10000人レース ー12
「理々は日本のチョコレートは世界一おいしいと思う! 異論は認めるけど理々のなかでは決定事項なの!」
と理々が主張する。
「ミー!!」
シュワシュワとチョコレートを吸収しているスライムも、よくわからないけど主の意見に同意とばかりにプルプル体を揺すってミーミー鳴く。だってこんなに美味しいものは初めて食べたのだから。主にくっついて正解だった、と鶏の卵ほどの大きさのスライムであるのに板チョコを10枚単位でドンドン吸収していく。どこに入っていくのか不明である。
「理々はチョコレートが好きだもんな」
目を細めて祐也が指先で、理々の柔らかな頬を撫でる。
「理々は普通のメーカーのチョコレートが一番好き。200円で高品質のチョコレートが食べられるなんて素晴らしいもん」
4人は、居間の床に座っていた。
独り暮らしだったハイエルフの家は家具も少なく、4人分の椅子がなかった。
そして理々は、胡座を組んだ祐也の膝の上に、ちまり、と小鳥のように腰を落としていた。祐也の片腕は、理々の滑らかなお腹に鎖のように回されている。
「あーあ、祐也が日本で被っていた薄皮が剥がれちゃった……」
「祐也の愛情は、溺愛の皮を被った煮凝りのような粘着だもんな。それを海のごとく受けとめる理々は凄いよ」
「日本では世間体というブレーキがあったけど、異世界にきたら祐也の粘着性が剥き出しになってしまったわね」
「わー、俺たちの前で堂々と理々の髪をクンクン嗅ぐのは止めてくれないかな」
「無駄よ。祐也は理々への執着を隠す気がないんだもの。もう日本での完璧な優等生の仮面を、祐也は異世界で捨ててしまったのよ」
ヒソヒソと彩乃と高広が小声で囁きあう。
「わー、祐也が理々の髪をチュッチュッし出した」
「羨ましい?」
「……ぅん」
「だったら二人っきりになった時に、ね?」
「うんっ!!!!」
高広が、ない尻尾を全開で振るみたいに顔を輝かせた。
彩乃が、パン、と手を叩く。注目を集め、彩乃が口火をきった。
「スキルの分配を決めましょう?」
「ああ。僕は魔法系に進みたいから電撃魔法と水弾をもらってもいいか? 高広には立体機動で、理々と彩乃は身体が心配だから全病気耐性を」
「俺もそれが最適と考えていた」
「私もよ」
「理々も不満はないよ」
「よし! それにしても10万ポイントの虫除けは価値があるな。僕たち各自に虫除けレベル5、家には虫除けレベル7だ。本気で助かるよ。虫は病気の原因となることもあるし、地球にだって寄生虫はいたし、毒のある虫も多くいたんだから。ましてや異世界だ、どんな虫がいることやら」
祐也が、安堵した感情を滲ませ言った。
〈リフォームが終わりました〉
「「「「はーい」」」」
4人が元気よく返事をする。
立ちあがり、台所を覗いて歓声を発して、トイレを見て歓声を上げて、お風呂場で、
「玄関の洗浄の魔法陣で表面的には清潔になっているけど、やっぱりお風呂は格別」
「風呂で湯につかると疲れがとれるもんな」
「シャンプーも石鹸も学校の倉庫から持ってきてあるから」
「さすが祐也、ぬかりないわね」
と、口々に風呂場を絶賛した。
「あのね、オーブの説明によると水もお湯も火も魔石を利用するんだって。透明な魔石が一般的なんだけれど、色のついた属性魔石を使うと効率がよくなるみたい。今回はお試し用の魔石が設置されているから、無くなる前に頑張って魔獣を狩らないと」
狩るぞ、と両手を握りしめる理々に彩乃が頷く。
「まさに魔法の世界って感じね。玄関の洗浄の魔法陣にも透明な魔石が使用されていたし、つまり魔石はエネルギーなのね」
「ねぇねぇ、玄関の洗浄の魔法陣なんだけど、あれ、洗濯機のかわりにならないかな?」
ハイエルフの深淵なる叡知が洗濯機、家事を得意とする理々の言葉に少しだけハイエルフに同情したが祐也はリアリストだった。
「あるものは使うべきだな、魔法の利器だ」
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