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第1章 第2話

 現地時間1800時、日の暮れたスカルノ・ハッタ国際空港にようやく航空自衛隊の輸送機が到着した。先んじてC-2輸送機二機を持って到着したのは中央即応連隊や航空自衛隊からなる先遣指揮隊(FCE)だった。

 彼らはスカルノ・ハッタ国際空港で外務省や警察庁、国土交通省等の関係機関と共に退避統制センター(ECC)を開設し、部隊及び邦人の受け入れ準備にかかった。

 また偵察分遣隊の後発組もKC-130H輸送機で到着した。FCEよりも先行的に日本を出たもののC-2は民間路線を利用して高速で飛行できるため追い抜かれたのだ。

 中央即応連隊の隊員達は輸送機から降りると、格納庫に運び込まれた装備の詰まった箱の封印を切って開梱し、武器を取り出して装備を整えていく。また武器の他、軽装甲機動車二輛と高機動車二輛も輸送機によって運ばれていた。89式小銃を持つ彼らは偵察分遣隊の隊員達が持つM4やHK416を羨望の眼差しで見ていた。


「なんすか、この武器は」


 後発組の大城三曹が坂田のSR16を見て声をあげた。


「員数外だ。こっそり持って帰るからな」口を挟んだのは近藤だった。先発組の隊員達は現地情報隊がかき集めた火器をすでに気に入っていた。


「それってヤバイのでは……」


「痕跡の除去だ」


 近藤の言葉通り痕跡を残さないという観点で使用した資機材はすべて持ち帰る予定だった。これは一部の隊員の強引な主張のためでもある。


「AKは無いんですか?」


「大城は遅刻で先発に加わらなかったんじゃないのか?お前たちは89式小銃(ハチキュウ)持って来ただろ、それを使え」


「またー、遅刻じゃないですよぉ。それに89式小銃(ハチキュウ)は解かない予定で封印してきたんでお願いしますよ」


 結局後発組にも現地情報隊が用意していた武器が行き渡った。後発組によって運ばれた小銃以外の拳銃や狙撃銃、無反動砲や40mm擲弾発射機等の火器類の収めたケースは開梱され、各員に交付される。

 9mm拳銃SFP9で統一されたことでようやく全員が基本的な装備の弾倉を統一できるようになった。


 剣崎は開設されつつあるECCの指揮所において先遣指揮隊(FCE)に同行した目的地派遣群指揮官の山崎一佐以下、連絡幹部(LO)や幕僚らに現地の状況などを報告した。


「目的地派遣群主力は入間基地で準備と搭載を進めており、日付が変わる前に第一便が離陸する予定です。編成はC-17輸送機二機及びC-2輸送機二機。人員二百二十名、車輛十八輛。到着次第準備を整え、明日の現地時間1000より誘導輸送隊による保護輸送を開始します」


「経路偵察は偵察分遣隊が実施済み。計画を細部修正し、主力の離陸前に命令下達を実施します」


「海自の護衛艦がオスプレイを搭載してインドネシアに向かっている。明後日には到着予定だ」


 幕僚の言葉は剣崎にとって大した朗報ではなかった。


「それが到着する前には任務を終えたいものです」


 現地の情勢を知る剣崎の言葉に幕僚達は難しい表情を浮かべる。それだけ現地情勢は緊迫していた。


「指定されている一次集合点(AA)は大使館及び日本人学校、国際協力機構(JICA)事務所の三つですが、日本大使館には百五十名、日本人学校にも六十名、JICA事務所には三十名の邦人が少なくともいます。空輸できる車輛の限りがあるため、一度に輸送することは困難です」


「輸送中の妨害や各AAが暴徒に取り囲まれるような事態が生起すれば任務達成に多大な影響を及ぼします。現地情勢をリアルタイムで察知するため、現地警察や軍との密な連絡が必要ですが、ホットラインを開設しましたが協力的とは言えない状況です。そもそも現地治安機関も状況を把握しきれていない可能性があります」


 二百名以上の邦人を輸送するには車輛が足りていなかった。その原因としては政府が必要最小限度の部隊派遣を要求している政治的要因と時間、そして空輸に必要な輸送機の数だった。

 自衛隊の任務拡大や先の周辺事態の教訓から航空自衛隊には新規でC-2輸送機の約二倍の搭載量のC-17大型戦術輸送機が導入され、取得が進められているが現在運用できるのは四機だけだ。C-2輸送機は二十五機配備されているが、今回の任務では十四機が目的地派遣群を支援する他、KC-767等も邦人の国内輸送に用いられる。

 第一便以降も国内で準備中で最終的には三十輛以上の車輛がインドネシアへ空輸される予定だ。

 戦力の逐次投入という形になるが、この非戦闘員退避活動(NEO)は時間との勝負だった。それでも邦人の保護輸送は二日がかりとなる。

 偵察分遣隊は誘導輸送隊の偵察班が活動を開始するまでの間、AAから空港に至る経路及び空港の安全確保のための情報収集を行うことになった。

 確保している格納庫の一角で剣崎は班長クラスの隊員達を集めた。


「我々の任務は目的地派遣群の安全確保だ」


 その言葉で班長達は邦人の保護輸送を行う部隊を守るだけでなく、空港に設置されたECCを含む安全確保であることを理解した。


「また誘導輸送隊は法令上の問題で対処できる事態が限られる。我々は誘導輸送隊の偵察班に先んじて脅威を偵察し、必要なら排除する」


 剣崎の言葉に隊員達は頷いた。


「車がもっと必要ですね」


「現地情報隊に用意させよう。他には?」


 高野がホワイトボードに書き込みながら聞いた。


「誘導輸送隊正面の敵性武装勢力の妨害は排除できるだろう。残る敵の可能行動は空港への攻撃だ。インドネシア国軍の基地が襲撃を受け、相当数の武器が流出しているらしい。迫撃砲や対戦車火器、地対空ミサイルもあり得る。空港周辺の警備範囲を広げなくてはならない」


 山城の言葉に隊員達は机に引かれた地図に向かって顔を付き合わせた。


「ドローンはないんですか?」


 手を上げて野中が聞く。


「届くはずだったが、届いていない。追走物品は中央輸送隊(横浜)に確認している」


 陸自の部隊及び装備品等の国外輸送を担い、五個国際輸送支援隊を擁する横浜駐屯地の中央輸送隊は多忙を極めているはずだ。


「あとは武器の試射が行いたいですね」


 銃火器の機能の点検と照準規制のためにも試射を行う必要があった。


「インドネシア軍の施設を借りられないか調整していたが叶いそうにない。地元警察が50mの射撃場を提供するというか、使うのを見逃してくれるそうだ。明日までに遊撃車を使って交代で五名ずつ前進させて実施する」


 その言葉に隊員達は安堵していた。


「我々に求められることは中央即応連隊(チュウソク)が表立って出来ない邦人輸送の警護上必要な手段を講じることですか?」


 那智が聞いた。


「その通り。周辺の安全確保に資する情報収集と不足事態即応部隊(QRF)が当面の任務だ。地元に詳しい人間から話を聞こうと思う」


「宛てがあるんですか?」


 近藤は不思議そうに聞いたが、剣崎は高野と顔を見合わせて肩をすくめるだけだった。

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