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10000人レース ー10

「ねぇ、ここはどう?」

「暗くなってきたし、ここに決めようか」

 向こう岸が見えない、海のごとき大河の川辺に広さ的に問題のない開けた場所があった。生を終えて水に溶けた海月のような川の水面が風に吹かれて揺れ動き、ざわめき、虹のプリズムのように光り煌めいて美しい。


 ポン、と理々がドームホームのカプセルを投げた。


 レンガと木で作られたログハウスが開封されて、ドーン! と出現する。

「わぁ、立派な家。ちょっと待っていてね」

 理々は頭に、ちょこん、とちびこいスライムを乗せて急いでログハウスに入った。


 扉を開けると、部屋の中央に15センチほどのオーブが淡く光って浮いていた。

「お部屋の管理球さんですね。新しい持ち主となった花園理々と言います。これからよろしくお願いします」

 ペコリ、と理々は頭を下げるとオーブを手に持ち、祐也たちのもとに戻った。


「このオーブに手を置いて? 登録をするから」

 ドームホームは持ち主の許可がないと入ることができないのである。


「はい。もう入れるよ」

 理々が先に歩き、3人が後ろに続く。その間も手のなかのオーブから、持ち主の理々にログハウスの情報が流れ込んでくる。前の持ち主のことや来歴、性能、基礎知識などが理々の頭の中で延々と説明された。


「この家は、千年前に破棄されたドームホームなんだって。前の持ち主がハイエルフさんだったから、高魔力にものを言わせて家の隅々まで保存魔法がかけられてあるんだって。だから少しの劣化もなくて綺麗なまま。ハイエルフさんは数千年間もドームホームに住んでいたらしくて、魔石をいっぱいドームホームに与えて凄く家が成長しているみたい。家を中心に20メートル四方に中級結界も備わっているから安全だよ」


 玄関横に、全身洗浄用の魔法陣が設置されており、4人はそこで身を清めて部屋へと入った。


「家の探検だ!」

 高広がワクワクと声をあげる。


 ドームホームには、外観から想像もつかない大きな部屋が幾つもあった。空間拡張されていたのは、訓練室、書庫、食糧庫、それから種々雑多なものが無造作に置かれている物置部屋。特に書庫と食糧庫は時間停止がかかっており、どれほどの魔石を使用したのか、と恐ろしくなるほどだった。


 書庫も食糧庫も壁が目視できないくらいに広々としていて、食糧庫のほとんどは天井まで酒がびっしりと並べられている。書庫は本棚が林のように列をつくり、祐也と彩乃を心底喜ばせていた。


「あーん、残念。当たりまえだけど、知らない文字だわ」

「勉強をすればいいさ。レースの後も4人で組むんだから、お互いに教えあえば覚えることができるよ」

「そうよね」

 ウンウン頷く彩乃と祐也。


 高広は、広い訓練室に興奮している。

「すご。クライミング用かな? 壁が垂直だったりボコボコしていたり、あっ、ロープとか色々ある。楽しい~」


 空間拡張をされていない部屋は、寝室と居間と作業室。トイレと台所もあったが、そこは理々と彩乃がガッカリして肩を落とした。


「トイレが壺だわ。外で木の陰でするよりはマシだけど……」

「台所、水は甕だし、竈は薪だし」

「しかもお風呂がないっ!!」

 それでも彩乃と理々の声は嬉しげだ。


「よかった。まさか安全な家で今晩眠れるなんて」

 ほっ、と彩乃が息を吐く。

「洞窟かよくてテントで野営だと学校を出る時は覚悟していたのよ」


「理々もそう思っていた。でも、このドームホームに当たってラッキーだった。でないと祐也と高広が、野営中きっと徹夜で警戒しちゃうから。このドームホームなら、祐也も高広も休むことができる。4人で安全に眠れる、嬉しい~!」

 祐也と高広に負担をかけずに済むと理々もニコニコ笑った。


 彩乃と理々が手を取り合い弾む声できゃっきゃっしていると、祐也が、

「ボスエリアで聞いた取り引き台というのを使ってみないか?」

 と提案した。

「取り引き台?」

「たぶん取り引き台というのが、レースの勝敗に関わっていると僕は考えているんだ」


 居間で祐也が取り引き台を呼ぶ。念のため高広が武器を構えて、彩乃と理々も槍を持っていた。

「取り引きをしたい。来てくれ」


 居間の何もない空間に、突然白いテーブルが出現した。

〈このテーブルに取り引きをしたいものを置いて下さい〉


 祐也は、北のボスと11羽の兎の死骸をテーブルに乗せた。

「ボスの魔石は、返してもらうことはできるか?」

 魔石はドームホームに与えることが4人の話し合いで決定していた。


 スゥ、と霧のようにボスと兎の死骸が消えて、テーブルには5センチほどの魔石が残った。


〈査定の結果を発表します。北のボスが200ポイント、兎が5ポイントで計11羽の55ポイント。合計で255ポイントになります〉


 白いテーブルの上の空間に画面が表示される。


 昼間の果物の採取を含め、他にも発見した通常クエストをあわせて16ポイント。

 ボスと兎で255ポイント。

 ボスの初討伐ご褒美でひとり250ポイント、4人で1000ポイント。

 全てをあわせると1271ポイントとなった。


 4人が画面を睨む。


「ポイントでスキルや物品、異世界のお金にも交換できるのか。しかし高いな、魔法なんて初級の最低でも1000ポイント必要だ」

「魔法系や能力系は高価格ね。でも、生きるためのスキルはポイントが低めだわ」

「ああ。努力や訓練によってスキルが獲得しやすいものは100ポイントからと手頃だな」

 祐也と彩乃が画面を見ながら語り合う。

 

 理々がおずおずと手を上げた。

「あのね、これダメかな? 幸運が反応しているの」

 理々が指差した画面は、おひとり様1日1回限定ガチャだった。


読んで下さりありがとうございました。

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