悪魔の住処
鏡の世界へ足を踏み入れたサクリファイスと紅一郎は、すぐさま構える。
「うお、まんまだ」
「敵の領域よ、気が散るからそんな悠長なことを口に出さないでちょうだい」
「ああ、そうだった」
サクリファイスに言われてさらに警戒レベル高め、紅一郎は聖術の剣を展開し、アサルトライフルを片手にそれぞれを持つ。
見るからに不自然な構えにサクリファイスが指摘する。
「それで大丈夫なのかしら?」
「反動が怖いけど、そうも言ってらんでしょうよ、早く行こうぜ」
焦るように早足になる紅一郎を、サクリファイスが服を摘まんで引き留める。
「待ちなさい、私の結界から出ない方がいいわ」
「結界?」
紅一郎は周りを見渡す。
「何もないけど」
「見えたら意味ないでしょ、支配結界を知らないの?」
「知らないけど」
無知をさらっと告白する紅一郎に、サクリファイスがため息をもらす。
「とにかく、私の近くにいることをすすめるわ」
「まあ、そうするよ」
紅一郎はサクリファイスが歩く後方を警戒することにした。
そして唐突に、何かがサクリファイスと紅一郎の近くで激突した。
ガラスの触手だ。
サクリファイスと紅一郎を囲う見えないバリアを破ろうと火花を散らしている。
「ちょ、超常現象、てかポルターガイスト!?」
〔あら、驚いてくれたかしら〕
紅一郎が驚嘆の声を上げているとどこからともなく声が聞こえた。
ショッピングモール全体に響く、アナウンスのような声が。
首を回し、周りを見渡す。
「どこからか声が」
「どうせ探しても見当たらないわよ」
〔ようこそ、私の国へ〕
サクリファイスたちの歩く方にある柱の鏡面からぬるりと鏡の支配者が現れる。
「次は、あなたたちね、迷える子羊ちゃんたち」
「私の契約者はどこ?まあ、言わなくてもいいけど」
「意気がらない方がいいわ、プライドを汚すだけだから」
「生憎、私のプライドはとっくに汚されてるのよ、こいつにね!!」
サクリファイスは腕の枷を振るう。
昼間に洋也がサクリファイスを転移させたように、サクリファイスもまた洋也を転移。
・・・することはなかった。
「・・・あれ?」
「何の儀式かしらぁ?」
何度も振るって見せるが洋也は転移してこない。
鏡の支配者は高らかに笑い、紅一郎はかわいそうなものを見る目になる。
「あははははっ!もう、お腹痛いわ」
「何がしたいんだ?」
「黙りなさい、洋也めぇ!」
諦めて、憂さ晴らしに両手に持つ拳銃を鏡の主に向かって撃つ。
不意打ちじみた銃撃に鏡の支配者は対応に遅れた。
一発丸々の銃弾を受け、もう一発をかすめた。
「っ!?」
「散々嘲笑を浮かべていた割には隙だらけね、それともこれも想定内かしら?」
「・・・ええ、いいわ、あなたは、もう戻れない」
鏡の支配者の静かな怒りとともに、背から銀色の翼が形成される。
サクリファイスも対抗して黒い翼を展開する。
二人が動き出せばその姿は消え、衝突の痕跡、即ち双方の得物のぶつかり合う音と銀粉が舞った。
そして、その痕跡を残しながら軌跡を描いて進行する。
「お、おいサクリファイス!」
残された紅一郎はサクリファイスに鈍足ながらもついて行こうとするが後ろから鋭利なものに掴まれ、方向転換させられる。
それは、山羊の耳を生やした醜悪な化け物の姿だった。
「うわなんだやめろごほぉ!」
化け物は紅一郎の鳩尾に拳を一発打ち込み、壁へと激突させる。
ひびこそ入ったが紅一郎の意識は健在だった。
「な、なんだよテメェは」
聖書や神話に興味のない紅一郎は気づかない。
山羊の姿が、悪魔の象徴であることを。




