姑息な手
今の洋也は鏡面ならどこへでも入れる。
ただ、現実世界でのその場所を認知できなければ虚空が広がるだけだ。
だからこそ、瀬川のいる部屋を見て退き、鏡面世界のそこへ来た。
扉は、開いていない。
だが問題はない、扉ごと潰してしまえば。
刃の力と風の力を合わせて扉を吹き飛ばす。
すぐに入り、扉は現実世界の形状に則して戻る。
鏡面世界の瀬川のいる部屋には人が入れる鏡面は、ある。
洋也はそれを認知している。
壁の一部の銀板、少し奥にあったがそこへ風を打ち込むことは容易であった。
刀を媒介に突きの形で打ち込んだ。
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―――何が起こった?
瀬川はコンダクターに踏みつけられ、ひれ伏す。
そんな中でなぜ自分の銃が手元から離れたのか、を考える。
何によってかはわかっている。
風だ。
だがここは地下の密室、風が入り込もうにもそれほどの突風が吹き荒れることなど自然にはあり得ない。
だとすれば、コンダクターの仕業か
瀬川はそれしか考えられなかった。
「さて、どう痛めつけてやろうか」
「待て、交渉の余地をがああ!?」
「殺そうとしておいて、命が惜しいかこの屑がぁ!」
支配結界を展開したまま、ボロボロの瀬川の腕の骨を粉々に砕く。
「がはああ!いだい!やめろぉ!」
「やめてください、だろう!」
そんな最中に洋也がとこからともなく出てくる。
「コンダクター、嬲るのは止しておけ」
「貴様に従う気はない、それともこの男の肩を持つか?」
「そんなつもりはない、ただ事を収めるにも時間が惜しい、手っ取り早く済ませよう」
「そ、そうだ、話し合いの余地を」
「首を掲げて晒せば連中も黙りこくるだろう」
「ひぇ!ガキ、俺がテメエにした恩を忘れたか!」
「ああ、そういえば自販機でコーヒー買ってくれたんだっけ、忘れた」
「覚えてるだろテメエ!しかもそんなちっせえ恩じゃねえぞ!」
騒ぎ立てる瀬川に洋也は適当に答える。
「おい大丈夫かよ、あ、成功したみたいい゛!?」
扉が開かれ、紅一郎が出てきた瞬間、巨大な鞭がそこに立っていたものを壁面へ叩きつけた。
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木々に囲まれ、御行と御円は己の刃を向け合う。
「我らの弊害、吸血鬼に与したものは例外なく処刑である、貴様も御会であるのならわかっているはずだ!」
「だから吸血鬼に協力してるわけじゃねえっつってんだろうがアホ!」
幻想の火炎を発生させ、火球として投射しながら御円は手に持つ短剣を突き刺すように振るう。
火球で視界を遮ったところで御円の短剣が襲う。
不意打ちに近いこの戦法を御行は苦手としていた。
どこを防げばいいかわからない状況は無暗に突っ込んだら相手の思うつぼだ。
だからこそ、御行は火球を本物の火球とみなして避ける。
御円の位置を把握しながら間合いを空け、斬りかかるタイミングを計る。
その最中、唸り声が聞こえた。
火球を避けた先にはその声の主、狼が牙を向けていた。
御行は狼狽えず、刀を狼へ振るった。
狼は吹き飛び、木々の影へと飲み込まれていった。
「相変わらずの馬鹿力だな、私が貴様を嫌う理由の一つだ」
「嫌われてたのか、ならこの戦いは私怨か何かか?」
「いや」
火球を投げながら御円は言う。
「侵入者の処刑だ」
銃声が聞こえた。




