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死神様の御加護を受けてます。  作者: さみくえら(仮)
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4 恐怖の夜

フィクションです。パラレルワールドだと思って読んでください。

 史織は数日前、天涯孤独となった。



 両親と過ごした土地がここからどれくらい離れているのか。もう自分でも分からなくなっていた。

 着の身着のままで、荷物という荷物も殆ど持たず、ひたすら歩き続けたのだ。あてもなく、ただただ……。



 この町に着いた時には、十のまだ幼い少女が考えるには恐ろしい事だが、もう金持ちの年寄りにでも拾ってもらおうと考えていた。


 それくらい切羽詰まっていたのだ。



 それが意識を手放して、ああ、これで両親のもとに逝けると思ったのに、お間抜けにも自称:死神によって今世に引き戻されたのである。しかもこの死神、死神とは似つかわしくない爽やかな美青年で、人懐っこく、史織にも優しく接してくれる。その上、とんでもなくいい香りがするのだ。



 「……貰うって、ものじゃないんだから。」



 想は美しい風貌が台無しになるくらい、狼狽えていた。史織の放った言葉の破壊力にやられたのだろう。



「私はもう身よりもおりません。なので、想様さえご迷惑でなければ……。小間使いでも何でもします。どうか私を拾ってください。」



 史織はそっと目を閉じた。長い睫毛が、少し濡れていた。

 そんな史織の様子を見て、想は深くため息をついた。どうして、自分を物のように話すのか、と文句のおまけも付けておいた。



「史織。俺は見習いとはいえ、腐っても神様だ。こんなに幼い女の子を無慈悲に捨て置くような事はしないし、無碍に扱うつもりもないよ。」



 想は真面目に語りかける。



「でもま、理由(わけ)を話してくれるかな? どうして僕なんかに助けを求めたくなったのか。」



 史織は目を開き、想の真面目な顔を伺うように見上げ、小さく深呼吸した。そして甘い記憶の扉に手をかける。



……と、その前に。



「神様なのに民のことをご存じないのですか?」



 神様なら聞かずとも知っているのではないだろうか? やはり自称:死神様は嘘で、史織をからかっているだけなのかもしれない、と思ったのだ。



 すると想は少し困った顔で答えた。



「まあ力を使えば、君の記憶を確認することはできるんだけど、人の記憶を覗き見するようで俺は好きじゃない。」

「そういうものですか?」

「ああ。そうだよ。遍く人々の様子を確認する神様もいらっしゃるんだけど、俺の趣味じゃないからな。」



 だから! というように、想はもう一度、史織の顔を覗き込んだ。史織は神様ってもっと偉そうで、近寄りがたい存在だと思っていたので、親しみやすさに安心感を覚え、何から話そうか……と思案した。

 その様子に想は満足したのか、火鉢にかけた鍋から粥を掬うとそれぞれの碗に注ぎ、ゆっくりと食べ始める。



「えっと……。私は加賀国の尾仁村で生まれ育ちました。両親は庄屋をしていたので、寺子屋や手習などもさせてもらいました。」

「どうりで、歳の割にしっかりしていると思ったよ。」

「そうですね。兄が亡くなり、姉は嫁に出ることが決まっていたし、私が婿をとり跡を継ぐように教育されていましたし。あ、でも今は少し緊張しているので、自分でも堅苦しいな、と思うくらい畏っています。」



 史織はペロッと小さく舌を出して見せた。ここに来るまでにきっと怖い思いをしたのだろう。庄屋の跡取り娘として身につけた威厳を纏い、強がりを武器に突き進むしかなかったのかもしれない。



「それで……、何日前だったかしら? 確か月の無い真っ暗な夜でした。」

「新月なら3日前だね。」

「……3日も経ったのですか。」



 史織は俯き、静かに目を瞑った。手に持っていた碗を膝の上に置いたのは、手の震えを隠そうとしたからだ。

 想は何も言わずに碗を受け取り脇に置くと、死神のくせに温かい手で史織の小さな手をギュッと握った。史織は、兄が生きていたら、落ち込んだ時にこんな風に元気付けてくれたのだろうか? と、心穏やかになるのを感じた。




「真っ暗な夜。鬼が現れ、村を襲ったのです。」



 殆どの妖は人間とうまく共生しているが、邪鬼や悪鬼などの類は好物が人間の血肉ときたもんだから、もちろん人間と度々衝突するのだ。

 何百年もかけて、人間を食べなくてもよい身体に矯正し、殆どの鬼は獣の肉で満足するようになった筈だったのだが……。想は、史織の語りを妨げないよう、考えた。



「もう何年もうまく棲み分けていたのに、なぜかあの夜……村に火を放ち、男の人を鋭い爪で掻き裂き、女子どもを連れ去りました。火の海の中、逃げ惑う人たち。鬼の吠える声……悲鳴……。恐ろしくて私は動けませんでした。」



 史織はこの先に起きた事を考えると喉がギュッと締められるような苦しさを感じ、想に包まれた自分の手から意識して想の温もりを感じようとした。



「……。私は、角の生えた大きな恐ろしい顔をした鬼に腕を掴まれ、連れ去られそうになったのですが……。父が刀で鬼の腕に斬りかかった隙に、母が地下倉庫に私を押し込めたのです。」



 

 史織は真っ暗で何も見えない寒い倉庫の中で、震えることしかできなかった事を思い出し、溢れる涙を抑えることができなかった。

 


 想は堪らず、史織を抱きしめた。たかだか10歳の少女に語らせる内容では無かったと後悔した。



「ごめん。そこまで凄惨な事件に巻き込まれていたなんて思ってもいなくて……。もう話さなくていいよ? 続きは覗かせてもらってもいいか?」



 正直なところ、想は史織が両親と死に別れた事は予想していた。史織を見つけた時、腰に着けたあの世へ送るために刈った魂を入れるための巾着の中で、魂が2つほど騒いでいたからだ。

 想は自宅に戻る途中、閻魔大王様から急ぎの命を受け、鬼に襲われたという村で同じく派遣されてきた同僚たちと共に沢山の魂を集めた。巾着の中で騒いでいた魂は歓喜に満ちた様子だったので、この子の両親か、極近しい間柄の魂だと察していたのだ。



「いいね? 覗くよ?」



ー無言は肯定と捉えて良いだろう。ー



 想は、神の一員のくせに小さな少女を苦しめる様な真似をした自分が情けなく、また、腹立たしく感じながら、少女の額に自分の額を合わせた。








史織ちゃんが妙に大人びてしまいました^^;

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