鎖国
吸血鬼の死はストリガの生誕。
洋也の突き刺した吸血鬼の体は鏡のように砕け、その破片が2階吹き抜け部分に集まり、ショッピングモール中の銀やアルミを集め、やがて凶悪な表情をした蛇となる。
「先ほどよりは戦いやすいな」
「待ちなさい、一旦身を引くわよ」
撤退を提案すると同時に洋也はサクリファイスに襟元を掴まれ、ホール部分から逃れる。
勢いよく走りだして洋也の体が浮かぶ。
「なぜ逃げる?俺たちなら造作もないだろう?」
「馬鹿ね、こんな時こそ応援を呼んで楽に倒すのよ」
「吸血鬼っというのは慢心する生き物だと思っていたが」
「あんな馬鹿どもと一緒にされては困るわ、まずは退路を確保しなさい」
洋也は意外だと思う反面納得し、自分の足で走り始める。
「では、助けを呼ぶとしよう、あー、聞こえるか?こちらB班」
インカムを操作し、助けを呼ぶ。
『あ、洋也君?今そっちに向かうから待ってて』
応答したのは、杏花だった。
「気を付けてください、いきなり目の前にストリガがでるかもしれません」
『大丈夫だよ、多分』
無線での会話はここで終わる。
「さて、俺たちのすべきことは」
「逃げる、隠れるのもいいわね」
「・・・もうすぐそこに来てるいるが」
「あら?」
洋也たちの後方にはまるで新幹線のように直進する大蛇がいた。
「あなた遅いのよ!」
再び襟を掴んで加速する。
つままれ、後方を睨んだままの洋也は刀を振るい、風の刃を大蛇の顔面にぶつける。
その痛みに震える叫び声は蛇のものではなく、金属のぶつかり合うで表現された。
距離が縮まる。
どうやら怒らせただけのようだ。
足止めしようかと思ったが逆効果のもよう。
「サクリファイス、エントランスに出たら飛んで二階へ上がってくれ」
「それはお願いとして受け取るわ」
いざ、エントランスホールに出るとサクリファイスは翼を展開し、2階へ跳ぶ。
洋也は刀を地面へ向けて振るい、風を引き起こして跳んだ。
2階へは行けたが着地は不完全で、肩から落下。
「早くしなさい」
すぐさま立ち上がり、サクリファイスの差し出すその手を取る。
駆けだしたときには大蛇のストリガは激流のように体くねらせ二階へ上がっていた。
洋也は目前に迫る大蛇から逃げきれないと察し、サクリファイスの手を離す。
振り返り 大蛇に立ち向かう。
「先に行ってくれ」
「命令は聞かないわ」
「お願いだ」
サクリファイスは足を一度止めた。
だが強固な洋也の意志を曲げられはしない。
「・・・勝手に死ぬことは許されないわ」
そう言って、逃走を続けた。
洋也はサクリファイスの言っていることは理解できなかった。
死なないはずの自分を、何故死ぬなと案じるのか。
そこに思考のリソースを割くのは瞬時にやめた。
凶悪な敵がそこにいるのだから。
正面からの突進に洋也は避け、大蛇の右頬から刀で激流に逆らって切り裂く。
小回りの利かないその長い胴体回りの皮は決して分厚くはない。
なのになぜ何ともないよう進行していくのか。
切り裂いているとその疑問は晴れた。
大蛇の側面からは分岐した小枝のような蛇が数十体ほど生えている。
すべて洋也を睨み、食らいつかんばかりの大口を開けている。
だからどうしたと、洋也はそのまま刀で裂くのを止めない。
根元から断ってしまえば関係ない。
自身の身の安全など二の次、ただこの大蛇に三度目の死を与えるのが第一だった。
蛇の群れへ突っ込んでいくと蛇の胴の長さ分近づけば皮膚を牙で貫かれる。
毒蛇かもしれない、という予感はない。
鏡で構成された体に毒性があるとは考えにくい。
噛まれたことを気にせず蛇を大蛇の胴体ごと切り裂く。
だが蛇の位置は一直線上にはなく、洋也が走る速度と逆方向の大蛇の進行速度で胴の斬り込む位置を調整できない。
吸血鬼でない洋也の動体視力では捉えきれないのだ。
噛みついた蛇の咬合力は強く、走る洋也を引き止めるほどだ。
刀は止まり、洋也は蛇によって地から引き上げられる。
「くっ!」
刀を大蛇の胴から抜き、蛇を切り裂こうとしたとき、大蛇の進行方向が微妙にずれた。
その感覚に気づいと同時に、鏡の抜けた柱が胴から突き出た洋也に迫っていた。
「がぁ!!」
その柱に蛇ごと左半身がぶつかり、洋也は解放された。
痛みにはなれないようで、左半身が痺れる。
床に倒れ、悶えるがそれも数秒、洋也は立ち上がり反撃しようとする。
が、その数秒で大蛇の尾を見送ることになった。
追いつけないと諦めて洋也は次の対策を講じようと杏花と連絡を取ろうとする。
幸いインカムは無事なようだ。
「会長、応援はまだですか!?」
『う、ごめん、これどうやって鏡の中に入るの?触れても何ともないんだけど』
「なっ!?」
そんな馬鹿な、と洋也は周りを見渡して気づく。
鏡がない。
鏡があの大蛇を構成しているため、出入り口として機能しなくなった、と推測する。
『私たちも何とかしてみるからそれまで耐えて』
「・・・期待しないでいます」
苛立ちを込めた一言を送り、無線を切る。
あの大蛇は二人だけで倒すしかない。
緊張感が高まっていくと同時に、洋也の刀を握る力が強まる。




