満月とキャンバス
絵描きの妹に売られた私は、知らない女の家にいた。
女の部屋は、妹の部屋とあまり変わらなかった。
どちらかというと、高級な家具が目立つ印象がある。
「はじめまして」
と挨拶したが返事はない。
わかっている。わかっているさ。
私は壁に飾られた。
女の夫は、立派なひげがある紳士だった。
そして、夫婦はやっぱり妹夫婦の様に、毎日、私の前でお祈りした。
私には、何かありがたいものが描かれているのだろうか?
わからない。
そんなある日の夜だった。
夫婦は旅行に出かけたのか、誰もいなかった。
静かな夜だ。眠くなる。
ゴト。
鈍い音が部屋に響いた。
カチャリと窓の鍵が開く音がする。
帽子と口元を隠した男が二人入ってきた。
男たちはライトをつけて部屋を物色すると、金目のものをバックに入れ始めた。
私は、金目のものではないため、大丈夫だ。
せいぜい、ぶつけないでくれ。
すると、私に気付いた男が、私にライトを当てる。
相棒の男も私を見る。
二人は私の前にたつと、ぼーっと見ていた。
なんだ。なんだ。
男たちは、お互い顔を合わせると、うなずきあった。
そして、私は盗まれた。
私をかつぐなんて目立つだろうに。
部屋を出るとき、住人達にお別れを言った。
「さようなら」
返事はなかった。
私はこれから、どこに行くのだろうか?
上を見ると、黄色い満月が見えた。
とても綺麗だった。