第8話 「頭を抱えたのはジョルジュ」
いつものように遠見の水晶を見つめるが、映っているのは鳥男。
廃墟同然の城の中で、王様然としているのが腹立たしい。
「勇者が向かったとの報告がございます」
そうか、来ちゃうか。
もうこうなったら祈るしかないな。
俺は水晶に映る鳥男に念を送る。
負けろー負けろー負けろー負けろー……。
お? 念が届いたか?
急に鳥男がキョロキョロしだしたぞ。
数歩歩いては立ち止まり、また違う方向へ歩いては考える素振り。
なんだ? 本当にどうしたというのだ?
「勇者が城に入った模様。
あとはシャッサめが上手くやることを期待しましょう」
デカッ鼻はまだ異常に気付いていない。
勇者を倒せると思っているのか、ニヤニヤしてるのが気持ち悪いぜ。
と、なんだ?
鳥男が窓から飛び出したぞ。
どこ行くんだよ……。
(どういうことだデカッ鼻)
「ジョルジュよ。どうなっておるのだ?」
だがデカッ鼻にも予想外の行動だったらしく、水晶を見ながらあたふたしている。
そうこうしているうちに水晶には勇者がフェードイン。
辺りを警戒しつつ進み、誰もいない玉座の裏から見事に銅色の鍵をゲットしていた。
おーおー、飛んだり跳ねたり偉い喜びようだ。
こちらとしては思惑通りだから良い結果なのだが、問題はデカッ鼻よ。
緑の顔が青に変わって慌てふためいておるわ。
ククク……。
これはチャンスなのではないか?
(デカッ鼻よ)
「ジョルジュよ」
ビクンとデカッ鼻の肩が跳ねる。
(これはどういうことかな?)
「申し開きはあるか?」
ザザッと数歩後退して床に平伏するデカッ鼻。
俺はここぞとばかりに叱責することにした。
(勇者にただで鍵をやるとは何事だ!)
「勇者にただで鍵をやるとは何事だ!」
初めて翻訳君とピッタリ一致したのが地味に嬉しい。
しかしデカッ鼻はそれどころではないだろう。
平伏したままガタガタ震えるもんだから、頭頂部に生えてる少ない白髪がぴょこぴょこ揺れる。
「も、もも、申し訳もございませぬ!!」
(どういうことかと聞いているんだが?)
「理由を説明せよと言っておる!」
「わ、ワタクシめにも、何故にシャッサがいなくなったのか……」
あれはあの鳥男の独断か。
別にこちらから指示を出していたわけではないが、本当にどうしたというのか。
そこにタイミング良く鳥男が帰ってきた。
すぐさまデカッ鼻に頭を叩かれて、隣に平伏させられている。
「シャッサ!
なぜ役割を放棄して逃げ帰ってきた!
魔王様に理由を説明せぃ!」
だが隣の鳥男はきょとんとしている。
「いやぁ、オレっちなんであそこに居たんでしたっけ?
それが思い出せなくて、聞きに戻ってきたんでっすけど」
えー……。
さすがの俺もそれは予想外。
鳥男じゃなくて鳥頭だったとは。
デカッ鼻も唖然としてるが、こいつなんでこんなのを推薦したんだ?
俺にとっては都合がいいけど、さすがに解せんぞ。
それを問いただしてみると、これまた予想外の返答。
「も、申し訳ございませぬ。
実はこのシャッサ。孫娘の婚約者でして……。
下級モンスターリストから選ぶということで、私利私欲で推薦してしまいました……」
まさかここまで馬鹿だったとはとデカッ鼻は鳥頭を叱責するが、この罪は重い。
以降は俺の判断に口を挟まないようにきつく申しつけ、デカッ鼻は従うしかなかった。
なにはともあれ、今後勇者のサポートがやりやすくなったのは間違いない。
想定外だが上々の結果を得られて満足した俺は、二人まとめてダークサンダーの刑に処してやったのだった。