10000人レース ー20
川辺はドームホームの設置場所としての広さもあったので、4人はそこでカプセルを開封していた。
「取り引き台を呼ぶぞ」
あらわれた白いテーブルに、3体のボス、129羽の兎、1577匹の魚を次々に置いていく。
〈査定が終わりました。ボスは魔石を返却したので、東のボスが1200ポイント、西のボスが1000ポイント、南のボスが800ポイントになります。兎は肉を返却した8羽が合計16ポイント、残り121羽の合計が605ポイント、魚は種類によってポイントが異なりますが合計で3035ポイント。全ての合計で6640ポイントとなります〉
これに各ボスの初討伐の3000ポイント、エリア制覇の10000ポイント、巨大魚撃破の50000ポイント。
4人の今日のポイント合計は69648ポイントとなった。
「昨日は1271ポイントだったのに……」
溜め息をもらす彩乃に祐也が、
「それよりも重要なのは、ボスのポイントだ。北のボスは200ポイントだった。だぶんポイントは強さとか希少とかが関係していると思うんだけど、200ポイントってことは北のボスはボスの中で最弱なんじゃないかな。幸運様は北のボスのみに昨日は反応していた。北以外のボスと戦っていたならば、僕たちは昨日で終わっていた。兎からいきなりボス戦に挑む無茶苦茶な僕たちを幸運様が助けてくれたんだよ」
とゆっくりと噛みしめるようにしみじみ言った。
「俺もそう思うよ。幸運様の敷いたレールに乗せられている感じはあるけど、幸運様に救われていることも事実だもんな。本当に理々のところに幸運様が来てくれてよかった」
と高広も口をそろえる。
「それと今日わかったことがある」
祐也が言葉を続ける。
「ステータスをこまめにチェックしていたんだけど、兎や魚ではレベルがほぼ上がらなかった。レベルは上がらないが兎や魚はポイント的には効率もいいし危険度も少ない、一方ボス戦は危険だけどレベルが上がった。だからやっぱり僕たちが強くなるためには強い敵と戦うしかない」
「魚なんて通常クエストでポイントが入って、取り引き台でもポイントが貰えて、危なくないのに二重取りができてオイシイのだけどなぁ」
と高広が嘆息した。
「おそらく、そこが一校千人のカラクリだ。数は力だ。千人で魚を捕れば? たちまち数千数万ポイントになるだろう」
「団体戦か?」
「可能性はあると思う。あるいは個人戦でも学校を支配して個人にポイントを集中させる体制にすれば、千人に貢がれるんだ、あっという間にその1人はスキルをポイントで交換して強くなっていくだろう。あとは強い敵と戦ってレベルを上げれば、さらに強く成長していく。まあ、それはひとつのケースというだけで学校内部でたいてい分裂してしまうだろうが」
「んもう! 7万ポイントって単純に喜んでいるんだから祐也も高広も茶々を入れないで。この7万ポイントで今晩はガチャで夢を見て、明日からは厳しい現実にまた立ち向かうんだから!」
あーやだやだ、と彩乃は腰に手をあてた。長い黒髪がサラリと肩を流れる。
「千人が何よ! 私たちは4人だけど7万ポイントよ、これからだってドンドン稼げばいいだけじゃない! こちらには無敵の理々の美味しいご飯と天下無双の幸運様がいるんだから!」
ふん、と鼻をならす彩乃に高広が、
「明日、ボス戦に行ける?」
と気遣わしげに尋ねた。
「平気じゃないけど大丈夫。レベル上げが大事なことは理解しているし、何より戦う高広と祐也の足を引っ張る存在になんかなりたくないし。私も理々も、高広と祐也といっしょに強くなりたいの。今日はごめんなさい、本当はもっとレベル上げをしたかったんでしょう?」
謝る彩乃に祐也がにこやかに笑った。
「そこが幸運様の抜かりのないところだ。巨大魚の報酬の人魚の涙。これはエリクサーの幻の原料だ、70センチのガラスの壺いっぱいに入っていた。それが4つも」
「ひぇ、鬼畜。どれだけ泣けば70センチの壺に涙を貯めることができるんだ」
「錬金術があるからね、エリクサーを作りたかったんだよ。彩乃がいない時に大怪我したら? 彩乃自身が意識不明の大怪我をしたら? 今は無理でも必ずいずれ作ってみせるよ」
ちょうどその時、
「夕食には早い時間だけれど、ご飯の用意ができたから温かいうちに食べない?」
と、スライムを頭の上に乗せた理々が台所から居間に顔を覗かせた。
「やったー! 魚? 兎? さっきから凄くいい匂いがして腹が鳴ってさ~」
高広がお腹をさすって訴える。
「どちらも焼いたよ。魚はシンプルに、兎はチューブの生姜やにんにくもあったから。鶏ガラスープの素も学校から持って来ていたから調味料で味をととのえて、乾燥野菜を入れて簡単なスープも作ったの。後は土鍋でご飯を炊いたよ。ごめんね、材料がないから品数が少なくて」
「えー、何を言っているんだよ。昼のインスタントカレーだって、理々の土鍋ご飯のおかげで、今まで食べたインスタントカレーの中で一番旨いカレーだったよ。ぐふふ、もう俺、理々のご飯が楽しみで楽しみで、生まれてきてよかったと人生において二回目に思ったよ。あ、一回目は彩乃と会った時ね」
「ありがとう、高広。居間に料理を運んでくれる? 理々はオーブの末端に料理を入れるから。調理道具セットの中に食器セットも含まれていて助かっちゃった」
「僕も、手伝うよ」
「私も」
「あのね、理々、ハイエルフさんと幸運様にもお裾分けしたいの。どうしたらできるかなぁ?」
「「うーん?」」
祐也と彩乃が少し考えて、
「お供えって感じになるのかな」
「ハイエルフの、ほら、壁側に綺麗な装飾の机があったでしょう。あそこに料理を置いて、蝋燭を灯してみたら?」
と提案した。
「ハイエルフさん、幸運様、理々の作ったものです。よかったら召し上がって下さい」
理々が机に料理を並べると、驚いたことに、ヒュン、と音をたてて消えてしまった。
「「えっ!?」」
驚愕に祐也と彩乃が声をあげる。供えはしたが、まさか料理が消えるなどと思ってもいなかったのだ。
しかし理々は平然と、
「お口にあうと嬉しいんだけどなぁ」
と言ってトコトコと台所に戻っていった。
「「消えたんだけど……」」
「異世界だし……」
「日本じゃないし……」
祐也と彩乃は顔を見合わせてお互いに不思議現象を納得させたのだった。
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