Part2
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「艦長。新城美奈さん、乗艦しました」
メインブリッジに当たる、SMC(ship's mission center)の広々とした中央作戦室を見下ろす、司令スペース―その艦長席に座る敷島は、報告を聞いて内心胸をなでおろした。
予定していた艦との合流が果たせず、装備人員共に不足。更に急な要請や変更が相次ぎ横須賀到着までトラブル続きの航海だった。僅かなことでもスムーズに進むと安心できる。
「しかし、新城議員はなぜ急にお子さんを連れてこいと? 軍艦に乗せ危険な目に合うかもしれないというのに」
横の席に座る副長である加藤が、呆れ返った口調で呟く。
「まさか、クリスマス休暇を一種に過ごしたいから……何てことはないですよね」
「副長、私は新城議員とは古い付き合いだが、そのような私情で軍を動かすような人ではないよ。
……それと、軽率な発言は立場上弁えたまえ。新造艦でクルーも不慣れなところにこの人手不足だ。些細なことでも火種になりかねん」
敷島に釘を差される形になった加藤は表情を固めた。
「……失礼しました。以後気を付けます」
加藤はまだ若いものの優秀な副官と言える。だがその副長の任を過度に気負いすぎているのを、敷島もこれまで何度か感じ取っていた。
―私が副長の頃はもう少し気楽にやっていたものだがな……自身を思い返し、敷島は密かに苦笑した。
「新城美奈さん……か」
モニターに映る美奈の、少し緊張した横顔を敷島は感慨深げに見やった。
美野里に案内された部屋を見渡す。本来幹部用の部屋だということで、想像してたよりもずっと広く立派だ。
持ってきたキャリーケースを一旦横に置き、ベッドに腰掛ける。
僅かな時間にいろいろありすぎた気がする。
一人になった途端急に疲れとほんの少し不安と寂しさを感じ、美奈はそのまま仰向けにひっくり返った。
新品でピカピカの天井まで真っ白で、本当にここで眠れるのか今から少し心配だった。
「敵影だと?」
報告を受けた加藤が怪訝な声を上げる。
「10機前後の反応あり。このままの進路だと会敵します」
「こんな日本近海でか。まだ小笠原も抜けていないんだぞ」
作戦室がにわかにざわめいている。確かに太平洋のど真ん中ならまだしも、こんな基地近くの日本近海でしかもまとまったドレッドギアとの遭遇は敷島もここ数年記憶にない。
「詳しい情報がいるな……偵察機、発進準備」
ゲッコウの前部デッキから発進した無人偵察機は、すぐさま敵の影を捉えた。
「人型10。飛行型はなしか…」
「ミサイルで進路誘導を試みましたが進路に変更なし……会敵予想は20分後です」
手元パネルの情報を睨みながら敷島は考えを巡らせる。この位置ならば横須賀基地からの航空支援もぎりぎり受けられる。無理に進路を変えれば背後を突かれる危険性も高い。
何より敵がこちらを補足して明確に向かっているのが気になった。
「迎え撃つぞ。コンバットシステム起動。火器管制オンライン。支援戦闘機及びウォーフリートも発進準備にかかれ」
「了解しました。総員、戦闘準備!」
加藤が檄を飛ばすと同時に、中央作戦室が一気に喧騒に包まれた。
艦内に響き渡る警報に美奈も跳ね起きていた。
一体何が起きているのか困惑していると、美野里が飛び込んできた。
「ごめんね、美奈ちゃん。これから敵との戦闘に入るわ」
「え!?」
「初日から怖い思いさせちゃって本当にごめん。でもここはこの艦で一番安全な場所だから……もし心細かったらそこの通話機で呼んで。何があってもすぐに来るから」
優しく微笑みながら告げる美野里を見ていると、不思議と恐怖心が和らいでいた。
「わかりました、平気です」
それを聞いた美野里の表情がぱっと華やぐ。
ああ……単なる仕事ではなく、この人は本当に自分を心配してくれているんだ……美奈は直感的にそう思えた。
「ありがとう……じゃあ行ってくるね。終わったら鷹野中尉も誘って一緒に晩御飯食べましょ」
そうして顔をあげると、美野里はすっかりPRAFの真木准尉の顔付きになって部屋を出て行った。
その様子を見て、美奈はほんの少し心が高揚するのを感じていた。