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第4話 「ジョルジュ、魔王軍の編成を申し出る」

 さっそくどうやって勇者を育てるか考えている俺の元へ、デカッ鼻がやってきた。

 玉座に座る俺に頭を垂れる姿は、まぁ気分の悪いもんじゃない。

 ただ緑色の皺々な肌とほんの数本だけ生えた白髪、自己主張の激しいデカッ鼻という滑稽な外見なのに、執事然としているのがイラッとするだけだ。

 魔王城が薄暗くて良かったよ。

 明るかったらぶっ飛ばしてる。


「魔王様」


(なんだデカッ鼻)

「どうしたジョルジュよ」


 ジョルジュという名前もイラッとするな、そういえば。


「そろそろ魔王軍を編成したいと思いまする」


 魔王軍?

 あぁ、各大陸を攻めたりする軍を編成するのか。

 別にいいんじゃないか? 勝手にやるといい。

 どうせ俺はすぐに寝る予定だし。


(まかせる)

「任せる。良きに計らえ」


「ハハッ!」


 それだけ伝えてデカッ鼻が踵を返すが、ちょっと待てよと考える。

 勇者ってのは俺を倒すためだけじゃなくて、魔王軍を打ち破ったりもするよなと。

 だとすれば、あまり強い軍を編成されてしまっては困るぞ。


(デカッ鼻!)

「ジョルジュよ!」


「はい?」


 急いでデカッ鼻が戻ってくる。

 今気付いたけどコイツの服装、なんで燕尾服なんだよ。

 俺をイラッとさせるのが趣味なんじゃないだろうかと疑いたくなるわ。

 まぁいい、本題に入ろう。


 えぇと、軍を編成するんだからまずは軍団長だよな。

 そこさえ弱いモンスターにしとけば大丈夫だろ。


(軍団長のリストを見せろ)

「各軍を仕切る者は誰だ」


「こちらに」


 デカッ鼻が持っていた紙の束を献上してきた。

 さらっと目を通してみるが、なるほど、これはいかん。

 第一軍には獣王キングライガオン。

 コイツは確か獰猛さと残忍さに定評があり、力と速さを兼ね備えた獣型のモンスターだ。

 あの幼女に倒せるわけがないので却下。


(こいつはダメだ)

「軍を任せるには(あた)わぬ。却下だ」


 次がデスロード。

 即死系の魔法が得意な死神だな。

 うん、無理。

 顔見ただけで死んじゃうから却下。


(却下)

「こやつでは話にならんわ戯けがっ!」


 最後の第三軍がロイヤルデーモンか。

 元々悪魔を束ねてる奴で人望も厚い。

 悪い奴じゃないんだけど、当然却下だな。


(ダメです)

「なっとらん!貴様はなにも分かっておらんわッ!!」


 ……なんか翻訳君が荒ぶってんな。

 さすがのデカッ鼻もしゅんとしてる。

 別にいいけど。


「では魔王様。

 軍団長の人選はいかにすればよろしいでしょうか」


 そうなるか。

 まぁ下手に強い奴を選ばれるくらいなら、自分で選んだほうが早いな。

 よし、この紙の束から弱そうな奴を探すか。


 ――。

 ――――。


 いない。

 あの幼女でも勝てそうな人材がどこにも見当たらない。

 我が魔王軍はこんなにも人材不足だったのか……。


 と、デカッ鼻がまだ紙の束を持っていることに気付いた。


(それはなんだ?)

「それを見せてみよ」


「これは余りにも能力が低く、選別対象にすらならぬモンスターのリストでございます」


 お、いいじゃん。

 そういうのを待ってだよ俺はと、強引に引っ手繰ってさっそく見てみる。


 ふむふむなるほど。

 確かに雑魚しかいない。

 これくらいなら、ちょっと成長した勇者で十分倒せそうだ。


 しかし誰でもいいわけでもない。

 選別理由でこのデカッ鼻を納得させなきゃならんのだから。


 ――よし、まずコイツ。


「スーラ……で、ございますか?

 こやつは最弱種族のスライム種ですぞ?」


(だからいいんだよ)

「構わぬ。有能であれば種は問わん」


「し、しかし、こやつに何が出来るのか……」


 それは俺も知らないが、とりあえずステータスにある能力でゴリ押すしかないな。


(擬態が使えるじゃないか。これでだまし討ちさせればいい)

「姿を偽り油断させよ。暗殺に適しているではないか」


「さ、さすがは魔王様でございまする。

 このジョルジュ。そこまでは考え至りませなんだ」


 意外と単純だなデカッ鼻よ。

 この分なら次も余裕か?

 そして俺は、次の候補を指差す。


「ロッグン……。

 力自慢の岩男ではございますが、どうにも鈍臭く、鈍重なモンスターで……」


(長所があればそれでよし)

「器用貧乏であるより、一芸に秀でたものこそ我は求むるのだ」


 翻訳君も絶好調だ。

 ちょいと無理もあるが、なんとかなりそうだな。


(最後はこいつ)

「第三軍はこやつに任せる」


 俺が指差したのはロッグンの友達らしい岩男。

 プロフィールに友達の推薦と書いてあり、明らかに無能っぽい雰囲気を醸し出している。

 だがデカッ鼻が、さすがにそれはと生意気にも反論してきた。


「それではバランスが悪ぅございます。

 差し出がましいとは思いますが、せめてこちらの者などいかがでございましょう」


 シャッサ?

 聞いたことのない名前だが、ガルーダ種か。

 まぁあまり否定しまくってもデカッ鼻の鼻が折れるわけでもないし、多少は顔を立ててやるか。

 こういう気遣いが良い上司の第一歩だしな。


(それでいいぞ)

「良いだろう。

 ではそのように計らうがよい」


「ハハッ!」


 こうして、恐らく魔王軍の歴史の中で、最弱の編成が出来上がったのだった。



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