↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ずっと一緒だよ。~突然過保護のイケメン幽霊に憑かれたら・・・!?  作者: 優奎日伽
6. 心残りは何でしょう?
33/65

心残りは何でしょう? ⑦

 

 ***



 あの町に行かなきゃ、そう思うと気が重い。

 結局、沙和が怒りだした先日の件は、有耶無耶にしたままだ。

 翌日は疲れたからと言って一日ふて寝した。


 逃げて誤魔化したことを幽さんは納得していない様だけれど、だからと言ってしつこく理由を聞いてきたり、詰ったりはしてこない。

 沙和の心など簡単に読めるだろうに、そんな素振りを欠片も見せない。


 幽さんは彼女の頭をそっと撫で、そして『無理させてごめんな』と溜息混じりの声で謝られた。

 呆れられた、そう思うと切なくなってくる。

 幽さんが謝ることなんてない―――心ではそう訴えているのに、声に出して言葉にすることが出来なくて、落ち込んだ。


 そんな風に優しくされたりしたら、自責の念に苛まれて自分が嫌いになる。

 幽さんの記憶が戻って欲しい気持ちに嘘はないのに、どうしてだろう。思い出さなくてもいいと思う気持ちもあるのだ。


(そんなこと言ったら、いくらあたしに優しい幽さんだって腹立つだろうし、絶対に嫌われる……)


 彼のことだから優しく接してはくれる筈だ。けどそれは表面上のことであり、どこかで余所余所しい態度になるのは目に見えている。

 我儘に振り回されて、幽さんが可哀想だ。

 沙和から離れられない幽さんに嫌われたら、一緒に居続けることはどちらにとってもきっと物凄く辛いのに。




 利己的なことを考えていたせいだろうか。

 沙和は夢を見た。


 母と二人で暮らしていたモルタルのアパートに、兄と一緒にいる懐かしい光景。

 穏やかで優しい兄は、赤茶けた癖毛がいつもふわふわ踊っていて、目鼻立ちは沙和とよく似ている。ただ少しばかりぽっちゃりさんで、彼女は兄の手をにぎにぎするのが大好きだった。

 兄も笑いながら手を握り返してくれる。


 友達よりも沙和を優先して一緒に居てくれる兄が、両親よりも大好きだった。兄がいたから、両親の離婚にも耐えられた。

 兄とのやり取りが懐かしくて、胸がほっこりする。

 夢の中だと意識のどこかで分かっていても、ずっと続けばいいのにと願う。

 幸せだった光景は、走馬灯のように過ぎて行く。


 そして、兄に会った最後の日。

 母に怒りをぶつける兄の姿を見たくないのに、沙和には呆然と見ているしか出来なかった。あの時と同じように。

 引き止めたいのに、兄はそのまま家を飛び出して行った。沙和は慌てて追いかけたけれど、兄はどんどん遠ざかって行く。このまま行かせたら後悔する。


 兄を呼びながら、ひたすらに追いかけた。

 なのに躰が思うように動かない。

 必死で振る彼女の手は、幼い少女の手で、走る脚は華奢な子供のものだった。転びそうになりながら繰る脚の何ともどかしい事だろう。

 沙和は盛大に転んだ。

 兄に助けを求めて叫ぶ―――と、兄の足が止まってゆっくりこちらを振り返る。微笑んで手を差し出した。

 

 ――――おにいちゃん!


 やっと兄を引き止められる、そう思ったのに……。

 兄の手を取ったのは、大人の男性。

 見覚えのある後ろ姿に、沙和は驚愕した。


 ――――幽さん……!?


 彼の名を呼ぶと怪訝そうに振り返り、幽さんは首を傾げながら兄に目を戻して微笑んだ。

 二人が沙和を置いて先に行ってしまう。

 また置いて行かれる。

 もう二人に会えなくなる。


 ――――置いてかないで!!


 叫んで、沙和は眠りから覚めた。




『おい沙和っ。大丈夫か?』


 幽さんの心配そうな表情が目に飛び込んでくる。


『怖い夢でも見たか?』


 まだ夢と現の区別がつかないで茫然とする沙和の目元を、幽さんの指がそっと拭い、優しく彼女を抱き起すと背中をポンポンと叩き、安心させるように摩ってくれる。


(……ああ…お兄ちゃんもよくこうして、怖い夢見て泣くとよしよししてくれたっけ)


 幽さんの背中に手を回し抱き着こうとした。けれど沙和の両手はストンと下に落ち、空しく脚の上に転がる。

 夢のように、掴めない。

 沙和の目から滂沱の涙が溢れて来た。

 幽さんがギョッとして身を離し、彼女の顔を覗き込んで来た。


『どっ、どうした沙和? どっか痛いのか? 隼人起こして伝えて貰うか?』


 沙和は頭を大きく横に振った。


「……っがう……そ…じゃな…ぃ」


 そう言ってまた涙を流す沙和に、幽さんが戸惑っている。

 俯き、声を殺して泣く沙和を先刻よりも強く抱きしめ、幽さんの穏やかな声に『大丈夫だから。怖くないから』と耳元で幾度も囁かれると、不安がほろほろと零れ落ちた。


「幽さん、は……お兄ちゃんみたいに、黙っていなくならないで……」


 手を繋いで先を歩きだした二人の後ろ姿を思い出し、涙が止めどなく溢れた。

 幽さんは沙和の頭を撫で、静かに口を開く。


『いつか、沙和の元から離れる時が来たら、その時は絶対に黙って消えたりしないから。約束する』


 だから大丈夫だよと、沙和の心の奥底に言い聞かせるような暖かな声が、ゆっくりと浸透していく。

 そして、沙和はまた眠りへと誘われていった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。