革命
鏡の世界、反転したショッピングモールの二階では紅と銀色の光がぶつかり合う。
サクリファイスは硬質化した血の剣を両手に、鏡の吸血鬼の投げる生き物のように動く鏡の破片を捌く。
ただし、サクリファイスは防戦一方ではなく、鏡の吸血鬼へ接近。
圧倒され、窮地の脱するために鏡の吸血鬼は散らばる鏡の破片をかき集め、大質量・高密度化する。
形成されたのは槍、サクリファイスを穿とうと鏡の吸血鬼の手元から離れ発射される。
勢いよく向かっていくサクリファイスはその槍に激突、はせず、数センチのところで火花を散らして拮抗状態になる。
手の空いた鏡の吸血鬼は数個の鋭利な鏡の破片をホーミングレーザのように左右から射出してサクリファイスを射抜こうとする。
が、槍と同じように火花を散らして硬直。
「同じ吸血鬼との戦いというのはどうもやりにくいわね」
瀬戸際にあるサクリファイスは自分が不利であることを口にする。
途端、槍と破片との距離が数ミリ縮まる。
「あら、慣れていないのなら白旗を上げていいのよ?」
「それはこっちのセリフよ、跪きなさい」
「この状況をみてそんなこと言うのは命乞いにしかきこえないわぁ~」
確かに状況はサクリファイスには不利、しかし様子は極めて冷静で、動揺は見られない。
鏡の吸血鬼がそれを疑ったのは、サクリファイスが次の行動に出る直前だった。
サクリファイスは血の剣を液状化させて捨て、一瞬で太もものホルスターから拳銃を取り出した。
間髪入れず銃弾は鏡の吸血鬼へ発射。
反応の遅れた鏡の吸血鬼は、鏡の破片を宙へ舞わせてその勢いを削いでいくが、止まることなく、吸血鬼の肩を貫いた。
その瞬間、鏡の破片らは重力に従って一階床に散らばる。
「ぐっ!?」
「接近戦だけが私の取り柄と思っては困るわ」
鏡の吸血鬼も銃の存在を忘れていたわけではないだろう。
この戦闘の口火を切ったのはサクリファイスの銃なのだから。
ただ、サクリファイスが接近戦ばかりを挑んでいたため、警戒を緩めていた。
ついでに言うのなら、吸血鬼狩りのスタンダードな銀製の弾でなかったのが効いていた。
銀であったたのなら、鏡と同質のものとして操られていただろう。
「すっかり忘れてみたいね、三歩歩いて忘れる鳥頭なのかしら」
仕返しのごとく皮肉を返すサクリファイス。
しかし、そう慢心している時間こそが、仇となった。
鏡の吸血鬼が即座に体勢を立て直し、細やかなガラスの破片たちを操りサクリファイスの退路を塞ぐ。
「・・・余裕を持ち過ぎたわ」
「あっはっはっは!!いいえ、あなたは何も間違ったことはしていないわ、慢心こそ私たちの本質よ!」
再び膠着状態、状況的にはお互いに分が悪い。
支配吸血鬼の『結界』、通称支配結界。
この世界に入った瞬間からサクリファイスが展開していたものだ。
特定の物を支配できる空間であり、サクリファイスは血を操っている。
こうして鏡の破片を防いでいるのも支配結界の力。
もちろん、いつまでも展開していられるはずもなく、鏡の破片が揺れ動いているのを見るに結界の形がところてんのように歪んでいっているのだろう。
となれば、結界を解除するタイミングと次の行動を思案しなければならない。
一瞬で腹を決めたサクリファイスは血の剣を形成し、結界を解除した。
一斉に襲い掛かる鏡の破片群に切り込みを入れる。
無傷で済むはずがなく、ピースメイカーの制服に鏡の破片が食い込む。
怯むことはない。
吸血鬼に痛覚はなく、恐れを抱きはしない。
それどころか出血した部位から血を吸い取って剣を強化していく。
対してその勢いに鏡の吸血鬼は恐怖する。
「ひっ!」
「何を怯えてるの?」
顔面にも破片が突き刺さったり、かすめたりしているせいで皮がはがれ傷が増えたりで人の物でありながら獣のような形相を見せながら超接近。
鏡の吸血鬼が感じた恐怖は、その面と己の身の危機からのものだろう。
サクリファイスの振るった剣は大質量で、鏡の吸血鬼を二階床へと叩きつけた。
腰から打ち、床は浅く砕ける。
「ちっ!」
焦るようにその場から飛びのいた鏡の吸血鬼、その姿にはあまり余裕が見られなかった。
「あら?慢心してこそ吸血鬼、じゃなかったのかしら?器じゃないわね、あなた」
「・・・黙りなさい!!」
吐きだした激昂とともに柱から生え出た鏡の触手がサクリファイスを襲う。
柱はサクリファイスの死角にあったため、触手への反応が少し遅れた。
かろうじて結界で防ぐが、触手はそれを貫いてサクリファイスの左胸部を大きく削りとった。
「油断ならないわね」
「もっと油断しなさい!そしてここで死ね!!」
鏡の吸血鬼が鏡の破片群を操り、ぶつけてくる。
しかし出血と共に強化されていくサクリファイスには単純な物理攻撃は効果が薄い。
血はサクリファイスの体内から出ては戻り、出ては戻りと繰り返す。
かといってずっとこのままでは再生分の血液が消費され、血液が枯渇する結末が待つだろう。
その時、プラスチック部分が削がれたインカムに、声が入った。
『サクリファイス』
「洋也、何をしているのかしら?主人に任せて自分は尻尾を巻いて逃げるだなんて」
『文句なら後で聞く、中央ブロックの1階床までそいつを誘い込め』
「何よそれ、私に命令?」
『くたばるのをお望みか?お嬢様』
「むかつくわね」
毒づきながらも剣の形を変化させ、三叉槍を作る。
空中から二階床に紅い目を光らせる吸血鬼に狙いを定め、Uの字に滑空した。
頂点部分を鏡の吸血鬼の位置に置き、そのまま突き刺す。
逃れることもかなわなかった鏡の吸血鬼は、手で押し出すか、そのまま鏡の破片で攻撃を続けるしか抵抗の手段がなかった。
「不可解なことを!」
「なら分からずに散りなさい」
サクリファイスは涼し気に言葉を投げつける。
洋也の言われた通りの場所へと、鏡の吸血鬼を運んだ。
一階の床、何の変哲もない場所、だが、そこは洋也の埋まる場所。
吸血鬼を突き刺したサクリファイスが目前に迫り、同時に床が砕ける
大理石の欠片は跳ね、出てきたのは刀。
刃のない刀は風を纏い、その切っ先を吸血鬼の心臓部へ、突き刺した。
「あ、ああああああああああ!!」
支配者は打倒され、革命の成功の感触をサクリファイスと洋也はその手に実感する。
断末魔と共に鏡の吸血鬼の意識は、闇へと飲まれた。
「・・アアアアアアアアア!!」
肉声だったそれは、やがて機械のような不気味な音とへと変化していく。
空になった器は中身を満たそうと、生理現象のごとく再起する。




