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第2章 第3話

 スカルノ・ハッタ空港を離陸したインドネシア空軍のCN-235輸送機は、高度を取る間もなく着陸アプローチに入った。バンドンまで通常の民間空路で飛んでも三十分ほどだ。今はほかの民間機も飛んでいない上、緊急事態ということで、風向きも構わずダイレクトにランウェイへアプローチを開始していた。

 佐々木達は胴体にいくつかある丸窓から、バンドンの街の様子を観察した。ほとんどが漆黒の闇に包まれているのは、夜明け前という理由だけではなさそうだ。その証拠に、ところどころで火の手が上がっている上、機関銃と思しき発砲炎があちこちでフラッシュのように煌めいていて、曳光弾が花火のように時々空に撃ちあがっている。

 それでも支援なく、輸送機はフセイン・サストラネガラ空港の滑走路に降り立った。減速するのももどかしく、機はランウェイ半ばのタキシーウェイに無理やり入ると、エプロン目指してそのまま突っ走った。そしてわずかに残った管制官の指示に従って、ターミナル中央のスポットに滑り込んだ。

 胴体内の左右に一列ずつになったバンドン誘導隊は、輸送機の後部ランプが開き切ると同時に機外に駆け下りた。スポットに止まった後も、CN-235のパイロットはプロペラブレードのピッチをフェザー状態にして、エンジンをアイドルで回していたため、落とさずにいたため、隊員たちはこれを避けるために機体から大きく離れるようにして、ターミナルに駆け足で向かった。

 先頭に立つ佐々木がターミナルに近づいた時、スポットに通じるドアが開け放たれ、色とりどりの服を着た民間人たちが駆け出してきた。救出を待っていた日本人たちだ。彼らは自衛隊の隊員達を見出し、皆、両手に大きな荷物を提げたまま駆け寄ってくる。佐々木は一瞬怯んだが、すぐに立ち止まって、彼らがエンジンを回し続けている輸送機に飛び込まないよう、制止する為に構えた。

 と、その時、「ギューン」というターボプロップ機がブレードのピッチを推進方向に変換するときに発する独特の騒音が後方から響いてきた。佐々木と岸野はぎょっとして同時に振り返った。

 CN-235は機首を翻して、スポットを出て行こうとしていた。後部ランプは上がりきっておらず、こちらに機尾を見せたとき、機内の淡い照明を波形にして、ロードマスターの姿が浮き上がって見えた。はっきりとは見えなかったが、ロードマスターは「すまない」といわんばかりにうなだれた首を横に振っているようだった。スポットにいた隊員たちは皆、成す術もなく振り返っていた。

 置いていかれた。佐々木は信じられない光景に打ちひしがれながらも、隊員たちが皆、膝をついて、姿勢を低くしていることに満足を覚えていた。戦場で立ち止まるときは、必ず低い姿勢をとれと教え込んだ成果だ。駆け寄ってきた日本の民間人たちは、口々に救出チームを罵倒し始めた。


「なにやってるんですか!?飛行機、いっちゃったじゃないですか!?」


「おい、ふざけんなよ!なんとかしろよ!」


「馬鹿野郎、飛行機を止めろ!」


「役立たず、税金泥棒!」


 見当はずれな罵声に佐々木は怒りを通り越してあきれ返った。佐々木達中央即応連隊の隊員達は今や完全に戦闘モードに入っていて、前を見据えた厳しい表情で、努めて冷静に民間人たちに呼びかけた。


「我々は陸上自衛隊です。ここは危険です、ターミナルビルに戻ってください」


 CN-235は今やフルスロットルに入れ、爆音高くランウェイを疾走している。やがて機首を上げ、離陸していった。


「馬鹿野郎、どうやって助けてくれるんだよ!」


 飛び去る輸送機を見た民間人の一人が、神経を逆なでにする嫌な声色で罵った。


「あの機には全員は乗れません。迎えは間もなく来ます。みなさん、いったんターミナルビルへ戻ってください」


 嘘だった。佐々木二尉が、民間人グループにそう呼びかけているのを聞いた隊員たちは、それを悟られまいと平静を装った。

 ターミナルビルは無人だった。警備員が残っているとは思わなかったが、警護しているはずのインドネシア国軍の兵士も見当たらない。最後まで残っていた二人の管制官も、CN-235が日本人たちを置いて飛び去ったのを見て、管制塔から降りてきた。そして何事かインドネシア語で原田たちに何かを言いながら、そそくさと立ち去ってしまった。インドネシア語が判る若い女性の民間人の一人が「皆さん、お元気で、ですって」と通訳した。

 静まり返ったターミナルのロビーに、市街地からの発砲音が聞こえてきた。


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