第13話 「勇者、船を欲しがる」
水晶の向こう側。
海沿いの城下町で、勇者はうろうろしていた。
あのスーラ誘拐茶番劇から幾日、戦う力を取り戻した勇者は順調に旅を続けていた筈だが、はて?
「すまねぇなぁ嬢ちゃん。
南へ向かう海にはモンスターがうようよしてるってんで、定期便も止まっちまってるんだ」
やっとの思いで幼女が男に話しかけたが頼みを無碍にされ、またしょんぼりとうろうろ。
小生意気な人間め。消し炭にしてやろうか?
しかし今の会話で分かった。
なるほど、勇者は南の大陸へ渡りたいと考えているのか。
今いる田舎城とは違い、南の大陸は随分と栄えていると聞く。
となれば、そこで武器防具を揃えたり、強いモンスターを倒したり、情報を集めたりするのだろう。
立派に冒険者をしているじゃないかと、幼女の成長に嬉しくなるぜ。
今度は鍛冶大工の店へ、茶色い髪を跳ねさせながら小さな冒険者が入っていった。
船が出ていないなら買おうということか?
だが手持ちでは到底足りず、またしょんぼりと店をあとにする。
船か……。
確かうちの海軍で、最新式の船を造ったという話を聞いたな。
『ビービー。
ダメです』
まだ何も言っておらんが?
『ではどうするおつもりですか?』
船を勇者にくれてや――。
『自重しなさいロリコン大魔王さま』
……ねぇねぇシス子。
最後に「さま」ってつければ許されると思ってるの?
君に実体があれば、今頃灰になってるよ?
『失礼しましたロリコン』
うぜぇ……。
悪化してんじゃねぇかポンコツが。
しかしただで船をやるというのは無理があるなと、俺も思っていた。
わざとらしくなく、自然に勇者に船を渡す方法……。
(デカッ鼻)
「ジョルジュよ」
「はっ!」
天井に隠れていたのか、スッと上から降ってくるデカッ鼻。
鳥頭逃亡事件から立ち直りつつあるのか、生意気な行動が目に付くようになってきたな。
また失態を犯させる方法も考えなければならんが、今はそれどころではない。
ダークサンダーを食らわせつつ、俺は話を進める。
(あの城へと攻め込むぞ)
「勇者がおる城を攻め滅ぼす。支度をせぃ!」
ビリビリと痺れていたデカッ鼻が、それでも満面の笑みで顔をあげた。
目をキラキラさせ、数本となった髪をぴょこぴょこさせるのが腹立たしいので、ダークサンダーの火力をあげてやる。
「つつつ遂にににに人間共をほほほ滅ぼすためにうううう動くのででででごごごございますねねねね!!」
プスプスと身体から煙を出しながらも喜色満面のデカッ鼻。
実に聞き取り辛いので、一度ダークサンダーは止めてやろう。
(そうだ。船を使って海からせめろ)
「船を使い、海から奴らの顔を恐怖で染め上げよ!」
「なるほど!
攻め滅ぼすと同時に、我が海軍の技術力も誇示するのでございますな!」
(分かっているじゃないか)
「分かってきたなジョルジュよ」
「では船に乗せるモンスターは、デーモン、デビルドッグ、ライガンなどの強力な――」
(ダメだ)
「何も分かっておらんなジョルジュ!」
一度褒められ調子に乗りかけるところを、即座に否定して叩き落してやる。
興奮していた緑顔が、みるみる萎んで気持ちいい。
そろそろストレスで残りの毛も抜け落ちないかと期待しているのだがな。
「で、ではどのように……」
(乗せるモンスターは雑魚ばかりで構わん)
「乗せるのは下級モンスターで良い。
そうでなければ全滅させてしまうであろう?」
俺の意を正しく翻訳君が汲み取ってくれた。
シス子とは違い、こっちは以心伝心になりつつある。
「と、申しますと?」
(せっかくの船の性能を、人間どもに広める役が必要ということだ)
「あえて生き残らせ、我が軍の技術力の高さを広く知らしめよ」
上手い口実に、合点がいったとデカッ鼻が手を叩く。
コイツは本当に単純だな。
「ではそのように致します!」
――数日後。
攻め込んだモンスター軍は、目論見通りに勇者が撃退していた。
こちらの想定よりも被害が少ないとデカッ鼻が喚いていたが、俺は勇者の成長を実に喜ばしく思う。
だが目論見とは違い、攻め込んだ際に用いた船は国に接収されてしまっていた。
素晴らしい性能なので研究するとのことだ。
我が手のひらで上手に踊らぬ人間共に苛立つが、しかしモンスターを退けたということで勇者には褒美が与えられた。
その金でみすぼらしいが船を手に入れ、船体に頬ずりする幼女を見ていると、これで良かったとも思える。
『さすがはロリコン大魔王ですね』
わざとらしい警告音すら出し忘れてシス子がなにやら言っているが、そんなことも気にならないほど俺は満足していたのだった。




