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死神様の御加護を受けてます。  作者: さみくえら(仮)
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5 死神に懐く少女

想さんは見た目、17、18歳くらいに見えてます。

 史織の記憶がスルスルと想に流れ込む。


 職業柄、凄惨な現場に居合わせることはよくあることで、300年程、魂を刈り続けた想は大抵の現場は心乱すことなく職務を全うすることができる。

 むしろ、そうしなければ魂を喰らう鬼や悪霊に取り込まれてしまうので、とにかく速やかに回収する為、心を無にして仕事に邁進するしかなかったとも言える。



 史織が見た光景は、死神には大した現場には映らなかったが、史織は友人や見知った村人、そして家族を目の前で無惨な姿に変えられたのだ。その衝撃を慮れなかった自分を後悔した。

 


 グッと奥歯を噛む。



「史織。君の家族を思い浮かべてくれるか?」



 十中八九、あの巾着の中で騒いでいた魂は史織の両親だが、万が一も考えられる。実は生きている可能性も考えられるじゃないか! と半紙ほどの薄い期待を抱き、史織の家族の記憶を覗き見る。

 だが、すぐに薄い期待は落胆へと変わる。想が刈り取った魂の持ち主と史織の記憶は一致した。



 想はしおりから離れて、もう一度、手を包み込んだ。



「……史織。君のご両親の魂は、俺が刈り取ったよ。ごめんな、もしかしたら生きてるかも……なんて思ったんだけど。」

「あの状態で、よもや生きてるだなんて思っていませんでしたから。」



 史織は両親の四肢が裂かれ、鬼に喰われた残骸を目にしていた。両親とも、顔は傷ひとつなかった事が災いして、史織は両親の死を確信していたのだ。

 想はますます、自分が本当に神様の端くれなのか? と疑いたくなった。



 だがひとつ気になることがあった。ひとまず、己の神様の資質とやらを自問自答するのは後回しにして、その疑問を解決することにした。



「ところで、君のお姉さんは屋敷の中に居なかったが、逃げ遂せたのだろうか?」



 史織はクリクリした目をさらに見開き、想を見つめた。



「姉上はお屋敷にいなかったのですか?」

「ああ。少なくとも俺が担当した範囲にはいなかったぞ。」

「じゃあ!私と同じように、どこかに逃げ落ちているかもしれませんね!」



 史織は喜びで頬を赤らめた。天涯孤独だと思っていたところに、血を分けた姉が生きている可能性が出てきたのだ。喜ぶのも当然のことだろう。

 想は考えを巡らせた。子どもの夢を壊さぬよう……。いや、本当に生きているかもしれないのだから、この子の生きる希望として、今、敢えて否定するのは止めておくことにした。



「史織の死相は今すぐどうなるものでも無さそうだし、運が良ければ生きている間にお姉さんに会えるかもしれないね。」



 はい! と無邪気に笑う史織に反して、想は神様のくせに嘘を吐くなんて神様の風上にも置かないな、と自虐的に笑った。



「嘘にならないことを願うか。」



 史織に聞こえないようポツリ。想はもう一度、史織の死相を確認したが、やはり生色の中に蠢く禍々しい色はハッキリ見て取れた。どうしたものか……



「あ!」

「きゃっ!」

「ごめん、ごめん。史織の死相のことを考えてたら、大事なことを思い出してね。」

「あ……。」



 忘れていたのだろう。自分に死相が出ているのを思い出し、史織は落ち着きをなくした。



「安心しなって。俺は、史織のような思想を見たことがなくて、どうすべきなのか分からない。だから、経験豊富なあるお方にお知恵を拝借しに行こうと思うんだ。」

「はぁ……。」

「その時にさ、俺のこの巾着の中に封印されている魂を取り出してその方にお渡しするんだけどね。」

「刈り取った魂がそんなに小さな袋に入っているのですか⁉︎」

「その通り。持ち運びしやすいよう小さい袋にしてあるけど、神通力で中は大容量だ。」



 史織は、十の子どもらしく、その不思議な袋に興味津々といった様子で目をキラキラと輝かせた。



「言っとくけど、これは魂しか入れられないぞ? 荷物やらと死者の魂を同じ袋に入れるなんて失礼だしね。」

「あ、そうですね。」



 史織はしょんぼりとした。一体、何を入れるつもりでいたのか? 子どもらしい態度に想は少しホッとした。



「それでだ。この袋から魂を取り出して判決を受けるまでの少しの間なら、この中にいらっしゃる君のご両親に会わせてあげることができるんだけど。」



 史織は一瞬固まった後、子どもらしくピョンと跳ねて喜んだ。



「そこに父上たちがいるのですか⁉︎ 会わせていただけるんですか⁉︎」



 子猫のようにジタバタと喜ぶ史織を、そうは目を細めて眺めている。死神という職業柄、疎まれることはあれど、人を喜ばせることなど無いに等しい。なので可哀想な少女を喜ばせることができ、想は久しぶりに心温まる思いだった。



ーあの方に史織の死相を見てもらい、もし魂を刈るよう命じられたらどうしようー



 一般的に死神はその職務内容から、人間と親しくなるのを避ける傾向にある。元々、人付き合いが大好きだった想も、死神になってからは意識して人間との距離を保つよう心がけていた。

 それなのに、史織の不思議な相に興味を持ったのが運の尽き。元来の性格が災いして、あれよあれよという間に親しくなってしまった。



「しまったなぁ。」

 


 想は天井の染みを見つめて、ポリポリと鼻の頭を掻いた。




次回、やっと山小屋脱出です。

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