10000人レース ー49
祐也は、ジリジリと焦げつくような眼差しで理々を睨んだ。
「理々、あーん」
祐也の膝の上で理々は、差し出されたスプーンと祐也を交互に見て、諦めて雛鳥のように口を開ける。
「いい子だ、理々。もうひと口」
5日の追われて洞窟に逃げ込んだ入口での出来事に続き、理々は夏帆のことで追い討ちをかけられて食事量が激減してしまっていた。
どちらも4人の責任ではない。
誰しもが殺されかければ抵抗をするし逃げもする。生きようと足掻く。
しかし、自分の罪を認めたくない者は逆恨みに走ることもあるし、自分の非を直視したくない者は卑怯な保身に傾くこともある。
理々は3年前にそのことを身をもって経験した。
感情は容易く理性を突破して、罪悪感は転嫁されて悪意となり、罪がなくても罪があるがごとく攻撃されることを。
水原は理々たち4人を責めたりはしなかったが、4人に対して糾弾の人差し指を突きつけようとする者はきっといる。
だが理々は、そんな理不尽なことを恐れているのではなく、ただ仲良しだった夏帆が忘れられないだけだった。
ひたすら悲しい。
それが食欲不振に陥る形であらわれて、祐也を心配させているのだ。
祐也としては、幼児のようにポッコリとふくれたお腹になって欲しいのに、理々は触れたら折れそうなほど華奢で小さい。ただでさえ小柄で少食な理々である。これ以上食事量がおちてはレース期間中で通常時よりも体力が要求されるのに、と祐也は憂える気持ちが抑えられなかった。
「さぁ、もうひと口」
「……お腹いっぱい……」
「理々、あとひと口だけ」
「……はぁい……」
高広の腹へりコールを受けて、4人は軽食を食べていた。
1回の食事量が少ないのならば食事の回数を増やして少しでも理々に食べさせたい祐也と、食いしん坊の高広との思惑は一致して、軽食休憩の回数が倍になった4人だった。
サンドイッチがピラミッドのように山盛りとなっていたが、高広とスライムと霧の塊によって消えるマジックのごとくみるみる消化されていく。高広なんて、眼のある顔の上部分はハンサムで、口のある下部分はリスの頬袋のように膨らんでいるので絵面が酷いことになっていた。
「理々、高広、彩乃、聞いてくれ」
祐也が口を開く。
「理々の水蒸気ちゃんを見て考えたんだが、この女神の遊技場というダンジョンはレベル的にはたぶん初級だ。ダンジョンの魔物で魔法を使えたものはいなかった。が、僕たちは使えるし、女神の遊技場の外の魔物も人間も使えるだろう。つまり、外の魔物も人間も強い」
理々も高広も彩乃も、祐也の言葉を理解して頷く。
「移動できる水蒸気ちゃんは外から入ってきたんだろう、セレオネも。水蒸気ちゃんの強さは、僕たちを瞬殺できるレベルだ。外には水蒸気ちゃんレベルがゴロゴロいるのか、水蒸気ちゃんの実力がトップクラスなのかはわからないが、僕たちは外では弱いことは確実だ」
「俺たち個人戦の上位だけど、外では初心者レベルってことだよな? まぁ、妥当だよね、だって俺たち魔獣を倒し始めてまだ7日目だもん。確かに尋常でないレベルアップはポンポンしているけれども、外の魔物も人間も何十年あるいは何百年何千年も戦って戦って強くなっているんだもんな」
戦闘に関しては、高広は真剣そのものの表情だ。祐也も高広に頷き返す。
「僕はね種族変換や言語能力よりも今は、この世界で生きていくこと逃げのびることには強さが不可欠だと思うんだ。だから100万ポイントガチャをしたかった、強くなるキッカケの能力が貰えるかもと思って。水蒸気ちゃんの反応を見るに、理々の料理だけが外で通用するレベル、いや、外でも理々の料理は天井を突破するレベルだと思う」
「私たちスキルはたくさん所有しているけど、それではダメなのね」
彩乃が覇気なく言う。
「外の人間が僕たちを、奴隷として使うにはスキルがたくさんあることは便利なんだと思うよ」
複雑な表情の祐也と高広と彩乃に向かって、理々は屈託なく穏やかに笑った。
「理々たちは、初日のポイントは1300ポイントくらいだったよ。でも今は100万ポイントも貯めることができるくらい強くなっているよ」
背筋をしゃんと立てた理々が、にこにこと言った。
「だからね、今日の100万ポイントガチャで希望するものが出なかったとしても、また理々たちは100万ポイントを貯めることができると思うの。あと3日もあるんだもん。それにね水蒸気ちゃんは、たぶん実力をまったく披露していないよ、従魔契約で感じるの。だからレースが終わって理々たちが弱かったとしても、理々たちが強くなるまで守ってもらえるから大丈夫だよ。水蒸気ちゃんは理々の水と料理が目当てだから、お互いにウィンウィンなの」
「「「理々~っ!」」」
頼もしい理々は、凄く可愛くて。あたたかくて。そして図太い。
「と言うことで、そろそろ100万ポイントガチャをしようよ?」
祐也と高広と彩乃はそろって理々を拝んだ。
「「「よろしくお願いします」」」
理々も両手をあわせた。
「幸運様、よろしくお願いいたします」
〈おめでとうございます。種族変換オーブ、時価です〉
〈おめでとうございます。種族変換オーブ、時価です〉
〈おめでとうございます。種族変換オーブ、時価です〉
〈おめでとうございます。種族変換オーブ、時価です〉
4人はゴクリと息を呑んだ。
〈おめでとうございます。固有スキル変換オーブ、時価です〉
〈おめでとうございます。固有スキル変換オーブ、時価です〉
〈おめでとうございます。固有スキル変換オーブ、時価です〉
〈おめでとうございます。固有スキル変換オーブ、時価です〉
〈おめでとうございます。固有スキル変換オーブ、時価です〉
〈おめでとうございます。固有スキル変換オーブ、時価です〉
4人の頬が興奮で紅潮する。が、最後の最後で。
〈おめでとうございます。ナイショの神薬、プライスレスです〉
「待って、待って。時価ばかりで凄いけど、最後のナイショの神薬って何!?」
「種族変換は嬉しいけど、最後のナイショ神薬って!?」
「任意のスキルをひとつ固有スキルに変換できるオーブは有り難いけど、最後のナイショ神薬とは!?」
彩乃、高広、祐也が予想だにしなかったガチャの結果に混乱する。
祐也がナイショの神薬を鑑定にかけるが、欠片も歯がたたない。まるで光のない真っ暗な深淵を覗いているようなゾッとする感覚であった。
見るだけで冷や汗が浮かぶ。
祐也と高広と彩乃は、畏怖と恐怖に背筋を震わした。
しかし理々だけは平気な様子でナイショの神薬を手に持って、
「この薬、理々がもらってもいいかな? 水蒸気ちゃんが欲しいって」
とニッコリと言ったのだった。
遅くなってしまい申し訳ありませんでした。
体調を崩してしまって投稿ができませんでした。
ゆっくりと頑張りたいと思いますので、よろしくお願いいたします。
読んで下さりありがとうございました。




