↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
55/65

ずっと一緒だよ。②



「そう言えば、篤志」

コンビニ近くのファミレスで注文を終えると、何かを思い出した美鈴は日本人形のような面立ちの唇に笑みを浮かべた。「あン?」と斜向かいに座る彼女を見た篤志が、あからさまに嫌な顔をする。沙和が二人の顔を交互に見ていると、隣に座る美鈴が腕を絡めて笑みを深くした。

(あ……何かよからぬこと考えてるな)

それ以外で美鈴が篤志に微笑むことは、まず皆無に等しい。

篤志は目を眇め、迫りくる口撃に身構える。

「池上さんにまた絡まれてたわね」

ニヤリと美鈴が笑い、篤志が息を呑んで、恐る恐る沙和を見た。

池上さんと言うのは、以前美鈴が “篤志の彼女…?” とLINEで写真を送って来た女の子だ。

男好きする顔で豊満な胸をこれ見よがしに押し付け、篤志も満更じゃないようだと、美鈴からの情報を得ている沙和は、「へ~ぇ」とにっこり笑って篤志を見た。

はっきり言って面白くない。

が、中途半端な態度しか取れない癖に、不快を顔に出すのもどうかと思ってしまう。なので笑って見せたけど、果たして上手く笑えているだろうか?

宙に浮いていた椥が篤志の隣に座り、彼の肩に肘を置いて『ほ~ぉ?』と顔を覗き込む。篤志の喉仏が大きく上下した。

「ご…誤解だからっ。俺、何度も迷惑だって言ってるしッ」

椥の視線から逃げつつ、引き攣った声が言う。

「別に、あたしに言い訳しなくても、いいよ? 付き合ってる訳じゃないんだし」

笑った顔とは裏腹に、自分でも驚くほど冷ややかな声が出た。篤志はテーブルの上の沙和の手に手を伸ばしてくる。彼女はすっと手を引いて逃れ、脚に置かれた指先がスカートを握りしめた。

「さわぁ。そんなこと言って突き放すなよ。本当に疚しいことないからっ」

「池上さんに胸押し付けられてたわよねぇ?」

「美鈴ッ! 頼むから引っ掻き回してくれるなよぉ」

「やぁだ。冗談でしょ。何の為にあんたをどん底から引き揚げたと思ってるの? あたしの居ない所で勝手に当たり負けして、悄々と尻尾巻いて逃げ出すなんて以ての外だわ。篤志を下して、沙和とのラヴラヴを見せつける快感を奪う権利は、あんたにないの」

然も当然のように言い放った美鈴は、沙和に絡めていた腕を引き寄せ、彼女の肩に頬擦りしている。それを眺める沙和の頬がヒクヒクしていた。

(なんだかんだ言っても篤志のこと心配してるんだって思って、ちょっとだけ美鈴を見直していたのに…なんだ。その理由は)

やっぱり美鈴は美鈴だった。

唖然としていた篤志が気を取り直して口を開く。

「……どこからツッこむ?」

「ツッコミなんか期待してないわよッ!」

美鈴がそう小さく怒鳴った所にウェイトレスが来て、ビクッとたじろいだ。トレーの上のグラスが揺れたのを、椥が咄嗟に止めて難を逃れると、知らず息を詰めていた沙和たちが安堵の息を吐き出した。

「もっ……申し訳ありませんッ! お洋服に掛かりませんでしたでしょうか!?」

通路側に座る篤志と美鈴の間を、ウェイトレスの焦った眼差しが右往左往する。

「大丈夫大丈夫。そもそもこちらが脅かしたようなものだし」

篤志が手をひらひら振ってウェイトレスに笑んで見せると、今度は冷ややかな目で美鈴を見据えた。

「いきなり般若が現れたら、そりゃビビっても仕方ないって。だろ?」

片眉を上げて皮肉っぽく笑んだ篤志にそう言われた美鈴はツンとそっぽを向き、沙和の肩に額を擦りつけて来る。

沙和は美鈴の頭を撫でながら、そう言えば人形浄瑠璃で突然般若に変わるからくり人形あったっけね、と思い出していた事は、彼女にバレたら面倒なので内緒だ。

何度も頭を下げてウェイトレスが下がって行くと、タイミングを計ったように一斉に飲み物を啜る。

コーヒーカップをソーサーに戻した美鈴が口を開いた。

「池上さんって、やたら胸大きいわよね」

「またその話かよっ」

「篤志、鼻の下伸ばしてた」

「伸ばしてないから! 勝手に話を作るなッ。俺はねぇ、あんなブヨンブヨンの塊よりも、沙和のちっぱ「なにか!?」

沙和が篤志の言葉に被せて睨みつけると、彼は自分の失言に青くなり「何でもないです」と蚊の泣く様な声で呟いた。

(……ふう。危うくあっつい紅茶をぶっかける所だったわ)

手の中で辛うじて堪えたカップとソーサーがカタカタ音を立てている。

中学二年で成長を止めた胸が恨めしい。

(……胸だけじゃないけどねっ。身長も止まっちゃったけどねっ!)

沙和はふと自分の胸を眺め下ろして、徐に美鈴の胸をふにっと掴んだ。彼女は「いや~ん」と声だけは恥ずかしそうに、しかしガシッと沙和に抱き着いた。

「やっとその気になってくれたのね」

語尾にハートマークを飛び散らせた美鈴が、喉を鳴らして沙和の頭に頬擦りし、彼女の毒牙から妹を守らんと、椥が美鈴の頭を鷲掴んで引き離しに掛かっている。そんな二人の攻防を我関さずとばかりに沙和は溜息を吐く。

(同じ “びにゅう” でもあたしの “微乳” と美鈴の “美乳” じゃ違い過ぎる)

フニフニと美鈴の胸を無意識に揉んでたら、向かいから篤志の「さわ~」と呼ぶ悲しげな声がした。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。