天使の欲
談話室にて、3人と、老人とその隣に座る男とがソファーに座りテーブル越しに対面していた。
「以上の契約をしてもらうがよろしいか?」
「役目は果たすつもりです、我々は傭兵ですから」
スーツを着たリーダー格の男が自信ありげに応える。
「そちらのお二方も了承願う」
老人は頭を下げる。
リーダー格の男をはさんだ男女へ。
「・・・」
「正直なところ、報酬はもうちょい上乗せしてほしいかなぁ!」
女の方は無言で頭をさげるが、男の方は不満気に態度を荒上げる。
ジーパンにジャケットを着た今時の若者らしい若者だ。
「理由を聞こう」
「こちとら命削ってるわけ、そんでもって死と隣り合わせ、ハイリスク&ハイリスクなの、リターンは2倍でないとおかしいわけ」
「働き次第、ではダメかね?」
「俺らの力を使うことは確定してんの、保険を掛けてほしいの」
老人の隣の男が静かな怒り顔で机を叩く。
「貴様、我々がピースメイカーであることを分かってて言っているのか」
「ああ、経費が少ないからって渋るのはなしだ、自腹切ってでも払わなきゃ、少なくとも俺は降りる」
そう吐き捨てて、ソファーから立つ。
「まて」と老人の隣に座る男が言った。
「御切、と言ったな」
「ああ」
男は御切に向かってにらみつける。
「団体の総意に従えんような御会の人間は生きていても仕方がなかろう」
懐から何か取り出すようなしぐさを見せると老人がその手を抑える。
「よせ」
「はは!言うことを聞かなければ力を持って制す、身内を傷つけられるピースメイカーならではの行動だな、まるで野蛮人の発想だ」
「馬鹿にするのもいい加減にしろ、低俗な」
「いいよそれで、別に低俗が悪いことではないし、高貴でありたいだなんて思ったことはない」
男が今にも噛みつきそうな表情で微動した瞬間、老人が力強くその肩を掴む。
「御切殿、ここは感情論を述懐する場ではない、どうか座って話を聞いてほしい」
「聞く気はあるよ?ただそこの無礼な輩が僕のやる気を削いでる、それだけ」
「クレイグ、今は気を静めて協力体制を万全にすべきだ」
「・・・わかっている」
老人に諫められ、クレイグは怒りを抑えて手を膝に乗せる。
「さすが、支部長、いや副支部長だっけ?話の分かる人だ」
機嫌を直した御切はソファーに座りなおす。
「あんたの落ち着いた対応に免じて今の額の1.5倍、それでいいだろう」
「貴様!」
「分かった、それで契約だ」
クレイグが文句を言おうとしたところを老人の言葉が遮り、事を収める。
「では、早速任務に当たってくる、行くぞ」
リーダー格の男が二人を率いて退室していく。
残された老人と隣の青年、青年の方は苛立っていた。
「お前の不用意な発言には困ったものだ、私以上に感情的ではないか」
「奴の無礼な態度に腹を立てるのは、社会に生けるものとして当然ではないか」
「少なくとも上司である私の指示は聞け」
荒んだクレイグの様子を見て老人は滑稽だと思うほかに必然性を感じていた。
教会の身なりこそ立派だが、その人員は不足している。
対抗するアナイアレイターとは同じ土俵には上がれないほどの財力だろう。
「それで、君の連れていた彼な」
「何か不服か?彼はデコンポーザーとの戦闘中に水を差した、拘束するには十分な理由だろう」
「いや、そうではなくてな」
「それとも拘置所があるのか?この貧乏な支部に?」
「あれは私の従弟だ」