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第19話 「スーラは母性に目覚めた」

 茫然自失の勇者をそのままに、魔王城へと戻ってきた俺。

 さっきのはどういうことだと、シス子を問い詰める。


 ――だが、シス子はすぐさま休眠状態に入ってしまった。

 身体を動かせるのは一瞬で、それでもかなりの力を消費するためその後休眠するのだそうだ。


 ハンッ!

 体よく逃げただけであろうが!


 一瞬とはいえ身体を操れることに、怒りとともに薄ら寒い感情を覚える。

 しかし何度問いかけても応答がないので、諦めて勇者がどうなったかに注目することにした。


 水晶の中。

 一度は殺せとまで息巻いたが、今更になって恐怖がぶり返したのだろう。

 泣きながら、トボトボと雪の国へと向かっているところであった。


 そうしてようやく雪の国へ到着すると、そのまま宿屋へ直行。


 んー、あれはダメかもしれん。

 瞳には光が戻らず、自信を失いボーッと天井を眺めていやがる。

 いつもの活発な姿とは似ても似つかない痛々しい姿。


「ヒョッヒョッヒョ。

 今なら勇者を倒すのもわけはございませんな」


 俺が勇者を取り逃したことで、第二軍団の失敗が帳消しになったとでも思ったのか?

 立ち直ったデカッ鼻がニヤニヤと近付いてきた。


「さっそく刺客を差し向けましょうぞ。

 今手の空いているものですと、スーラがよろしいかと。

 あの状態であれば、得意の擬態で近付き暗殺するのも容易かろうと存じます」


 俺が苛立っているのが分からんのか?

 空気の読めない緑顔に、思いっきりダークサンダーをお見舞いしてやる。


 しかし、スーラか。

 勇者を慰める役にもってこいだな。

 もう一度スーラに勇者を慰めさせ、ついでにデカッ鼻の失態ということにすれば一石二鳥じゃあないか!


 しめしめと、ダークサンダーを止めてデカッ鼻に命じる。


(お前の言う通り、スーラを出撃させよ)

「ジョルジュよ。貴様の進言を受けよう。

 スーラを出撃させよ!」


「ハハッ!」






 翌日。

 さっそく勇者の元へと赴いたスーラは、未だに部屋の中でボケーッとしている勇者を抱きしめていた。

 そうして、ゆっくりと話を聞いてやる。

 この魔王軍で、唯一の適材適所である。


「そっかぁ。

 それでサラサちゃんは自信を失くしてしまったのねぇ」


 いつのまにやら名前を聞き出し、気安く呼ぶスーラ。

 呼ばれたほうのサラサも悪い気はしないどころか、嬉しそうに抱かれるがままになっていた。


「じゃあ、もう戦うの止めちゃいましょう?」


 うぉいっ!?

 どうしてそっちにいくのか!


「代わりにママが、魔王なんてやっつけてあげるわぁ!」


 芝居とはいえ、「様」をつけないことを躊躇わないのな。

 ……本当に芝居か?


「ダメだよママ!

 魔王はすっごく強いの!

 ママが死んじゃうよ!」


 スーラを見上げ、必死に説得するサラサ。

 それを微笑みで受け止め、スーラは髪を撫で付ける。


「サラサちゃんが無理をしたり死んじゃったりするほうが、ママは悲しいわぁ」


 だがサラサは首を振る。

 空元気だとしても、その瞳には光が戻りつつあった。


「それでもわたしが戦うよ!

 だってわたしは勇者だもん!」


 よく言った!

 それでこそ勇者だぞ!


 見事勇者に戦う意志を取り戻させたスーラだが、なぜか悲しげにサラサを見つめる。

 こいつ役に入り込みすぎだろ……。


「そっかぁ……。

 でも、今日だけはママにいっぱい甘えていいからねぇ」


 そう言って勇者の頭を膝に乗せ、優しく見下ろすスーラ。

 安心しきったように、サラサは眠りにつくのであった。





 翌日。

 魔王城にスーラがやってきていた。

 見事に任務を果たした報告かと思っていたのだが、ズンズンと足を踏み鳴らし様子がおかしい。


「うちのサラサを苛めないでくれません!?」


 えぇ……。


(うちのて……)

「何を言っ、あれは勇者で、えぇ……」


 あ。翻訳君すらも諦めた。


「いいですか!?

 うちの子はとっても良い子なんです!

 もう二度と近付かないで下さ……ちょっと聞いているんですか!?」


 遠くを見つめながら思う。

 あぁ、これが本当のモンスターペアレントかぁ、と。

 その後延々とスーラに説教され続けたが、我慢の限界と魔王チョップを食らわせてやった。

「けぺっ」とうつ伏せで倒れるスーラを横目に、最近魔王の威厳がなくなりすぎだと嘆く、魔王様なのであった。



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