ったのに顔色をさほど変えてもいない。ありえない。あんなに生き物を大事にしていた彩乃ですらこれならば、他の人はどうなの? 動物はおろか人間に対しても心を抑制できないのでは……? 学校のみんなは大丈夫なのかな……?


 理々は悪い考えを振り切るように、バシャバシャと小川の流れを乱した。


 4人は、あの後ウサギを猫車に積んで、水の澄んだ小川を見つけてそこで休憩をとっていた。

 

「あーっ、ステータス! 俺たち、見えるようになったんだよね?」

 高広が弾んだ声を出す。

「みんな、もうレアスキルはとっているよな?」

 戦闘中だったが、10個しかないレアスキル。早い者勝ちとばかりに4人は獲得していた。


「理々が1位と5位だろ。僕は、2位と7位だった」

 祐也が言うと。

「俺、3位と6位」

「4位と10位だったわ」

 高広の顔が少し強ばる。

「8位と9位はいないんだ? ウサギは11羽いたのに、俺たちにいないってことは、他の誰かが獲得したんだな。うわぁ、ヤバかったなぁ。数秒、数分の差で、レアスキルの運命がかわったんだな」

「私たち、運がよかったわ」


 祐也が、にこりと笑った。顔が整っているのでとても美しい。

「理々のおかげだ。あのウサギたちは、理々のための魔獣だったと思う。理々が槍をかまえるだけで、ウサギが自分から刺されるために飛びこんできていただろう? 理々の魔獣討伐優先権のおこぼれで、僕たちはレアスキルがもらえたんだ」

「ありがとう! 理々」

 彩乃が理々に抱きつく。美少女が抱きあう様は目の保養になる、と高広は深く思った。


「では、まずステータスを確認しよう」

 4人の頭の中にステータス画面が表示される。

「パーティー登録も、できるみたいだ。画面の右下にある。4人で組もう?」

「もちろん」

「賛成よ」

「うれしい。みんなと一緒」

 登録すると、お互いのステータスも同意があれば見えるようになった。

「ステータス・オープン」

 4人が声をそろえる。


個体名 祐也

種族  異界人

スキル 格闘術レベル3 

    智謀レベル5 

    博識レベル5 

    精神耐性 レベル1

    鑑定レベル5

    魔術の才レベル1 

    錬金術レベル1


個体名 理々

種族  異界人

スキル 料理レベル5 

    精神耐性レベル1

    精密探査レベル1 

    結界魔術レベル1

固有スキル  料理の基礎 幸運


個体名 高広

種族  異界人 

スキル 格闘術レベル6 

    精神耐性レベル1

    超感覚レベル1

    武術の才レベル1 

    短距離転移レベル1


個体名 彩乃

種族  異界人

スキル 裁縫レベル3 

    礼儀作法レベル5

    精神耐性レベル1 

    怪我治癒レベル1

    知識事典(医学)レベル1

    全状態異常解除魔術レベル1


「固有スキル?」

「あのね、10000人レースでの初討伐ボーナスって、任意のスキルを1つ固有スキルにできるの。だから、幸運を。それで、1位で精密探査、5位で結界魔術。あと、料理は日本で得意だったからかな? 女神様が最初にくれると言ったスキルは、料理の基礎」


「僕と高広に格闘術があるのも、日本で空手や合気道や剣道とかしてたからだろう」

「だよなぁ。レベル6って強いの?」

「私の趣味の裁縫、レベル3だって」

 しゃべりながら、倉庫からもってきたクッキーをつまむ。

 リラックスはしているが、常に理々の精密探査は発動されていて、武器は手元に置き4人とも警戒はおこたらない。


「僕の鑑定は、女神がレース始めにくれるって言っていたスキルだな。レベル5なのは、智謀と博識をもともと持っていたからか。で、2位で魔術の才、7位で錬金術だ」

「俺の超感覚って、超能力? て思ったけど、ちがった~。視覚や嗅覚なんかの五感が鋭くなって、直感も働くようになるみたい。野性的だよな~。3位でもらったのが武術の才で、6位での短距離転移は、レベル1だと1メートルぐらいとべるみたい」

「私は、最初に怪我治癒をもらったから、4位で全状態異常解除魔術を。10位で知識事典の医学を。他にも薬学や魔術学とかいっぱいあって、迷ったけど私のスキル的に医学に決めたわ。祐也は魔術の才をとったのに、魔法をえらばなかったの?」


 ニヤリと祐也が笑った。

「これでいいんだよ。鑑定によると、魔術の才があると錬金術は化けるんだよ。錬金術は、レベル1だと基本の調合のみだけど、魔術の才があると、調合・乾燥・粉砕・分離・冷凍・沸騰・抽出・撹拌・熟成・圧縮・凝固・変形ができるようになる。もっともレベル1だと弱弱だけど、育てれば化け物になると思わないか?」

「すごっ。あの肉体の再構築の痛みとウサギとの戦闘のなかで、そこまでみていたの?」

「あれ、痛かったね」

「まさに肉体のつくりかえ、って感じだよな。女神も最初から、くれればいいのに。魔獣を殺さないと、スキルもくれないし適応化もないなんて」

 高広が不満をもらす。


「古今東西、神は神だ。人間が勝手に善神だの悪神だの崇めているだけで、存在そのものが違うんだ。人間の考え方は通じないよ」

 どこまでも冷静な祐也だった。

「僕たちは、神にとって無力なありんこだ。でも、生きている。神の力を大いに利用して、4人で生き残ろう」


 ひとりじゃない。ひとりでコンナトコロにいたならば、耐えられなかったかもしれない。だが、片方が欠けては飛べなくなる双翼のような恋人がいて、深く信頼する親友がいる。

 祐也は理々の手を握り、理々は彩乃の手をとり、彩乃は高広と手を絡め、高広は祐也の手を繋ぎ、4人は円陣を組んだ。

「4人で生き残ろう」

 

 

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