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カルテット、4/10000。  作者: 三香


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37/82

10000人レース ー37

 空気が裂けて、宙に血の尾が伸びる。

 屠った魔獣の血を浴びながら高広は、次の魔獣の喉に剣を突き刺した。続く一撃、勢いよく身体を回転させると後方の魔獣を蹴りつけ、ダン、ダン、と空歩で空中に踏み込み斬撃を放つ。


 尋常ではない体幹と運動神経を持つ高広と高速機動のスキルは相性抜群の適合性であった。


 その剣勢はいつもよりも激しく、まるで嵐のように攻撃的だった。高広には焦りがあった。高瀬高校の二人は強かった。洞窟に逃げ込む前に祐也の風壁を破壊する魔法の使い手もいた。今は自分たちの方が実力は上でも、1万人が生き残るために必死に足掻いているのだ。


 強くなりたい。

 もっと強くならねば、という焦燥が高広を駆り立てた。


 女神の出した問題は簡単だった。

 生きるか、死ぬか。


 特に空中に顔を晒された4人は、負ければ死あるのみだ。

 負ければ、彩乃が死ぬ。理々が死ぬ。

 それだけは許せない。許すことができない。


 勝つために。

 強くなるために。


「オオオォォッッ!!!」

 高広は赤い飛沫を高く弾け散らせて、視界に映るかぎりの魔獣に剣を振り下ろした。


 バシャッ。

 魔獣が千切れる。

 祐也の魔法が、魔獣に血を噴かせて絶命させる。

 破裂し、

 粉砕し、

 右に左に、上に下に、祐也の魔法が高広を隙なく守り援護射撃をした。


 彩乃と理々は、高広と祐也が仕留め損ねた死にかけの魔獣の止めを刺してまわった。危険はない。理々の魔衣結界と、何より祐也が見ている。祐也は、空間把握と魔力感知を同時に使って何ひとつ見逃すことはない。


「あ~、疲れた」

 魔獣を全滅させた高広は、剣を握ったまま立っていた。身体全体が肺になったかのように呼吸が荒くとも、膝をつくことも、ましてや座り込むこともしない。


 すぐさま理々が洗浄魔法を、彩乃が治癒魔法をかけてくれる。


「もー、高広ったら。あちこち傷だらけじゃない!」

 彩乃が頬を膨らませて怒る。

「さっきの戦闘中の高広、少し無謀なところがあったし、いくら祐也が援護してくれるからって一人で突っ込みすぎ!」

「ごめん、ごめんよ。気をつけるから、そんなに怒らないでよ、彩乃」

 と言うなり高広は彩乃の右手を取り、ゆっくりと手の甲に口付けた。押しつけられた柔らかな感触。ボンっ、と彩乃が真っ赤に染まった。


「な、ななな、た、高広!?」

「だって~、祐也は理々と毎日ラブラブして羨ましいし。俺、頑張ったしご褒美が欲しいし~、ちょっとだけ」

 と、高広はもう一度彩乃の生きている温かさを確認するみたいに唇を近付けるが、サッと彩乃が手を引いてしまった。

「もー! 普段は何のアプローチもしないくせに、いきなりすぎ! また今度!!」 

 高広はキラキラと目を光らせた。

「また今度? 約束してくれる?」


 彩乃は自分の失言にウッと詰まったが、赤い顔で頷いた。

「約束、するわ。また今度ね」

「今度っていつ? 今夜?」

「もう! 性急すぎ!」

 ぺちん、とデコピンで彩乃に叱られ、キャウンと鳴く高広であった。


 そんな二人を、中学生かよ、とナマヌルイ目で見る祐也だが、祐也とて理々とのファーストキスの経験すらない。

 ヘタレな高広と違って祐也の場合は、触れてしまえば暴走してしまう自覚がある。身長差が35センチもあり、理々が小柄である故にブレーキがかかっているのだが、唇以外はクンクンしてナデナデしてチュッチュッして粘着性のマーキングしまくる祐也はある意味最悪にタチが悪かった。


「ねぇ祐也、この場所やや広めだからドームホームを出せるかな?」

 理々に尋ねられ、祐也はざっと目視で広さを測る。

「大丈夫だろう。今日は色々あったし、そろそろドームホームで風呂に入って休むか?」

「うん。スライムちゃんのことも心配だから、早めにドームホームを出したいの。まさか管理球のオーブが、スライムちゃんを魔改造して自分と繋げたいと言うなんて。スライムちゃんもオッケーしちゃうなんて」

「まだ魔改造中かな?」

「家に入ればわかると思う」


「高広、彩乃、取り引き台を呼んで魔獣をポイント交換して、ドームホームを出すぞ。いいか?」

「「わかった」」 


 うず高く積み重なった魔獣は、ほぼ半分を高広が屠り半分を祐也が殺した。

 もう日本には戻れないが、もし万が一戻れたとしても以前と同じ日常はできないだろう、と祐也は思った。奪った命の数だけ、平和な周りとの隔たりを強く感じることになるだろうから、と。一度でも生きているものの命を自分の手で直接に奪ってしまえば、日常に命を奪うという選択肢が入り込むのだろうから、と。


「「「「ただいま」」」」

 4人が家に入ると、オーブが出迎えてくれた。スライムはお気に入りのクッションでミーミー寝息をたててコロンと眠っている。


「見た目は変わっていないね、スライムちゃん」

「ノンキなところもね」

 理々と彩乃が覗きこむ。

「でも魔改造って何をしたの? 理々」

「あのね、オーブによるとスライムちゃんを通して家にあるものを何でも取り寄せられるようになったし、逆に時間停止の食料庫のスペースに外から自由にものを置けるようになったみたい」

「まぁ! それは便利!」

「なんだかセレオネちゃんと言いオーブと言い、チートもりもりなんだけど。スライムちゃんまでチートキャラ候補になっちゃって、理々の押しかけ従魔ってアクが強すぎだと思うの」

 

読んで下さりありがとうございました。

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