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10000人レース ー32

申し訳ありません。

題名を短く変更しました。

後ろの部分は必要ないかも、と思いまして。よろしくお願いいたします。

 キィン。

 音が鳴った。


 高瀬高校の生徒たちと高瀬高校の生徒を襲っていた男子学生たちの間を、透明な、巨大なエネルギーが見えない壁となって遮断する。薄い光のオーロラのように祐也の風壁が障壁となって遮り、男子生徒たちを押し返した。


「うわぁ! 押される」

「何かに圧迫されている! 押し下げられるッ!」

 箒でゴミを払い除くみたいに男子生徒たちが後ろに下がった。


 魔力の泉がある故の力任せの強引な魔法であった。誰ひとりとして祐也の真似はできないであろう、魔力を湯水のように使ったある意味贅沢な魔法だった。


 ぐるりと高瀬高校の生徒たちを中心に、風壁によって囲まれた空間に4人は静かに降り立つ。


「通りすがりの者だが」

 祐也は名乗らなかった。馴れ合う気はない、今回限りの関係だと名乗りをしないことで態度で示した。

「もしよかったら手を少し貸すが、どうだろうか?」


 いきなりの出来事に唖然としていた高瀬高校の生徒たちは、祐也の言葉にハッと我にかえって驚きに目を丸くする。

「手を貸す、とは?」

 戦線を維持していた男子生徒が一歩前に出て尋ねた。声には警戒の色があった。


 突然あらわれた個人戦1位に不信感を抱くのは当然のことだろう、と祐也は苦笑した。ましてや祐也は片手で理々のお尻を支える縦抱きをして、理々を抱き上げたままである。初対面の相手への態度としては不快感を与えかねないが、祐也としても瞬時に空へ逃げ出せるように理々を手離す気はさらさらなかった。


「こちらには治癒のスキル持ちがいるから治療を、と思っただけだ。すぐに立ち去るつもりだが、君たちと同じ制服の一団がこちらに走ってくるのが空から見えた。援軍だろう。到着するまでは僕の障壁で君たちを守ろうと考えている」


 援軍と聞いて高瀬高校の生徒たちは歓声を上げるが、男子生徒はますます眉をひそめた。

「守ってくれる見返りに何を要求するつもりだ?」

「何もいらないよ」

 祐也は首を振った。

「援軍が到着するまで約20分くらいか? たった20分、されど20分。侮辱するつもりはないが、もう戦線を維持することは限界に見えた。だから助けよう、と思っただけだ。君たちの中に、僕たちの仲間の友人がいるから。友人を助けるのに、いちいち返礼を求めたりはしないよ」


 男子生徒は絶句した。

 日本ではそうだった。友人が怪我をしていれば代償など考えもせずに助けに走っていた。


「しかし……ッ」

「僕たちに用心するのは当たり前だ。日本ではないのだから」

 祐也は腰のカバンから魔法薬を取り出した。魔法袋に入っていたものだ。さすがに以前の所有者は高価なものを大貴族の息子らしく多数所持していた。

「他人に治癒魔法をかけられるのが不安ならば、ポーションを渡そう。鑑定持ちはいるか? これならば害があるかどうか、魔法で判定できるだろう」


「上級ポーション!」

 戦線を維持していたもう一人の男子生徒が、祐也の前にまろぶように出て頭を下げた。どうやら鑑定系の保持者らしい。一目で上級ポーションと判別して祐也にすがった。

「お願いします。弟が死にかけているんだっ!」

 負傷者の中でも一番の重傷者を男子生徒は指差した。


 それを皮切りに次々と声があがった。

「助けて。足が痛いの!」

「助けてくれ。腹から血が止まらないんだッ!」


 祐也は鞄から小さな箱を出して男子生徒に渡した。

「上級は1本、この箱には初級が5本入っている」

「ありがとう! 心から感謝する!」


 祐也が男子生徒に対応している間に彩乃は、火傷をしている女子生徒のところへ行く。高広は彩乃の背後に守護霊よろしく離れずくっついていた。


 女子生徒は、頬から肩にかけて皮膚が赤く変色して水疱ができており痛々しい。

「表皮の火傷だわ。よかった、あとも残さず治癒ができるわ。あの、治癒魔法をかけてもいいかしら?」

「うん、うん、ありがとう、水沢さん。ありがとう、来てくれて」

「友達じゃない」

「うん、うん、友達だけどありがとう。もうダメだと思っていた。友達だってお礼は言うでしょう? ありがとう、本当にありがとう」


 ポロポロ涙をこぼす女子生徒に、彩乃は丁寧に治癒魔法をかける。

 それから鞄からゴソッと服を取り出した。

「制服が破れてしまっているから着替えの服にして」

 耳元で囁く。

「こっちの袋は下着が何枚か入っているから、もし不自由しているなら使って。女の子のアレコレも入れてあるから」


 女子生徒はさらに涙を流して何度も頷いた。

「うん、うん、困っていたの。学校にはそれなりの非常時の物品も食糧もあったけど、足りなくて……。生徒会長はみんなに目を配ってくれているけど、女の子には女の子の悩みが結構あるし……」


 いつの間にか彩乃の周りには、他の女子学生も集まってきていた。

 大なり小なり怪我をしている全員に治癒をかけて、袋を渡してゆく。


 本当はもっと譲ってあげたいが、あまりに多くだと出所についての不審に繋がるであろうし、彩乃は100年セットの存在を教えるつもりもなかった。

 あるいは彩乃の属する学校が、豊かな物資を有すると疑われて狙われることになったりするのもマズイ。自分の迂闊な行動により学校に迷惑をかけることを心配した彩乃は、必要最低限にとどめたものを渡したのだった。


 それでも女子生徒たちは心から嬉しそうに笑って彩乃に幾度も礼を言った。


 その間も祐也の風壁は、外側からの数多の攻撃を受けてバチバチと至るところが衝撃によって光っていた。

 70人だった襲撃者は増えに増えて数百人に達している。その数百人の攻撃である。遠雷に似た音が絶えず鳴り響き火花がほとばしった。

 風を切る矢の斉射も、槍も剣も魔法も、閃光の滝となろうとも祐也の風壁を破壊することはできなかった。


「あと1分」

 蚕が糸を紡ぐようにヒソリと理々が祐也の耳に囁いた。

「あと1分で君たちの援軍が到着する。外の襲撃者の大多数は、おそらく、空へ上がる僕たちの方を目標とするだろうが、油断なく気をつけて。障壁は僕が魔力を注ぐことを中止したら、数秒で消滅してしまうから」

「わかった、ありがとう」

 祐也に訝しげな眼差しを向けていた男子生徒が深く頭を垂れた。

「ありがとう。そして、すまない」


「僕たちは友達を助けただけだ。謝罪なんかいらないよ。お礼のみ胸に貰っておくよ」

 祐也がにっこり微笑んだ。


 祐也は理々を抱かえ直すと、空中を踏む。高広も彩乃を抱き上げて空へと駆けあがった。


 そうして4人の姿に、空気を殴りつけるような叫びが数百人から噴出したのだった。

読んで下さりありがとうございました。

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