2 自己紹介
名前、引っ張りすぎですね。ごめんなさい。
少女はいまいち理解していないようだった。
「あの、しそうとかせいしょくとは何でしょうか?」
10歳くらいの少女には描き慣れない言葉だったのだろう。青年は再び笑顔になり、少女の横に座り直した。
「あのね、俺、職業って言っていいか分かんないけど、まぁ、仕事柄、人の寿命とかが見えちゃうんだよね。さっき、ここの戸を開けてお嬢ちゃんを見つけた時も、例に漏れず、寿命が見えちゃったって訳。」
「はぁ……。」
「あ! この人何言ってんの? みたいな顔してる。」
「! そんなことは……。」
青年はケラケラと短く笑うと、話を続ける。
「ま、要するに、死相っていうのは寿命が近くなった人に現れるもので、いよいよ死ぬ瞬間が差し迫ってきたら、死相が濃くなってそれが体から離れていこうとするのね。俗に言う魂ってやつ。」
「へえ〜。」
少女は青年の美しさに少し慣れてきたのか、話に食いついたのかは分からないが、青年の顔を直視できるようになったようだ。
青年はその様子に満足したように、少女の頭をくしゃくしゃと撫でた。
「じゃあ、せいしょくというものは、しそうの反対と考えたらよろしいですか?」
「そそ。魂が活き活きしていると生色は色濃く、美しく輝いているんだよ。色はその人の個性によって違うものなんだけど。」
「では、私のようにどちらも出ているというのは、どういうことなんでしょう?」
不安げに少女が尋ねる。
「うーん、俺もこんな相を見たことがなくてさ。」
「珍しい相、ということですか。」
「まあそういう事になるかな。こんなに生色が輝いてるのに、体から魂が離れかけてるなんて……。300年程、この仕事してるけど、お嬢ちゃんみたいな相は経験がないな。魂を刈ってしまっていいのか、生色を信じるべきなのか……。」
少女の顔が不安から、疑惑に変わった。青年から離れるように少し身体を反らして、低めの声で聞き返す。
「えっと……。お仕事を300年もしてらっしゃるのですか?」
「おお。」
「魂を刈るとはどういう事で?」
「悪霊に取り込まれる前に、閻魔大王様の所にお導きする為に身体から魂を刈り取るんだよ。」
「……。」
少女の理解力が追いつけなくなったのを感じた青年は、また少女の頭をくしゃくしゃと撫でてみた。
「今更だけど自己紹介でもするかな?」
「……あ!」
お互いの名前を知らないままであることに、漸く少女も気が付いた。ふたりとも改めて向き直り、頭を下げた。
「佐々木史織と申します。年が明けると十でございます。」
史織と名乗った少女は、可愛らしく笑って青年の番だと促した。それを受けて青年は少し背筋を伸ばして、史織の目を見た。
「俺は想。苗字が必要な場合は、高橋って名乗ってる。年齢はもうハッキリ思い出せないんだけど、300年と15、6年くらいは生きてるんじゃないかな? 死神の中ではまだまだ若輩者だよ。」
想の自己紹介は、史織の思考を停止させるだけの威力はあった。史織は考える事を放棄したように、明後日の方を眺めるのであった。
やっと名乗りましたね。