見舞いついでに
「その様子じゃ、気を使う必要はなかったかもな、ほれ見舞いの品だ」
「・・・果物って結構メジャーだけどよ、どう切るんだ?」
洋也は病院へ行く前に買って来た果物セットを紅一郎に渡す。
しかし刃物はない。
「しまった、忘れていた」
「おいおい、俺に丸ごと食えってか?リンゴならまだいいけどよ、メロンとか食えねえぜ?」
果物の中でも一際大きいメロンを手に取る。
「ちょっと待て、今斬る」
「?どうや、えぇ・・・」
切る方法を問いただす前に洋也は手刀でメロンを切り裂いた。
紅一郎の口が空いてふさがらない。
「前から聞こうと思ってたけど、その手品はどういう仕組みなのかしら?」
洋也の持つ刃のない刀、それが切れる原理と同一のものだとサクリファイスは推測し問いただす。
「俺も知りてえよ、あと切り口雑過ぎない?」
サクリファイスの問いに紅一郎が便乗する。
メロンの果汁をベットの毛布に滴らせながら。
「よくは知らないが、ある程度察しはつく」
「どんな?」
「倒した吸血鬼から能力を吸収してるようだ」
サクリファイスと紅一郎の頭上に疑問符が浮かび上がる。
理屈も屁理屈もないことを聞かされればそんな反応も当然だろう。
「ええと、つまりそれは≪斬撃の支配吸血鬼≫なるものから手に入れた力ということかしら?」
「そうかもしれない」
洋也は、あくまで推測の域でその答えを肯定する。
「しかし吸血鬼と戦うのは初めてと言ってなかったかしら?」
「おそらく、吸収できるのは死体型からだろうな」
「つか、んなこと病院で話すことか?」
「聞いてきたから答えてるだけだろうが」
話題を切り替えようと紅一郎が横槍を入れる。
「そうだ、紅一郎」
だが洋也は切り替えても己のペースを貫く。
「何だ?辛気臭いことは勘弁だ」
「悪いがお前の意に沿えない提案だ」
洋也の淡々とした物言いに紅一郎は落胆する。
「攻撃部隊を抜けろ、お前には合わない」
洋也のその一言は、紅一郎の怒りを焚きつけた。
「・・・確かに、このざまじゃあしばらくはピースメイカーの活動は出来ねえな」
と思ったが、すんなりと洋也の言葉を飲み込んだ。
「だから俺、山篭りをしようと思うんだ」
「は?」
サクリファイスは目を点にする。
「そうか、そう決めたのなら、死なない程度にがんばれ」
「ちょっと、待ちなさい、話が突飛すぎるわ」
洋也と紅一郎、幼なじみの独特のノリで、サクリファイスは会話の流れが理解できなかった。
「何が?山篭りするのに捕捉が必要か?」
「鍛えるなら別にここでだってできるでしょう?なぜそんな古典的な方法を」
「なんだ?サクリファイスちゃんは俺にここにいてほしいのかな?」
軽口を滑らすと紅一郎の枕の端に深紅の斧が突き刺さる。
咄嗟に謝罪の言葉が紅一郎の口から流れ出る。
「ももも申し訳ないサクリファイス様、舐めた口をききました」
「あなたがいようがいまいが関係ない、私は疑問を晴らしたかっただけ」
「お、おう、その疑問の答えはだな、俺に合った方法だからだよ、町に囲まれた状況じゃあ集中できやしねえの」
サクリファイスは、怒りを抑え、斧を血液に戻す。
シーツに血液のシミが残った。
「おいおい!これ取れんの?」
「心配しないでいいわ、いざとなったらすぐ取れるから」
紅一郎が血のシミをとろうとシーツを引っ張り、洋也とサクリファイスは病室の出入り口に足を向ける。
「達者でな」
「まあ、生きてたらせいぜい役に立ちなさいな」
「ちょいと辛辣じゃない?」
せっせと二人は病室を後にした。
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「でも山篭りはやっぱりおかしいわ」
「俺からすれば、君のような吸血鬼の存在はみんなおかしいと思うよ」
何気ない会話で廊下を歩く二人。
そんな会話をしていると看護師に怒られたりして無言になる。
ぞろぞろと歩いているとある病室を通り過ぎる。
気になった二人がそろって後退してその病室の患者名を見た。
{清宮敦}
「サクリファイス、一つ質問する」
「何かしら?」
「この患者は前からいただろうか?」
「いたわよ?前来たときも、しかし清宮って苗字は同姓の別人かと思ったけど、怪しくなってきたわ」
「・・・なるほど、キミはとぼけ過ぎで、俺は周りを見ない節穴野郎だ」
自虐の念を胸に、洋也はその病室の扉を開けた。




